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最強剣士の血風伝  作者:
四章
49/61

因縁

 ディオニスと合流したヴィルヘルムは船を使って一路ケーニヒへと進んでいた。

「そういえば、僕の国が焼け落ちた帰りもこんな感じでしたね」

「まだ復興して無かったんだな、アルツは」

 ヴィルヘルムは大きい帆船に揺られながら、外を眺める。

「僕も最近になって知りましたが、帝国は中央以外はどこも怪しいですね。中央が富を吸い上げて、外側の国々は疲弊していくという構造が出来上がってます」

「だが、そうしたら国境線は守りきれないだろう?」

「北方の連邦王国は近年ではあまり戦争をしていませんし、アームズ帝国とは中央山脈を除けば国境はわずかですから。だからリュミエールは辺境をぶち壊しながら中央の財を確保しているようです」

「リズが調べてたのか?」

 何でそんな事をディオニスが知っているのか?とも一瞬は思ったが、すぐさまに情報源を察して、ヴィルヘルムは尋ねてみる。

「まあ、そんな感じですね」

「……何となく察しはつく。半年ほど歩いて、情勢の悪い場所ばかりだからな。自分達で奴らに軍隊を養う税を払い、そして自分達は奴らに刃向かえない情勢を作ってる。この構造は一度でも落ちたら2度と登れない坂道みたいな状況だ」

「その坂道に、ケーニヒは現在転がり落ちている所です」

「……。私が行くと致命的にならぬか?」

「でしょうね」

 ディオニスは苦笑を見せる。

 ケーニヒが転がり落ちた理由の多くある。

 1つはファルケン家の瓦解。これは継いだ人間が悪かったとしか言いようがなく、ヴィルヘルムを継いだのがユーリだったためのものだ。

 2つはウエストエンド崩壊。無能といえどウエストエンドの王や武官の重鎮を片っ端から消滅させて暴動を止める存在がいなくなったためだ。これに呼応して昨年にはアームズの侵攻が行なわれた。

 3つはヘルムートが亡くなり国家が混乱し、主導権争いを始めてしまった事にある。


 ヴィルヘルムが考える原因の3つ全てが自分の手によるものだと理解してしまっているので責任を感じざるを得なかった。無論、それを選べる立場には無かったし、ウエストエンドは遅かれ早かれ崩壊しただろう。やりすぎたのは否めないが、戦争を最短で終わらせる最大の方法だったのは事実だ。実際、まともな戦争にさえならずに相手は撤退したのだ。

「つまりはハインリヒ家を取るか国を取るかです」

 戻った際に国を救うのかハインリヒ家を救うのかという二択が存在するとディオニスは説明する。

「うん、考える必要が無いな」

 ヴィルヘルムは何も考えずに頷く。

 ディオニスとしては、少しは考えてくださいと突っ込みたいのだが、そもそも即決即断で考えるよりも先に斬り飛ばすような男にそれを求めるのは酷だったと気づかされる。

「ところで、このままシュバルツバルトに入れるのか、私は?」

「厳しいかもしれません。国家反逆罪の疑惑が掛けられてますので。あの阿呆の所為で」

 ディオニスは少し考えて口にする。

「あまり阿呆と言ってくれるな。あれでもシュバルツバルトの高校では優秀な生徒だったらしい」

「本当にあんなのが優秀だったんですか?」

「学生が社会に出ていきなり活躍できるわけが無いだろう?仕事も知らない子供に数十万の民を見事に導けという期待をするのが問題だ。優秀な学生が優秀な社会の歯車になれるなどそれこそ怪しいものだ」

