表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強剣士の血風伝  作者:
四章
44/61

終わりなき戦場の日々

 ヴィルヘルムはリュミエール軍5万が蹂躙する戦場にて走り続けていた。

 人数が多いだけあり、敵本陣までが異常に遠い。

 帝国と戦争はケーニヒでも無理だろうとヴィルヘルムは直感的に感じる。こちらが敵を落とす前に、膨大な人数と言う物量が邪魔をして、どんどん敵は先へと進んで行く事が予測される。


 今立っている戦場も同じだ。ヴィルヘルムが敵将へ到達する前に味方は恐らく駆逐されるだろう。一緒に戦っても足手まといになるだけだし、360度全方向から敵が来る状況で他のメンバーを全て守るのは不可能だ。


 ヴィルヘルムは1時間以上も敵に囲まれた中、どちらが敵将の方向かも見失いつつある中、ただ斬って斬って斬り続けて先へ進もうとする。

 そんな中、ついに悲報が告げられる。


「敵将、討ち取ったりーっ!」


 オオオオオオオオオオオオオオオッ

 勝鬨を上げる敵兵。槍に刺さって首だけになったイェンスが視界に入る。


 ヴィルヘルムはその声を耳にしたが、体の動きを止める事無く周りの敵を打ち倒していくだけだった。

 少しだけ感傷の情を覚える。

 賢い男だった。もしも自分だけを大事に出来る男ならば、こんな地で無残に殺される事も無かっただろう。大事な人間の為に、ただ必死に頑張っていただけだ。人より才能があった所為で総大将に立たされたが、領地が平和だったならきっと好きな本を読みながら、細々と仕事をして、普通に幸せにすごせるだけの才能はあったはずだ。

 だが、同胞に望まれ、仕方なく必死に知将を演じ続けた男の末路がこんなつまらない最後である。

 多くの会話をした訳では無かったが嫌いじゃなかった。彼がこのような死を迎える事を覚悟してまで守ろうとした者達を自分は見てしまった。恐らくイェンス・バイエルという青年は、わざとヴィルヘルムに自分の守りたいものを見せたのだろう。最後までイェンスが死んでもイェンスの守りたかった者達を守る為に、『戦って足止めしてくださいよ』という釘を刺したのだ。

 いやらしいくらいに策士である。

「無論、その貴様の策に乗ってやる!地獄へはたくさんの共をつけてやるさ!賑やか過ぎて困るくらいにな!」

 ヴィルヘルムは悲報を聞いてさらに自分に活をいれ、壊れた体に鞭を打ち、更なる進軍を開始する。襲い掛かる弓兵の攻撃をかわし、近付いてくる敵兵を次々と斬り殺していく。遠距離斬撃は魔力を飛ばすので非常に精神力の消耗が激しいので、極力使わない。

 次から次へと湧き出る敵だけは決して尽きる事が無い。


 途中、七星とか名乗る男が現れ、周りが敬っている所からして、有名な武人なのだろうと警戒したが、ヴィルヘルムはこの程度の相手に魔煌剣を使うことも無かったと呆れてしまう。

 さらに侵攻を開始する。現れる敵を斬って斬って斬り殺す。進み続ける先は敵、敵、敵である。




 朝に始まった戦争は、その日の夕方には終わっていた。

 ヴィルヘルムは刃を腰にしまって、転がっている岩に腰をかける。

 落ち行く途上の太陽によって、夕陽が差し込まれた戦場跡は血と共に赤く染め上げられる。小さな町の前に広がる、かつて戦場だった荒野は無残なもので、地平に余す事無く死体が転がっている。烏などの野鳥、あるいは鳥型モンスターなどが亡骸に群がっていた。


「結局、死ねなかったか」

 ヴィルヘルムは溜息をつく。

 戦争は将軍を切り殺したところまでは覚えていた。混乱する軍隊の中で最後まで戦おうとする者は殺し、一日中、敵がいなくて困る事が無かった。

 戦争の結末がどうなったかは分からない。

 何人に先に進まれ、何人を殺し、何人に逃げられたかはもはやわからなかった。

 見渡す限り死体ばかりで、そのほとんどを自分が斬り殺したことだけは確かだった。長刀の刃は使い物にならない程で、魔力を通して辛うじて使っていた。

 戦いが終わった今の時点では、逃げた民衆がどうなったかも知る由は無かった。追ったところで手遅れだろう。そもそも、逃げた民衆を追いかけて、最後まで守り続けるようなお節介をする程、この伯爵領の民と仲良くしていたわけでもない。

 渡世の義理程度のものだ。ともすれば敵がいなくなるまで戦い続けたヴィルヘルムは、随分と義理堅いといえるのかもしれない。


「全く、この世はどうかしている。悪党こそがのさばり、善人ほど早く死ぬのだから」


 それは自分に言っているのか、それとも民の為に死を選んだイェンスを思ってなのかは、自分でもわかっていなかった。

 死ぬ場所を求めて戦場を歩いてみたが、結局は死ぬ事が許されない。多くの見知らぬ敵を殺し続けたが、殺してくれる敵には会えなかった。

「いっそ、帝国の帝城を襲撃するか…。いや、そうすると帝国中が混乱してもっと民草に影響が出る。はあ…参ったな。ヴィルヘルムはこの程度の戦場じゃ死ねないのか」


 5万を相手にしてもどうやら死ねないようなので、次の戦場を探すべく再び立ち上がる。


 5万対100、圧倒的不利な状況で、延々と刃を振り回して敵を斬り殺し続けていた。結果として、自軍は全滅し、自分の周りには敵はなく、戦争は終結。これが今回の結果である。

「とはいえ、なる程。この所業、まさに赤鬼だな」

 自分の周りには足の踏み場もないほどに、死体の山が積み上げられている。このようなものを作り出すような者を、鬼と呼ばずに何と呼ぶのか?

 自嘲して歩き始める。夏も半ばを越えた頃で、夕焼けの空が青く移り変わろうとしても、まだまだ暑いままである。

「これから秋になると野宿も厳しいかな。さすがにヴィルヘルムが夜中に野宿して凍死をしたなんて阿呆は出来まい。南へ行くかな。アームズ帝国が活発化しているようだし、戦場はまだたくさんあるだろう」


 ヴィルヘルムは血の臭いがする荒野を、南へと向かう。どうやらこの世界は鬼が死ぬにはまだまだ地獄の底が見つからないようだった。

 井の中の蛙、大海を知らず。だからと言って井の中が海より厳しくないとは限らない。そんな話です。

 早速、新キャラを出しておいて、こんな物語で申し訳ありません。

 どちらかと言えば戦いの無情さ、リュミエールがどういう国なのか、ヴィルヘルムには知る余地もないような力の動きが見えれば良いかなと思ってます。

 リュミエール側の中に、ケーニヒ辺りの話がありましたが、しばらくヴィルヘルムはそれに気づきません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