表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強剣士の血風伝  作者:
四章
52/61

ファルケン領侵入

 ヨハン達一行は大きくロートブルクの西から軍の背後をつく形で回りこんでいた。川岸を上流方向へと登って西へと向かい、復興軍の目に付かないような山奥まで進んだ後に、南下してロートブルクの西側へと移動していた。



 山脈の麓の沢を歩いていくと、山の奥の方に巨大な白骨死体が見えてくる。

「ヨハン様、なんですかね、あれは」

「あれは…ドラゴンの白骨死体か。稀に山脈を越えて巨大なドラゴンが現れるというのは聞いたことがある。齢10にて亡きエドガー・フォン・ファルケンは100メートルくらすの龍を斬りドラゴンスレイヤーの称号を手にしたと耳にしたことがある。だがあのドラゴンは200メートルはありそうだな」

「ファルケンの武門は化物揃いだとはかつてのお館様から耳にはしてましたが、ぞっとしますね」

 そこでヨハンは同僚からの言葉を聞いて思い出す。

 過去に聞いたヴィルヘルムという存在だ。

 ファルケン家がファルケン大公と反対勢力に存在するというのであれば、もしかしたら女王の継承者を名乗る者の裏にいる可能性がある。元々、ヴィルヘルムとは、もしかしたら父親を殺したかもしれないといわれている謎の人物でもある。

「……取り合えずここらで食事にするか。折角の村だしな。問題はこの人数が入れるような場所があるかが問題だが」

「何にも無いのどかな農村ですからねぇ」


 ヨハン達が泊まる事になる場所は、エンゲルハルトという名の農村らしく、この時勢においても普通に農村生活をしているようだった。勿論、こんな村を滅ぼしてしまったら、本格的に都市部は食うに食えなくなるだろう。

 小さな食事処で交渉し、部隊人数21人分の食料を売ってもらえるようにしていた。さすがに入る場所が無いので、そこそこ大きい屋敷の手前にある空き地で、食事を運んでもらえる手はずとなる。

 無理に貴族の館に滞在したい所だが、暗殺部隊であることが悔やまれる。とはいえ、ヨハンも略奪などはしたくないので素直に従う事にする。


 ヨハンが食事を持ってきた小母さんからパンやハムといった食事を受け取り、それらを部隊員達がこぞって手にしていくのを見る。

 そこで気になってヨハンはこの女性に訊ねてみる。ファルケン公爵家の領地ではあるが、どういった村なのかという事である。

「この村は元々ファルケン本家の修行場なんですよぉ。あの屋敷も使われて無いのだけれど、れっきとしたファルケン公爵家の所有物でねぇ。10年くらい前までは使用人の人達もいたし、本家の子供達も住んでいたんですから」

「本家の連中が住んでいた!?」

「ゲルハルト様も偶に孫の顔を見にいらっしゃってましたけどね、シュバルツバルトの高校に出て行く前はエドガー様達も皆あそこに暮らしてたのだから。奥の沢はファルケンの修行場で立ち入り禁止だったのよぉ」

「…」

 自分達が通ってきた沢は、どうやらファルケンの修行場だったらしいと初めて知る。

「立ち入り禁止という事は、何か秘技みたいな事を教えられていたり?」

 ヨハンは興味に引かれて訊ねてみる。ファルケンの秘技というものがどうやって受け継がれているのかと言う事に関して、武人としてどうしても気になったからだ。

「さあ、どうだろうねぇ。単純に危ないからよ。余波で人が死ぬなんて事が昔はあったらしいからねぇ」

 ……

 直接接触して敵を倒すレーヴェ家からすればありえない話だが、ファルケン家の技の中には魔力で構成した斬撃を飛ばすという荒業がいくつもあると聞いている。確かにふらっと寄った場所に斬撃が飛んできたら、一般人なら普通に死ねるだろう。