「隣の歯車を斬り飛ばす歯車とかありますもんね」

 ディオニスの相変わらずな皮肉に、ヴィルヘルムは苦笑を見せる。そういえばいつもこんな感じだったなとヴィルヘルムも懐かしむ。

「まあ、簡単に入れないのならば、どこから入る?リヒト共和国経由で、ドラッヘ領を伝っていくといった所か?」

「いえ、シュバルツバルト経由はあまり思わしくないかと。それにドラッヘ領経由は怪しまれます。あの領はリヒトと併合したので」

「と、すると…西部の山脈付近から行けと?」


 ケーニヒは北にリヒト共和国、東にフンメル大公領と接しており、大河はその2つの領地を隔ててケーニヒ公国の丁度中央を北東から西部へと横切る。リヒト共和国側は森、フンメル大公領側は山岳地帯となっており、どちらも険しい道となる。船で入るか、川沿いで歩いて入るのが好ましいが、それでは国に入れるか怪しいという事だ。


「ケーニヒ大公国領の手前のフンメル大公領で船を降りて、そこから南下して山登りしてから南西部の旧オッタル辺境伯領から入れと?」

「?………はい。よくわかんないけど、そんな感じで言われてます」

 それでも急ぎで歩いて4~5日は掛かって国に入らなければならない。だが確かに旧オッタル辺境伯領から馬で移動したほうがいいだろう。何よりも話によるとアームズ帝国軍は南部を統べ、シュバルツバルト南部平原にて戦争をしているのだ。シュバルツバルト経由で入れば確実に戦争に巻き込まれる。軌道列車も使えないと考えていいだろう。

「戦場を迂回して南部から背後をつく。なるほどな。だが、そんなにトロトロしていて大丈夫か?」

「少なくとも歩いた方がリュミエールの行軍よりも速いだろうと。想定よりも早く近くで出会えたので、確実に間に合うと思います。もしも戦いが始まっているなら全員きり飛ばして強行突破しろって言われてましたし」

