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43.伝える



柔らかな体を抱き留める。


柑橘系のような爽やかな香りが鼻腔を擽った。武骨な騎士の塊の中で大車輪、埃まみれで働いていたマクシミリアンは余りの気持ち良さに眩暈を起こしそうになった。


そしてハッと気が付いて、抱き着いて来た肩を―――断腸の思いで引き剥がす。


すると見上げる銀色の瞳と、しっかりと目を見交わす事になった。ここ二日間筋骨隆々とした男ばかりを目にしてきた彼の視界にはその尊顔の麗しさは目の毒以外の何物でも無い。


「クラリッサ……汚れますから」


目を逸らしつつ、マクシミリアンは頬を染めた。


「会いたかったの」


間髪入れずにクラリッサが口を開いた。

彼女の声は何と涼やかで耳に心地良いのだろう―――マクシミリアンは呪縛されたように、その響きにいつも簡単に捕われてしまう。そして今も、渇望していたその柔らかな声を、いつまでも聞いていたいとつい願ってしまう自分を感じていた。


「―――ヴァルドールに発つ前に伝えたかったの」


その言葉の続きを問うように、マクシミリアンはゆっくりと視線を彼女の方へ戻した。紅潮して薔薇色に染まる頬、キラキラと輝く灰色がかった瞳……通常より簡素な、女学院の制服に身を包んだ彼女が―――何故だろうか、いつもより美しく彼には感じられた。


きっと綺麗な物を見る環境になかったから飢えているだけだ、その理由は自分の側のみにあるのだ―――そう、自重しようと思うのに、勘違いしたがる胸は早鐘を打ち始める。

ドッドッ……と熱い血潮が心臓から送り出され、全身が太鼓のように震えるのを、マクシミリアンは意識していた。


その麗しい顔に視線が釘付けになる。薄桃色の美味しそうな唇が開かれるのを、間抜けにもただ見つめる事しか出来なかった。




「好きなの―――マックスの事が好き!だからきっと無事に帰って来て……!」




驚きに言葉を発する事も出来ない。




(好き?好き……?クラリッサが……を?)




クラリッサの言葉を反芻し……肝心な意味が頭に浸透しないまま、マックスは彼女の顔を見つめ続けていた。それから数秒後、漸く全ての言葉が楔のように彼の心臓に打ち込まれた。




(えっ……お、俺……を?!)




「私なんかから言われても困るって分かってる。迷惑かもって思って、どうしても言えなかったの。貴方にはペトロネラもいるし……でもね、でも……遠くに行って、離れ離れになって万が一会えなくなってしまったらと思うと。どうしても伝えたかったの。お仕事だから行かないでなんて、口が裂けても言えない。でもこれだけは約束して欲しいの、私の事、友達だとしても大事に思ってくれているのなら―――必ず帰って来て。そして絶対、元気な姿をまた見せて欲しいの」


クラリッサの肩に手を置いたまま、茫然としていたマクシミリアンは、彼女の台詞を聞き―――パチクリと瞬きを繰り返した。それから口を開け……呆気に取られたように、また閉じた。


「ごめんなさい!どうしてもこれだけ伝えたくて。困らせたい訳じゃないの、でもきっと―――マックスなら、真剣に伝えれば笑い飛ばさないで話を聞いてくれるって思って……っ」




押し込めていた感情が怒涛のように体から噴き出した。

それは声にならずに、そのまま行動へと姿を変える。




「ま……マックス……!」




次の瞬間、マクシミリアンは無言でクラリッサを抱き締めていた。



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