「数年前にヴィルヘルムがここで生まれたなんて聞いているが?」

 ヨハンは聞きたいことがあったので思わず訊ねてしまう。

「ヴィルヘルム?……ああ、ユーリ坊ちゃんの事かな?」

「ゆーり?」

「小さいけど毎日そこの道を使って館と沢を往復して修行してた一番下の子でねぇ。よく沢の奥に入って狩りをしたって、ウチに獣肉を運んできてくれたのよ。あの子はお兄ちゃん子でねぇ、エドガー様にべったりだったから覚えてるわー。コロコロ笑う可愛らしい子で、どう見ても武門の子には見えなかったけど、自分の体より大きい猪を背負っているのを見た時はビックリしたわねぇ」


 食事処の小母ちゃんの昔話は、自分の知りたい所とは全く違う場所を掘り下げるのでヨハンは聞くんじゃ無かったと後悔していた。ヴィルヘルムがどれほど強いのか、どのような能力があるのかを知りたかっただけなのだが。

 ユーリ君とやらがどれだけ可愛い子だったのかという親戚自慢みたいになっていた。

「だが、ヴィルヘルムとなったのだろう?その……それほどの力を持っていたと?」

「さあ、実際に見聞きしてたわけでもないからねぇ。ただ…あの日は凄い豪雨の日だったわ。血塗れで泣きながら館に歩いて戻ってきた、ちっちゃなユーリ様を見たのは覚えてるよ」

 ヴィルヘルムの儀で生き残ったくだりなのだろう。ヨハンはそんな小さい頃に並みいる怪物達を切り伏せた筈はないので、やはりどこかで隠れていたのだろうと感じる。

「ヴィルヘルムなんか知らない、なりたくないのに、祖父上様も兄上様も皆斬り殺してしまったと泣きじゃくっててねぇ。返り血を浴びて真っ赤に染まったまま、1人で館へ戻って行くのを見たよ。酷い話だとは思ったねぇ。仲の良い兄弟だったんだよ。エドガー様は気さくで良い方でね、ウチの料理屋に来ると決まって弟自慢をしていくんだ。可愛くて仕方ないって感じだったね。あれ以来、ユーリ様はどこか行ってしまったよ。どうしてるかねぇ」

 小母ちゃんは懐かしそうに、そしてどこか悲しそうに遠くを見上げる。

 だが、ヨハンはその話に衝撃を覚える。


 皆斬り殺してしまった?

 当時、9~10歳程度の子供が?

 自身がシュバルツバルト高校に12歳で入学した時に、卒業間近だったディルク・フォン・ファルケンを見た事がある。彼はまさに怪物だと思った。今の自分でも勝てるかどうか分からないような凄まじい槍の使い手で、その兄達はディルクよりも上だったと教師達は語っていた。

 その怪物集団を皆斬った?

 それが本当ならば、およそ想像した話の全てを凌駕した怪物としか言いようが無かった。


 ヨハンはありえない言葉を聞いて絶句していた。

 それ位の化物であれば、否、それ位の化物であれば自身の父ヘルムートを殺す事もありえるのではないかと思えてしまう。そして父の謎の死が、ヴィルヘルムなのではなどと言う何の根拠もない噂話ではなく、疑わしさが立ち込めてくる。

 ヘルムートの死を知ったあの惨劇の朝は今でも覚えている。悲報を聞いて駆けつけた場所は、幾重にも破壊されたビルの数々とあちこちで穴の開いた道路の下に、真っ二つになって斬り殺されている父の亡骸が存在した。およそありえないような鋭利な切り口で真っ二つに切り落とされて倒壊したビルがいくつも存在した。例えであって、それが本当に人間に切り落とされたなど考えられない事だ。

 だが話を聞いて本能的に、ヘルムートと戦ったのはヴィルヘルムだと予感がする。ヴィルヘルムは実在し、そしてそれに見合った実力を持っていたのだと。

 冷たいものが背筋を走る。


 ヨハンは、父の死に顔を思い出す。どこか憐憫するような、しかし何もかもが満足したような死に顔だった。

 ゲルハルトとの再戦をかわされ、最高権力者の地位に飽き、強者との戦いを待望していた傍若無人な父は、決して満足するような顔なんてして無かった。だが最期はまるで望をかなえたような顔だった。


