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最強剣士の血風伝  作者:
四章
54/61

リュミエール軍到着

 東暦192年、秋の月も半ばを越えて後半へと差し掛かった頃、南部との戦争は未だに終わらなかった。実に100日も続いている。


 シュバルツバルト大公の居城でもあるモノリスのような黒いビル、シュバルツタワーの頂上に、ウルリヒ・フォン・ドラッヘは金銀に彩られた豪華な自室を構え大きなソファーに座って、大公の妻にして帝国皇女コンスタンツェ・A・グリュンタールを隣にはべらせていた。

 そんな部屋に呼び出されたのは、ケーニヒ大公国の大臣でありファルケン系貴族の1人コンラディン・ルートヴィヒであった。かつてライナーの右腕を勤めていた男でもある。

「ウルリヒ様、何でしょうか?」

 コンラディンは緊張した面持ちで大公を見るが、大公は視線を妻へと向ける。

「今度、シュバルツバルトに叔父上がいらっしゃいますの。当然、歓迎の夜会を開く予定なのだけど、新しいドレスを発注する手はずを整えて頂戴。ダイヤモンドはとびっきり大きいのを7つね」

 コンスタンツェが大臣に対して命令をする。おかしな話だが、現在のケーニヒでは当然の事として受け入れられていた。

「や、夜会…ですか。し、しかし…戦時中ですし」

 想定はしていたが、さすがのコンラディンも一気に顔が引きつってしまう。

「何を言っているの?その戦争を終わらせる為に、無能な貴方達に代わって叔父様が来てくださるのよ。歓待するのは当然じゃない。それに前にいらっしゃった貴族の方々がいるのに、同じドレスを着ているなんて知られたら帝都の笑いものにされるわ。ねえ、貴方」

「全くだ。コンスタンツェに恥をかかせ、大公たる私を貶めるつもりか?ケーニヒの田舎は貧乏なのだと笑い者にされないようにしている私の苦労が分かっていないようだな。全てコンスタンツェの差配に従え。金も好きなだけ使わせてかまわん」

 皇女と大公の二人は最高権力者としての意見を出す。

「…わ、分かりました。しかしですね、流石に戦争中で国庫が厳しくなっています」

 リュミエール10万を加えた15万軍が、夏の頃に敵の奇襲によって大きい打撃を受けて、撤退を余儀なくされて以来、決定的に敵を崩せず、戦争は長期戦の様相を呈している。

 国庫は厳しいというレベルを遥かに超えている状況に、コンラディンはかなり苦労をしていた。贅沢を控えて欲しいとも思っているのだが、しかしそれをやめるような甘い相手では無かった。

「ならば税をとればいいだろう。その為の民だ。平民など放っておいても増えるだろうが。そうだな、まだヘスラー男爵領はその前の戦争で免税していた筈だから金が残っているはずだろう。急な入用が出来たのだから、奴らから取って来れば良い」

「さすが貴方。簡単に対策が出来るなんて」

 とんでもない提案をするウルリヒに対して、本気で感心して頷くコンスタンツェ。だがコンラディンは更に引き攣ってしまう。

「ヘスラー男爵領は厳しくなると思いますが」

「何を言っている。その程度を乗り越えられないような弱者等、我等リュミエール帝国の臣民にとって害悪に過ぎぬ。無能は必要ない。大体、免税の恩義を忘れるような輩ならば滅ぼしてしまえば良い」

 免税の恩義…というが、ここで取られてしまったら恩も何もないのでは…と思うってしまう。それよりも、最初に今回は免除だよと言って喜ばせて、いきなりやっぱり税を取ると言い出したら、むしろ計画さえも破綻しうる話だ。後から刺された気分だろう。

「……ほ、本当にそれで宜しいのでしょうか?」

 コンラディンは恐る恐る大公に尋ねる。つまり目の前の男はヘスラーを殺してでも搾り取れと口にしているのだ。

「当然だ。大公である余の勅命だ。絶対にやれ。首を横に振るような無能ならば首を取って変わりの領主を挿げ替えろ。民の1人1人から徴収してこい。大公様の命令だとな」

 命令は下される。

 戦争で一度半壊した領地で、税金が払えなくなりそうだから免税していた地区である。普通に税金を取ったら食っていけなくなるから免税をしていたのだ。そこから税金を取るとはつまり、領地を滅ぼせといっている事でもある。