「無茶させるな、あの女は。だが、まあ…あの女の事だから大丈夫なのだろう」

「ただ、その……ロートブルクには危険な人がいますけど、大丈夫でしょうか?」

「ん?」

 ヴィルヘルムを心配するディオニスの姿に、眉根に皺を寄せる。

「アームズ帝国でも凄く強いと噂されている三大将軍の1人ライオネル・ランカスターです。オリバー君が何も出来ずに負けました」

「……まさかお前は私が負けるとでも?……まあ、人間、死ぬときは死ぬものだが」

「オリバー君も言ってました。ヴィルヘルム様よりも強いかもと思った相手を初めて見たと。それにヴィルヘルム様はもう体が戦闘に耐えられるかも怪しいですし」

「らんかすたー…どこかで聞いたような………思い違いだな。獣人の知り合い等いないし」

 ヴィルヘルムは既に忘れていたが、1年前の戦争で、アイゼンシュバートを占拠した龍騎士部隊のトップがレオポルド・ランカスターという男で、ライオネルの弟であった。

 西部で双璧をなす獅子の如き猫人族の兄弟で、特に兄の方は龍に頼らず弟以上の武勇を持つ化物であると言われている。




 2人は国境前のフンメル大公領で船をおりて、そのまま南下する事になる。

「ヴィルヘルム様と行動すると田舎道でも山道でも安全で良いですね。ここら辺は人を襲う魔獣が多いと聞くのに」

「そうか?大体5~6歳の頃に山奥に放り出されて自活を強いられたからな」

「……ファルケン家が無駄に強い理由が分かりましたよ」

 南方へ歩き出してから3日目、既に中央山脈を登り始めていた頃である。登山道となっており、道は非常に狭くなりつつあった。

 山中を歩いていると、何故か馬に乗った集団がぞろぞろと背後からやってくる。ヴィルヘルムとディオニスは慌てて道の端による。馬が通るには少々狭い道である。

 近付いてくる馬に乗った集団だが、よくよく見ると武装をしている。軍隊と呼ぶには些か武装が軽装備で、見たところ犯罪者あたりを追跡している傭兵といった雰囲気がある。

「貴様ら、どこに向かう予定だ?」

「え?ああ、中央山脈を越えてケーニヒへ行く予定で。シュバルツバルトへ行きたかったのですが、どうもフンメル領とケーニヒ領との通行料が高すぎて…」

 いけしゃあしゃあと嘘をつくヴィルヘルム。さすがに放浪歴半年ともなればそこら辺の腹芸も利くようになっていた。

「……まあ、そうだろうな」

 2人の格好を見て馬に乗っている先頭の男はふんと鼻で笑って先を進もうとする。

「何かあったんですか?」

 ディオニスは不安そうに尋ねる。

「この先に盗賊が出てな。その討伐に出ているのだ。君達も気をつけなさい」

「は、はい」

 パカパカと馬の足音を残して10人程の部隊が山の奥へと消えていく。その中の一人にどうも見覚えのある人物もいたようだが、気の所為だろうと見過ごしていた。


 2人はそれを見送ってから再び歩き出す。

「盗賊かぁ」

「ふむ……。そういえば…アルツでも盗賊を見たな。最初は盗賊団だと聞いていたが、あれは結局、壊滅した王弟軍の生き残りの貴族だったんだろうな」

「…そんな事をしてたんですか?耳にした時は、随分と巨大な盗賊団だとは思ってましたが…」

「悪かったな。あれは元はお前の派閥だったろう?」

「とは言っても、父が国王を殺したのが問題で、そもそも僕が聖王子なんて担ぎ上げられたのもあの人が権力を握る為のプロパガンダだった訳ですから、自業自得です。権力闘争に負けて民衆を襲って食い扶持を得ようって魂胆自体が貴族として問題だと思いますよ」

「だが、私が斬った中には、奴らに仕方なく従わされていた者も多くいただろう。その切り分けというのがな…。幼い頃は無理だったが、今ならその程度は出来る積もりだ。問題は切って良い敵と、切ってはいけない敵の判別を私には出来ないという事だ」

「……国を出て半年でどんな境地に辿り着いてるんですか…」

 ディオニスは呆れるようにヴィルヘルムを見上げる。

「数千の民を少しでも生かすために数万の軍隊を壊滅させたが、そもそも多くの命を救うならこれは本末転倒だろう?対人戦闘となると、私はどうにもダメだな。結果が赤鬼呼ばわりだ。英雄になるつもりは無いが、どうせ死ぬ為に戦うなら正しい戦いの中で、多くの民を救いたいと願うのは悪い事かな」

「死ぬ為に戦うのに、勝たないといけないほうに組する時点で死ねない事実に気付けないのですか?」

「だろう?本末転倒だとずっと思ってた。偶々目に入った方を救って、敵を倒すではまずいのだ。結局、戦いの中でしか生きれないが、戦いに意味が無い。正直に言えば、リュミエールにもケーニヒにも組する気持ちが失せたのが本音だ。……存外に……親しい人を救い、破滅を望むリズと共に戦うのが一番気楽で良いのかもな」

「………」

 ヴィルヘルムは淡々と語るのだが、本質的に死にたがりなのは全然変わっていない。ディオニスはそれに気付き、少し寂しそうにする。

「オリバーはきっと助けるさ。問題はそこまで生かされているのかだ」

 ヴィルヘルムの心配はそこにあった。人質にされて、実は既に殺されているというのはある事だからだ。

 ディオニスもリズも重々承知していることだ。

「リズさん自身が、ハインリヒ家の人達の生死判断が出来なくなったら自害すると口外しちゃってるので、向こうも迂闊に手は出せないと思います。最初は向こうに言いなりでしたけど、今はリズさん自身が戦争の神輿に乗っていて、リズさんに死なれたら全体の士気が下がるので、彼らも迂闊に無視できない状況です」