 ああ、あれはつまり、そういう事だったのか。


 ヨハンは、色々と思いめぐらして、とある結論に気付いてしまう。

 どう考えてもあの父がユーリ君とやらに被害をこうむった人間とは思えなかったからだ。むしろ、あの父はヴィルヘルムを継いだユーリ君に、絶大な迷惑を掛けて戦いを吹っかけたに違いないだろう。

 仇と戦える一抹の可能性を考えてやってきたが、果たしてヴィルヘルムは仇なのかという事実に思い当たる。どっちが被害者でどっちが加害者だったか、そんなものは考えるまでも無くあの生きるだけではた迷惑な父親が加害者だったに違いないのだ。

 あんな父親でも、自分くらいは肩を持とうと思っていたが、よくよく考えれば逆恨みの可能性もある問題を仇討ちというのは些か語弊があるような気がしてくる。


 だが、だからと言って自分が戦いたくないというのは嘘でもある。

 あの親にして息子ありといったところなのだろう。武人の血が騒ぐのは仕方が無かった。未だ、父を超えたとは思えないが、あの怪物とも思える父を倒した男を超えたいと思うのは、代々武人として生きてきたレーヴェ家の本質なのだろう。




 一行はそこから2日して、街道を外れて歩き続け、ロートブルクへの侵入を果たす。

 だが、さすがにロートブルクの城砦へ入れる隙間が全く存在しなかった。


 彼らは暗殺者である。軍隊ではない。孤立無援の中、堂々と城の中に入る込むようなまねが出来るはずも無かった。

 この大陸には、ウエストエンド騎士国に対して堂々と正面から、敵を片っ端から斬り殺して王の首を切り落とすような真似をする化物もいるようだが、そんな常識外れがこの世に存在するという事実を知る者はほとんどいないのだから仕方が無い。


 町は獣人の兵士も多く見られているが、傍若無人な事をする様子も無く、普通に街の中に溶け込んでいた。どうやらアームズ帝国は本当にロートブルクをこのケーニヒの街を手に入れようとしているようだ。

「やはり城への入る方法は無いようでした」

「だろうな」

 報告に来る部下の言葉に、当然だろうと諦める様にぼやく。

「ウチのミニアツルガーデンだって、結局はクーデター騒ぎにも陥落しなかったんだぞ?内部に何人も敵が潜んでいてもだ。ロートブルクは都市そのものがぐるりと自領を守るような土地に形成されているし、中に入っても簡単に落ちるような都市じゃない」

「…決死の強行突破をせよと言うのがクラウス様の意図なのでしょうか?」

 城内を調査していた部下が青褪めた顔でヨハンに尋ねる。

「女王などどうせ王族に似ただけの偽者を担ぎ上げられただけの神輿だろう。哀れには思うが早く戦を終わらせなければ国の状況は最悪になるゆえに、さっさと首を落として決着を付けねばならない。だが、ファルケン系の猛者が周りを固めているから簡単には行くまい。だが戦争中である以上、どこかで外に出る事がある。噂では指揮を執る姿も見せていると聞く。ならば、そこを襲撃するしか無いのだろうな」

「……」

 そのタイミングがいつになるか読めない部分が存在する。

「行軍が街を出る瞬間を狙って女王をピンポイントで襲撃ですか?」

「送り出す民衆に紛れてな。問題はその女王がどこにいるかを読まねばならない。パレードみたいにハッキリ見せてくれれば良いのだがな」

「暫く滞在するという所でしょうか?」


 やがて、訪れる機会は、意外にも早く訪れる。王国復興軍は大公軍の圧力に負けて南部へ退いてしまったという速報が入り、リュミエール帝国5万がアイゼンシュバート攻略へ向けて行軍を始めたという情報が入る事になる。