「分かりました。ではそのように…」

 頭を下げてコンラディンは去っていく。


「全く、俺が大公になったからこそファルケンは権力の座を手にしたというのに、刃向かう屑ばかりで嫌になる」

 コンラディンの去った後のドアを睨みつけてウルリヒはぼやく。

「全くね。帝国は貴方の有能さを認めて大公にしたのだもの。貴方のいう事は絶対だというのがまだ分かってないのかしら。まあ、所詮はウルリヒのような明晰な頭脳を持たないただの田舎貴族ですもの。仕方ない事だわ」

 それにコンスタンツェが追従する。

 そしてウルリヒ以外の貴族達を田舎貴族と嘲る。

「全くだ。大体、アームズ帝国の連中がこうして攻め込んできて、おたついているクズ共の為に、俺は態々リュミエール軍を呼んでやったんだ。なのに、未だに蹴りがつかないなんて、本当にグズな連中だ。いっそ俺が指揮官になって腐った売国奴共や獣人の群を皆殺しにするのも悪くないな」

 戦争が始まってから一向に終わる気配がない。

 ウルリヒの耳には敗北ばかりの報が入り、腸が煮えくり返る気分でいた。戦力差は3倍もあるが故に、余計に自軍の不甲斐なさに苛立ちを覚えていた。

「確かに名案だわ。たかだか5万の兵士に攻めれないなんて。でも、安心して、叔父様がもっと軍を集めてきてくれるそうだから」

「全く、無能な連中の上に立つと大変だぜ」

「本当に」

 大公と皇女の夫妻は笑い飛ばして、こうしてまた一つの小領を潰す事になる。




 近年、リュミエール帝国軍は、北部での戦争が減少し、北部討伐軍の人員を減らしている。だが軍としての全体の人員を減らしているわけではない。その所為で、北部の人員を削って中央へ常駐させているのである。かつてケーニヒ王国だった時代の戦争理由が、人員が余っているので都合がいいからと領土獲得に向けて開いている軍を差し向けたのだ。本腰になっていた訳ではないが、ケーニヒ王国軍5万に対して、リュミエール帝国軍は30万と言われていた。それほど軍隊にあまりが生じていた時勢だったのである。

 当代のリュミエール皇帝ディートリッヒ・F・グリュンタールは40年を務め大幅に領地を増やし、4大国家をはっきりと区別させた皇帝として知られる。つまり、リュミエールに隣接して傘下に組していない国家を全て武力で滅ぼしたという事である。




 そしてリュミエールからの援軍はついにやって来る。最初にやってきたのは5万、10日後に残りの5万がやってくる。この5万が先行してやって来れた事には理由がある。200の大型軍艦により、大人数を運んできたのだ。

 彼らを歓迎するべく、大公主催によって舞踏会が行なわれる。

 その中でも最も注目を集めたが、黄金の輝きを見せる衣装を纏って現れた金髪碧眼の貴公子である。

 アドルフ・D・グリュンタール、若い頃に軍を率いて活躍し、皇族ながら最高の武芸者の称号でもある七星に選ばれた英才である。また、七星の序列1位を任じられた王子である。叔父様とは呼ばれているが年齢は31歳と比較的若く、ディートリッヒ皇帝の末子であり、15人目の子供で皇位継承権30位を持つ大衆では非常に人気のある存在であった。

「やあ、久し振りだねコンスタンツェ。見違えたよ。小さなコンスタンツェがまさか一国の国母とは俺も歳をとるはずだ」

 気安くコンスタンツェに声をかけるアドルフ。

「お久し振りです叔父様。ですが、仕方ないかと存じ上げます。私はこの国へ来て長いのですから」

「そうだね。君がウルリヒか。姪からは手紙で聞いているよ。とても優秀だそうで。剣の腕も確かなのだろう?」

「いえ、七星であらせられるアドルフ殿下には見せられるほどのものは持ち合わせてはおりませんよ」

「ははははっ謙遜しなくても良い。確かに…私はこの大陸において最高の剣士ではあるがね」

 全く謙遜を見せないリュミエールの七星の序列1位は笑ってウルリヒの肩を叩く。

「ところで……ヴィルヘルム…という男を君達は知っているかい?」

 アドルフはウルリヒとコンスタンツェに訊ねる。

「ヴィルヘルムですか?覚えがありませんが」

 コンスタンツェは本当に聞き覚えがないという顔で首をかしげる。一応、以前に一度だけ合っているのだが。

 対して、その名を聞くと同時にウルリヒは怪訝そうに顔を顰めてしまう。

「……昨年のクーデターに加担した容疑で国外逃亡をした、私と同じファルケン家の者にそのような名の者がおりますが?」

「やはり、そうなのか。ここ最近、どうも西部で赤鬼ヴィルヘルムが出たという噂を耳にしていた。ヴィルヘルム・フォン・ファルケンと聞き、コンスタンツェの夫が同じ姓だったから気にしていたんだ。何者なのかね、そのヴィルヘルムとは」