「自分の命を秤に乗せるか…」

 ヴィルヘルムはリズの無茶を聞き、呆れた様子で口にする。




 2人が山中を歩いていると突然の轟音が聞こえる。

 次いで暴風が襲い、ヴィルヘルムはディオニスを抱え足場を確保して斜面から転げ落ちないように支える。

 まるで前方で何かが爆発したかのような状況に2人は驚きを露わにする。

「何だ!?」

「さっきの馬に載って言った人達でしょうか?」

「たかが盗賊団程度に派手すぎるだろう?今のは魔法の衝撃だった。しかもかなり上位の魔法だ」

 ヴィルヘルムは衝撃音のあった方向に視線を向けて叫ぶ。

「まさか、王国復興派に対して裏道からの襲撃でしょうか?」

「分からない。どちらにしても我々はそれより早くロートブルクへと向かおう。急いで歩いて、山を降りた後、どこかで馬を手配すれば10日程度だろう」

「……軍の到着が読めないですね」

「行軍なら王都到着まで倍以上は掛かるはずだ。余裕で間に合うだろう」

「そうですね」


 2人が細い山道を速足で進み、やっと大きい山道へと出たと思うと、巨大な炎が眼下に広がる。

 丁度、自分達が歩いていた道から一本外れた崖の下では、あちこちに炎が広がり人と人が争っていた。先程の馬で先に進んでいた男達はどうやら途中で道を外れたようで、燃え盛る山小屋を挟んで2つの勢力が戦っている様に見える。

「何が起こってるんですか?」

 ディオニスは恐る恐るその先を見て、ヴィルヘルムも次いで炎の方へと視線を送ると、山小屋からは女子供が逃げていくのを見かける。

「……なるほどな」

 ヴィルヘルムはそれを見て何が起こっているのか大体理解する。盗賊団を倒しに来た男達は騎馬に乗って立ち向かおうと戦う男達を簡単に蹂躙して行く。

「あ、あの、あれはどう見ても盗賊団に見えないのですけど」

「食えなくなった農民の群れが夜逃げした成れの果てだろうな」

「……そんな…。逃げて来た先で殺されるって言うのですか!?見てないで助けてあげてくださいよ!」

 ヴィルヘルムの首根っこを掴んで訴えるディオニス。

「仕方あるまい。彼らが好きで盗賊に落ちた訳ではなくても、略奪者となってしまった事自体は犯罪だ。それに対してやられた者達はやり返さねばならない。例えばお前の実家で起こった貴族どもの作った万にも上る盗賊集団は本質的にこれの延長線だったぞ?どっちを助け、どっちを倒すか……私には判断がつかないんだよ」

「!」

 だが、騎馬の10人程の武装集団を前に30人ほどの農民あがりの盗賊と思われる男達は剣ではなく桑や鋤で戦い、女子供は逃げていく。

 次の瞬間、逃げる女子供を背後から斬りつける騎馬に乗った男がいて、1人の女は倒れて動かなくなる。子供は泣き叫び母親と思しき女性にしがみついていた。

「ヴィルヘルム様!」

「仕方あるまい」

 ヴィルヘルムは溜息をつく。ディオニスを脇に抱えて、一気に飛び降りてその場に降り立つ。


 兵士の刃が泣き叫ぶ子供の首を飛ばす前に、ヴィルヘルムはそこの前に降り立ち、自身の長刀でその刃を受け止める。

「やめておけ。逃げる女子供まで殺す必要はないだろう」

「邪魔だ、どけ!貴様も盗賊どもの仲間か!?」

 怒鳴りつける騎馬にのった男はヴィルヘルムを睨みつける。

「仲間かと問われれば、これっぽちも仲間では無いが…さすがに女子供を襲うのを見かねただけだ」

「黙れ!盗賊は皆殺しって決まってんだよ。それにこんな機会でもなきゃ女子供を切れないだろうが」

 下卑た笑みを浮かべて、嘲るようにヴィルヘルムに唾を飛ばして口にする。

「なるほど。じゃあ、良いか」

「あ?」

 ヴィルヘルムは溜息を吐いて、ディオニスを脇から地面へ下ろすと、その動作と一緒に長刀一閃し、再び刃を鞘に収める。

 ヴィルヘルムの前にいた男はそのまま首を失って大地に倒れる。

「ディオニス、倒れている女性を治せるか?」

「は、はい」

 ディオニスは倒れている女性に駆けつけて回復魔法を掛ける。血は酷いが留めは刺されていないようで致命傷には至ってないようだった。だが、すでに大量の死者が出ておりもはや取り留めなくなっている。