 ヨハンが耳にした情報は概ねこのような話だった。今後はアイゼンシュバートを防衛線の要とするため、最前線基地をロートブルクより更に前へ出すこととなった。そこで、軍は全体的に移動する事になる。軍の指揮を執っているという噂も聞くリーゼロッテ女王陛下もその行軍に帯同してアイゼンシュバートへと向かうらしい。


 情報は正しく、彼らを見送るべく多くのロートブルク住民は東へ続く街道に出て来ていた。

 非常に活気のある街で、パレードの様相を呈していた。

 ヨハン達はこの住民達の中に紛れて暗殺を狙う。長く続く行列は1万を超えるため、非情に長く伸びていた。

 その中でも一際声援の大きい場所が存在する。

 大きい馬車が進み、その周りには馬に乗った獣人の護衛が囲むように配置されており、いずれも体格に優れており巨大な武器を持っている。その中でも一際目立つのはちょうど馬車の前方にいる猫人族だった。獅子の鬣のように髪と髭を伸ばし、猫耳を尖らせた大男は2メートル以上もあろうかと言う背丈を持ち、それ背に比類する巨大なバスタードを背にしている。だが、そんなバスタードさえも軽々と振るいそうな太い腕と分厚い肉体を持っていた。


 女王の姿は獣人達に隠され、顔は見難いが鮮やかな金髪がチラリと見えたので間違いないだろう。黄金色に輝く髪は確かに王族特有の色である。各公爵家の血筋も混ざっているので、茶色だったり赤茶けた色だったりすることもあるが、往々にして金色が多く、それこそが王族と印象を付けさせている。まさか女王を名乗らせているのだから金色でないわけが無い。頭上に戴く王冠はそれを現していた。

 作戦は簡単でヨハンが最初に飛び出し、それに続く様に全員が誰でもいいから女王を殺すという簡素なものだ。


 実際に噂は耳にしていた。実力主義の獣人国家アームズ帝国において、武力の頂点に立つ三大将軍とはつまりアームズ帝国の西部最強を示す男が、ライオネル・ランカスターなのであると。

 果たしてヨハンは自身の腕がその男に通じるか、非常に興味深いものとしていた。だが、命の掛かったこの場において、敵のいような迫力に気圧されていたのも事実である。腕が自分の腰より太い相手が目の前に立っているのだ。


 ヨハンは拳を握り自分の目の前に来るタイミングを計り、心の中でカウントダウンする。

馬車は徐々に近付き先行する騎馬にのるライオネル、それに追従するよう馬車を囲む様に配置された犬人族や狐人族の猛者たち。

 ヨハンの正面、護衛と護衛の隙間に女王との道が見える一瞬、ヨハンは一気に飛び出す。

 それに続くように民衆に紛れていた仲間達も女王暗殺へと飛び出す。ヨハンは敵の防衛を抜けて女王の前に躍り出す。

「!」

 だが女王の前に飛び込んだヨハンは凄まじい殺気に慌てて足を止める。止めなければ刃はヨハンの首は飛んでいただろう。ヨハンの飛び込む先に、巨大な鉄塊のようなバスタードが轟音を上げて振り落とされていた。

 ついで丸太のような蹴りがヨハンの顔面を蹴り飛ばし地面に叩きつける。刃と足の二段攻撃だと気づいたのは地面に叩きつけられた後だった。

 だがヨハンが倒れても暗殺失敗による逃亡はない。最後の橋頭堡とばかりに全員が飛び出てしまっていた。

 次の瞬間血の雨が降る。

 ある者は胴を獣人によって真っ二つにされ、ある者は首を落とされ、ある者は体を穿たれる。屈強な20人の同胞達は敵獣人を抜いてライオネルへ辿り着く事無く、物言わぬ死体となって大地へと落ちて行く。

