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18.彼女の気持ち

「えっ……」


マクシミリアンは虚を突かれたように、隣にいるペトロネラを見下ろした。

ペトロネラはまるで自分に視線が向いている事に気付いていないかのように、ジッとホールで踊る人々を見つめ続けていた。


図星を突かれたマクシミリアンは、息を詰めて彼女の横顔を見守った。

すると少し遅れてゆっくりと……ペトロネラが彼の方を振り返る。


いつもホンワカと微笑んでいる彼女の表情が明らかに堅く張り詰めている。その真剣な眼差しに―――マクシミリアンの心臓がドキリと跳ねた。


「ペトロネラ様……」

「マクシミリアン様は……クラリッサ様の事を慕っておられるのでしょう?」

「それは……」


射るような視線から逃れるように、そっと目を逸らしマクシミリアンは答えた。


「どうでも良い事です」

「肯定されるのですね」


しっかりとした声で、ペトロネラが彼の台詞を翻訳した。


「―――俺がどう思うかなんて、意味の無い質問です」


マクシミリアンが追い詰められた子供のように話を逸らすと、ペトロネラはしたたかな一撃を与えた。




「それは―――身分差があるから、例え想いが通じ合っても結ばれる事が叶わないと言う意味ですか?それとも―――彼女が貴方を歯牙にもかけていないから、人に貴方の気持ちを知られるのが恥ずかしいと言う意味ですか?」




いつも柔らかに彼を迎えてくれる彼女の言葉が、その時鋭く研ぎ澄まされた刃物のように彼をグサリと貫くのを感じた。

マクシミリアンは痛い所を突かれて―――眉を顰めつつ「ハッ」と笑ってペトロネラを見下ろした。


「随分……辛辣ですね」

「貴方は―――何故、私をエスコートして下さるのですか?」

「え?」


突然話の風向きが変わって、マクシミリアンは気の抜けた声を出した。


まるで絵本の中から飛び出して来たような儚げなお姫様みたいなペトロネラ。

そんな常に優しい空気を纏っている彼女が―――いつも浮かべている微笑みを消し、表情の無い顔でこちらを見つめている。


それなのに今までで一番……血肉を持った現実の少女として、強い存在感を持っているようにマクシミリアンには感じられた。


「私は―――」


ペトロネラは一度言葉を切って、少し斜め上を見上げて言い替えた。


「貴方が私をエスコートして下さるのは、何故ですか?お姉さま方に言われたから仕方なく?」

「いや、それは……」


確かに最初はそうだったし、いつも切っ掛けは姉の指示だ。

けれどもペトロネラとは今ではすっかり打ち解けて、マクシミリアンにとって彼女は、数少ない一緒にいて居心地が良い存在じょせいの一人となってしまっている。勿論、見た目も小柄で可愛らしくて―――男としてこのような令嬢をエスコートできるなんて、この上なく恵まれた状況だと、いつもこの幸運に感謝している。


「確かに、姉に言われたのが切っ掛けですが―――俺もペトロネラ様をエスコートできる事を光栄に思っています」


それは彼の本心からの言葉だった。


真剣なマクシミリアンの声に―――ペトロネラは一瞬視線を彼に戻し微かに頬を染めた。口をパクパクさせ何かを言おうとして……それから、また斜め上の方に視線を戻す。


「でも―――本当に貴方がエスコートしたい相手は、他にいらっしゃるのでしょう?」

「……」

「私は、それでも……」


ペトロネラがクルリと後ろを向いたので、マクシミリアンは心配になってその肩に手を置いた。




「ペトロネラ様……」

「それでも―――嬉しかったんです」




ゆっくりと振り返った彼女の瞳から……堪えきれずに涙が溢れだした。




その時マクシミリアンは―――自分が犯した重大なミスに初めて気が付いた。




「貴方が誰を見ていても、傍にいられればいいって思っていました」




溢れる涙を拭おうともせず、ペトロネラはそのまま茫然と彼女を見守っていたマクシミリアンの胸に飛び込んで来た。

マクシミリアンはあまりの展開に、抱き着かれたままボンヤリと立ち尽くしてしまう。


「でも傍に居て―――話したら、笑い合っていたら―――ずっとこんな風に傍にいられるかもしれないって、期待してしまう自分がドンドン抑えられ無くなって。分かっていたのに―――マクシミリアン様が私の事何とも思っていないって……お姉さまに言われたから一緒に居てくれるだけだって分かっているのに―――親しくなって行くに連れて、それだけじゃないように錯覚してしまって……!」


突然小さな体から溢れだした激情の波に、マクシミリアンはのみこまれそうになった。

柔らかくて愛らしい健気な存在が自分の胸に縋りついているのを見ていると、どうしても―――切ないような感情が湧いて来て、その頭を優しく撫でてあげたくなってしまう。


思わずその背を抱き取りそうになって―――一歩手前でグッと掌を握り込んだ。


フーッと詰めていた息を吐き切り、体に籠っていた力を一旦抜いて……理性を総動員してペトロネラの両方の二の腕にそっと手を添えて……彼の胸に縋りついている小柄な柔らかい体を……引き剥がした。



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