「我が名はヴィルヘルム・フォン・ファルケン!戦いをやめよ!この戦いは私が預かる!」

 大きい声を上げて戦の平定へと向かわせる。

「貴様、何者だ!?我らは盗賊団を殲滅しに来た傭兵団だぞ」

 農民達を襲う男達は自分達の素性を語る。

「女子供まで殺す必要はないだろう」

「それは関係ない。俺達は盗賊団を壊滅させるように頼まれたのだ。近年、西部の移民が盗賊になる事が多くてな。女子供は見逃せ等と聞いた事が無い」

「そうかい。じゃあ、選べ。俺に皆殺しされるか、この場を去るかだ。正直、見逃そうと思ったが、気分が悪いから放っておくのはやめた所だ」

 ヴィルヘルムは刃を抜いて男達の前に立つ。

「親方、ヴィルヘルムってまさかあの赤髪の鬼じゃ…」

「あ」

 騎馬に乗った男達は、ヴィルヘルムの容貌が明らかに最近噂の赤鬼に似ていたので全員がまさかと戦慄する。既に仲間が恐ろしい早業で殺されている事に噂の人物だという事を察して慌て始める。

「くっ。……先生!先生、お願いします!」

 騎馬たちは後ろに下がって誰かにお願いを始める。何だろうとヴィルヘルムは目を細めると、戦場の遥か奥から1人の男が馬に乗って現れる。

「山小屋を焼いて襲撃をサポートするだけと聞いていたが、いきなり何だよ」

 やる気なさげに奥から現れるのは1人の男、金髪に近い薄い茶色の髪をし、少しだけ赤色を帯びた茶色い瞳をしたケーニヒ方面の顔立ちの青年が現れる。

「この男が俺らの仕事を邪魔するんでさぁ。助けてください」

「ああ?山小屋を焼く以外に仕事はしないでくれ、だから金は半分に負けろってのがお前らの言い分だっただろ。手を貸せってのは聞いてないぞ。ただでさえ、胸糞悪い仕事を引き受けて面倒だってのに」

 後からやって来た先生と呼ばれる男は右手に持ったスティック状の杖で肩を叩きながらヴィルヘルムへと視線を移す。

 男とヴィルヘルムは互いに目を合わせる。

「ほう、まさか、こんなに早く会えるとは驚いたな」

「……ドラッヘ家の…宮廷魔導士か」

 ヴィルヘルムはリオの葬儀で彼を見ていたので直に思い出す。

 だが、ドラッヘ家の大御所が何でこんな山奥にいるか理解が出来なかった。貴族の御曹司が、ならず者の延長である傭兵達に、先生とか言われている事自体がおかしかった。

「で、お前らは俺にこの男を倒せと?」

「あ、ああ。頼むぜ。金はちゃんと倍払う」

 男達はいそいそと後ろに下がる。


「ヴィルヘルム様!その男、ヴィルヘルム様への復讐の為に家を出奔したヴァルター・フォン・ドラッヘです!気をつけてください!」

 ディオニスは危険人物の顔と名前は頭に入れてここまでやってきていたので直ぐに危険人物に思い当たる。ディオニスは、ヴァルターがヴィルヘルムを追う為に家を出奔したと聞いていたからだ。

「いや、それは嘘だけどな」

 ヴァルターと呼ばれた男は、あっさりと否定する様に軽く手を振る。

「えー」

 ディオニスは引き攣って呻く。

「ディオニス、理屈は分かったから下がってろ」

「は、はい」

 ディオニスは、ヴィルヘルムに言われて、倒れていた女性も傷を治してから、他にも逃げていく農民崩れ達の1人に担がせて逃がすように命令する。

「道理で強力な魔力だとは思った。私の首が欲しいのか?」

「別に復讐をしようとは思っていない。非はこちらにあったのは知っている。互いに殺しあった結果だ。そもそも…ヴィルヘルム・フォン・ファルケンが友人だったなどという事が判明した時点で、あの甘いリオが肉親殺しを出来る化物に勝てる手段等ある筈もない。敵として出会ってしまったら死ぬのは明らかだろう」