「!」

「少し焦ったな」

「申し訳ありません、将軍閣下に手を煩わせる等…」

 部下は申し訳無さそうにする。

「いや、人間にしては中々の者だった。問わずとも予測はつく。大公軍の暗殺者か」

 ライオネルは倒れているヨハンに対して巨大な刃を突きつけて訊ねてくる。答える筋合いもないのでヨハンは諦めて俯くしか無かった。

「とどめだ」

 ライオネルはゆっくりと刃を振り上げ、ヨハンへとどめを刺そうとする。


 これまでか


 たったの一撃で指先程度しか動かない程度に機能不全を起こした体を恨みながら、ヨハンは最後の時を待つ術しか存在しなかった。


「待ちなさい」


 そこで、想定外の場所からどこか懐かしい声が響く。

「何だ?まさか貴様、敵にまで情けを掛けるっていうのか?」

 ライオネルは背後の玉座に座る王冠を被った女性を睨みつける。

「…貴方が今殺そうとしている男、レーヴェ家の前公爵、ヨハン・フォン・レーヴェよ。彼は我々にとって使える存在。生かしましょう」

 女王は立ち上がりその姿を現す。

 それはどこか見覚えのある容姿をしていた。

「まさか……り、リズ…なのか?」

「久し振りですね、ヨハンお兄様。このような形で1年ぶりに再開する事になるとは思いもしませんでした」

 女王からの言葉にヨハンは驚き絶句する。公爵家の血が王族にも入っているように公爵家にも王族後が入っている。ヨハンの生き別れの妹は確かに黄金の髪の色をしていた。そして黄金の輝きを持つ瞳を持っていた。ヨハンも王族をあまり知らない世代ではあるが、リズは王族らしい容姿をしていたと認識している。

 死んだと思っていた妹が反乱の首謀者だった等、予測の範囲外だった。

「ランカスター卿。その男は私の身元を確かに証明する存在になります。つまりケーニヒ王族は大公家を否定し、こちらの勢力にこそ王の遺志が残されていると証明できる存在です」

「だが女王よ。それを捕らえて連行する手間を我々に掛けさせようと言うのか?」

 面倒くさそうにライオネルは訊ねる。これはライオネルが単純にケーニヒの将来に興味が無いから出てくる言葉である。アームズ帝国はケーニヒの肥沃な農奴を手に入れることが出来るなら、ケーニヒが滅んでいようと滅んでいまいと関係ない。今、リズを女王として立てているのは現在の戦争を有利に進める為である。後に占領する際、女王がアームズ帝国の庇護下に入る為と言う銘を打つ事で、簡単に領地を入手し、直に作物が手に入るというメリットだけである。彼らからすれば、最終的に人がいようといまいと構わないスタンスだった。

「貴方達は護送車を連れてきたでしょう?そこの中に人質と一緒に放り込めばいいじゃない」

 リズは自分の背後に帯同している、中を布で隠された鉄格子によって閉ざされている護送馬車を一瞥する。

「これがお前にとって大事な人間達を害する可能性もあるが?」

 ライオネルは倒れているヨハンをバスタードで差して逆に問う。

「ありえないわよ。そこの元公爵は人の良さで爵位を継いで、人の良さで爵位を退いた人なのだもの」

 リズは笑い飛ばすようにヨハンを見る。

 ヨハンはリズが何故そこにいるのか、どうして女王の振りをしているのか、全く理解していなかった。

 そんな様子をリズは察したのだろう、申し訳なさそうな表情で無理に笑ってみせる。その姿は、幼い頃によく見せた困ったような表情に、面影を強く感じる。

 優しい子だったのを覚えてる。あの父にさえもよく懐いていた子で、家臣のミスに怒っていた父に対して、その父を諌めるほどに弁が立ち、男に生まれていれば家を継がせたかったと父に言わしめた程に、出来の良かった一番下の妹だ。


(まさか、人生の最後になろうかと思った時に……死んだと思っていた妹に救われるとはなぁ)


 ヨハンは朦朧とした意識を必死につなぎとめていたが、助かったという事実からか緊張が解けてそのまま昏倒する。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