 アドルフはウルリヒに尋ねる。言葉の中には強い興味を持っている印象が受けるので、ウルリヒは少しだけ気分を害する。

「悪運ばかり強い男ですよ。確かに剣の腕はそこそこ強いですが、それ以外は何も出来ない男です。にも関わらず、本家の生まれだという理由で我等の爵位を奪おうと画策する腐った奴でして。私が大公になった事で、これまでしでかした無礼の数々を恐れて国から逃げて行ったただのクズです」

「……なるほど」

「まさか、何かしでかしたので?」

「我が帝国は最高の戦闘能力者を示す七星と言う称号を存じているだろう?この私がその序列1位に任じられている、たった7つの席しか存在していない称号だ」

 アドルフの言葉に当然のようにウルリヒは頷く。

 帝国大公になる身分であるが故に、そういった知識はしっかりと予習しているのである。そもそもその武勇に優れた七星を迎えるのに知らぬ存ぜぬは通用しないからだ。

「その序列2位がどうも赤鬼ヴィルヘルムと呼ばれる男に殺された…という風聞が流れている」

「…ま、まさか」

「エベルハルト殿は長きに渡り帝国に貢献してきた方だ。信じられぬ思いはあった。きっと卑怯な手を使ったに違いないが、許される話ではない」

「なるほど。祟ってくれる。あの男は血筋だけを誇り、ファルケンを継ぐのは私が相応しいというのは誰の目にも明らかだというのに、悉く邪魔をし、人を斬り殺す悪鬼のような輩です。もしも、この地を踏むようなことがあれば必ずやその首を帝国へと差し出しましょう。無論、あの臆病者がこの地に戻るとは考えられませんが」

 ウルリヒは苛立ちを隠さずにきっぱりとヴィルヘルムを切る事を宣言する。

「無論、我々もその積もりだ。偽りの風評であっても帝国の威信に関わるからな。数百の盗賊団を1人で殲滅しただの、1人で数十メートルはある巨大なドラゴンを殺しただのここに来る途中も嘘みたいな噂を耳にした。非情に腹立たしい話だ」

「そうやって嘘を風潮するのが上手いやつなんですよ」

 ウルリヒは肩を竦める。

「ところで、今回のアームズ帝国の襲撃があったそうだが状況は厳しいようだな」

「お恥ずかしい話です。ファルケンの身内に悉く裏切り続けられて。大公になった私がきっと妬ましいのでしょう。能のない奴らは人の足を引っ張ることばかりが得意で困ります」

 ウルリヒは心の底からうんざりする様子を見せるので、アドルフもまた同情を見せる。

「気持ちは察するよ。だがしかしどうもランカスターの連中がこの地に来ていると聞いてね。是非とも私が討伐したいと思っていたのだ」

「ランカスター?」

 だが、ウルリヒはアームズ帝国の名を余り知らない。有名な人物なのかと首を傾げる。

「あまり聞かないだろうな。ランカスターとは三大将軍の1人で、我等リュミエールの天敵のような奴だ。野蛮な奴らは腕っ節の強さで上下の位を決める習性があってな。つまりランカスターとはリュミエールと事を構えている獣人で最も強い男だという事だ。わが国は中央山脈のはるか東で最も苛烈に行なわれており、ランカスターがこんな西の方で現れることなど早々無いから知らぬのも仕方ない事だろう」

「なるほど。今回その者がこちらにと」

「ああ。故に私がここに出張ったという事だ。無論、可愛いコンスタンツェのお願いでもあるがね」

「よく言いますわ。叔父様にとっては、私のお願いの方が、ついでみたいでしてよ?」

 コンスタンツェは叔父を非難し、叔父もまた苦笑して肩を竦める。


 豪勢で煌くような夜会が、リュミエール軍がやってきて以来、連日連夜行なわれ、リュミエールの残りの5万の部隊が来るのをシュバルツバルトで待つこととなる。

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