 ヴァルターは杖を構えてヴィルヘルムを見すえる。

「その…ミハエルより下だった男が私に勝てるとでも?」

 ヴィルヘルムは刃を抜いて青眼で構える。

「さあ、どうかな」

 ヴァルターの体の回りに凄まじい魔力が集中される。その魔力量にヴィルヘルムも些細な攻撃への動きが無いかと探るように目を細める。


 ダダンッ


 地面を蹴る音と同時にヴァルターはヴィルヘルムに襲い掛かる。距離を置いて魔法を使う宮廷魔導士がよもや戦闘の為に前に出るとは思っていなかった。虚を突かれたのは事実だった。

 詠唱のない氷の魔法で至近距離からの氷の矢を放ってくる。

「ちっ」

 ヴィルヘルムは走って攻撃を避ける。凄まじい氷の矢の集中砲火をかわしながらよけ続ける。

 だが咄嗟に動いた為に、逃げる先を失敗していた。ヴァルターの攻撃にをよけ続けた先で、ヴィルヘルムは足を止めざるを得ない状況に直面する。

 ヴィルヘルム自身が避ける事は可能だったが、背後にはディオニスがいた。いくらディオニスが魔法障壁を張れるとしても、かつて宮廷魔導士長を務めドラッヘ家の嫡男だった男の殺傷魔法を受けれるほど優秀な障壁魔法を持ってない。

 ヴィルヘルムは受け止めるしかないと構える。

 だが、一向に攻撃が飛んでこず、逆にヴァルターは距離を取る。

「死にたくなかったら引き返してろ、あれは本物のヴィルヘルムだ。戦いの余波で死ぬぞ」

 ヴァルターは傭兵達に一声かけて、再び構える。傭兵達は走って見えなくなる場所まで逃げ出す。

 ディオニスも邪魔になっていた事に気付いて、慌てて逃げた農民達の後を追うように傭兵達とは逆方向へと逃げる。


「ヴァルター・フォン・ドラッヘ、参る!」

「一々、宣言は必要ない」

 ヴァルターはヴィルヘルムの刃の届かない距離から、無詠唱による炎を生み出し、杖を振ると同時に炎の弾丸を次々とヴィルヘルムへと飛ばしてくる。

(大技ではなく小技と身体能力で削るタイプか?だが、宮廷魔導士長だった男だ。リオほどでなくても大技もあるはずだ。とはいえ、この距離は埒が明かないか)

 ヴィルヘルムは攻撃をかわしながら、ヴァルターを追いかける。ヴァルターは動きながら小規模な攻撃で対応する。

「ちょこまかと」

 ヴィルヘルムは遠距離斬撃を放つ。

 ヴァルターはそれをかわして、大振りをしたヴィルヘルムの動きに合わせて今度は簡易詠唱のランクの大きい魔法を放ってくる。

 爆炎が大地を穿ち、ヴィルヘルムはそこを大きく避ける。

 大きい動きに呼応するように、ヴァルターは大規模の詠唱魔法を発動させる。

「我が名において命じる。天地の狭間に移ろう疾き者、我が声に耳を傾けたまえ。我が示したもう形は真空の刃、向かうべきは眼前!断空」

 無数の真空の刃がヴィルヘルムに襲い掛かる。

「遅いわ」

 ヴィルヘルムは一足飛びでヴァルターの懐へと飛び、すべての真空の刃を己の刃で切り伏せて、魔煌剣をヴァルターの首に突きつける。

 一瞬で形成が逆転し、ヴァルターは首元に刃を突き付けられて降参するように両手を上げる。

「……参ったな。これでも従弟が継がねば、ミハエルの継承者候補といわれていたのだがな」

「リオと本気で殺しあった私が、二番煎じ風情に足をすくわれるか」

「殺さないのか?」

 ヴァルターは半眼でヴィルヘルムを見る。

「殺気もない相手、しかも親友の大事な従兄を殺す訳にも行くまい。ディオニスを傷つけていれば思う存分、首を飛ばしてやったがな」

 ヴィルヘルムは呆れたように口調で、長刀を腰の鞘にをしまって、ヴァルターに背を向ける。

「そういう貴様からも最初から殺気等感じなかったがな」

 ヴァルターは悔しそうにヴィルヘルムを見る。

「家族と分かってしまった相手を、流石に理由もなく本気で切れるほど非情ではないんだよ。私怨で殺すのはもうあれが最後で良い。あの農民達が逃れた以上、戦う理由もない」

 ヴィルヘルムは溜息と共に、自身の従兄でもあるヴァルターを見てぼやく。

「結局、俺はリオには勝てなかったという事か」

 自嘲するようにヴァルターは地面に座り込む。

「貴公はリオに勝ちたかったのか?」

 ヴィルヘルムは不思議そうに感じて振り向き、ヴァルターを見下ろす。

「幼い頃よりあの子の才能には羨望を抱いていたが、本気で張り合ったことなど無かった。もしも私が本気でミハエルになる気で張り合っていれば、と思うこともあった。私がミハエルを継げていれば、あの子はあのような不名誉な戦場で、実の弟と刃を交え、殺されること等無かったのだ」

 ヴァルターは俯いて自供するように口にする。だがその言葉はある意味で本末転倒だった。

「私に勝ってしまったら、それこそ、貴様の怠慢によってリオを殺されてしまった事になろう。それを証明しようなどとは、阿呆か?」

「それでも……私は武門の男として最強を目指したかったのさ。もう、あの子がいない以上、遠慮する必要が無いからな。だが、遠慮等してもしなくても勝てなかったことが分かった。それが分かれば俺はそれで良い。だから復讐とは関係なく貴様を探していた」

 ヴァルターもまた、ヴィルヘルム同様にリオの死によって悩み傷ついた1人なのだろう。最も、ヴィルヘルムは加害者だから、リオを殺した罪を背負っていかねばならないと自覚していた。

「下らぬな。そんな生半可な気持ちで鬼神の前に立とうなどとは200年早い」

 ヴァルターは最初から殺す気なんて無いどころか、本当に自殺志願に近い気持ちで向かってきたのだ。


 ヘルムートは抑えきれない闘志を持ってヴィルヘルムと向かい合い、ファルケンを苦手としながらも経験と技術で相性を埋めて、ヴィルヘルムをギリギリまで追い詰めた。

 ミハエルは愛する義父を殺された恨みを抱え、目の前の男が親友であると分かって尚も止められない殺意を向けて破壊を撒き散らしてきた。


 どちらもすべての命を捧げる覚悟で戦った猛者である。対して、目の前の男は未だそこに達していない。

「少なくとも……貴様にはまだ私を倒せる資格さえない。出直してくるんだな。私はいつまでも死に場所を求めて戦い続ける。生きている間ならいつでも相手にしてやる。生憎、貴様は私を殺せる資格があるからな」

 リオの死に泣いた男であるなら殺されてもいいだろう、そんな気持ちで、ヴィルヘルムは殺しあった相手を見逃して去る。


 当人も気付いていなかっただろう。刃を結んだ相手を自主的に見逃したのはこれが初めてなのだ。

 本当はもう1話くらい挟んでヴァルターを出したかった。

 あるいはヴァルターがならず者の傭兵集団にくみする転落劇くらい書きたかった。

 ですが、ヴィルヘルム一行が進んでいたら、彼が出てくる場所に到達してしまったので出してしました。物語は自分の思うように書けないものです。

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