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最強剣士の血風伝  作者:
三章
38/61

葬儀

 クーデターが起こってから5日が経つ。

 シュバルツバルトではクーデターによって失われた人間達の葬儀が各所で行なわれていた。空からは雪が降り続き、街を白く染めていた。


 端的に言えばクーデターは失敗したが革命は成功したといえるだろう。

 レーヴェ公爵に不満を持つ内部勢力とヴィーゼル伯爵軍が共謀した反乱により、多くの死傷者を出した。しかしそれらの軍隊を倒し、ヴィーゼル伯爵に責任を問おうとしたが、伯爵とその家臣団の全員が既に死んでいた。

 レーヴェ公爵に不満を持った内部勢力は、クラウス派の迅速な対応で粛清された。この反乱勢力はクラウス派だったという認識だが、クラウス派にとっては重要人物が少なく、上位の人間たちによって、自分たちにすり寄りたい連中を良いように消し掛けて踊らされただけだったことが推測される。ヨハンは証人をとらえて吐かせる前にクラウスに殺されていたのだから。

 ヨハン・フォン・レーヴェ現公爵は内部の突き上げを許し、クーデターによって重要な自派閥の人材が殺され、そして処罰しても敵勢力は痛くも痒くもない結果となった。

 この場合、クラウス派の自作自演を疑う所だが、疑りたくても、それを覆せるような勢力が現公爵派閥には残ってなかった。その為、現公爵への退任への圧力が強まり、ヨハンはまだ幼い息子に次がせる事が出来ず、兄のクラウスに公爵を明け渡す事となった。

 白々しいほどの自作自演に疑惑の目は残るが、それに対して文句をつけられるほどの強権を持った人間はいないのが現状である。


 一方、ドラッヘ家は上手く自身の家に関する遺体を回収し、最強の実行部隊でもあるトライデントに加え、マルクス、ミハエルの5名を含む多くのドラッヘ家派閥の遺体は、反逆者としてではなくクーデターの混乱の中で死亡したと発表している。こちらも多くの疑惑が湧き上がるのだが、武門における主要人物の死は非常に大きく、同情されるほうが大きかったといえるだろう。




 真っ白い雪の中で行なわれる葬儀の中、ユーリはリズと並んでただ呆然と見ていた。

 オズバルドの葬儀は、過去に世話になったという軍人の多くが駆けつけており、非常に多くの人達によって王都のハインリヒ男爵邸において、行なわれていた、中でも息子のオリバー、使用人のトルーデとエメリ、それにディオニスも泣きじゃくっていた。他にも軍人の後輩には人目を憚らずに大泣きしているような人もおり、どれだけ多くの人に慕われていたかが分かる。

「くそう、くそう!父上…父上。誰だよ、絶対に許さない、絶対に許さないからな!」

 泣きながらも怒りを露にしているオリバー。そんなオリバーの頭をユーリは撫でる。

「復讐なんて考えるな。そんなものに執着するな。オズバルドさんは自分の為に、お前の人生なんて使って欲しくないよ」

「ですが…」

「私はお前に人を殺すような………私のような男にはなって欲しくない。オズバルドさんも望んでないだろう」

「ヴィルヘルム様…」

 オリバーは肩を落とす。

「それよりもこれからが大変だ。オズバルドさんは領地から離れていても上手く行くように様々な手を取って来たが、それをお前は引き継がねばならない。家臣達を纏め、名主達とも話をしなければならない。無論、学校なんてもう通えないだろう」

「!」

 ユーリの言葉にオリバーは言葉を失う。

「オズバルドさんを思うなら、まず領を支えねばならない。誰よりも優しかったあの人が、領民を蔑ろにして復讐に明け暮れられたら、きっとあの世でオリバーを許さないだろう?」

「はい…。そうですね…」

 オリバーは手の甲で涙を拭い、ユーリの言葉に頷く。

「その…ヴィルヘルム様は……」

「……」

 ユーリは首を横に振る。

 オリバーとしてはユーリに頼りたいのだろうが、ヴィルヘルム(=ユーリ)という存在は非常に厄介なのをユーリ自身が嫌と言うほど理解していた。勿論、ユーリはハインリヒ領で、オズバルドが雇った教師を呼んで公爵になる最低限の教育を受けて、オズバルドのサポートもしていたので、領主の仕事を教えることは可能だ。

 だが、ハインリヒ領は2代目ヴィルヘルムの弟子が賜った領土である為、ユーリがオリバーを助けると、領民達はオリバーではなくユーリを見るようになってしまう。それは絶対に避けねばならなかった。あくまでもユーリは客人で無ければならない。しかし、ハインリヒ領において、ヴィルヘルムの顔は売れすぎていた。

「ディオニス。オリバーを助けてやってはくれないか?無論、古参の家臣がいるだろうが、先のクーデターで多くの中枢の家臣を失っており人手不足だ。私は立場上オリバーを助けるわけにはいかぬ」

「………」

 ディオニスはその言葉が決別の言葉なのだと理解して、是非を答えられなかった。

 だが、オリバーを助けてくれそうな人材が、今回のハインリヒの葬儀と一緒に他の者達の葬儀も行なっている。クーデターの際に共に戦った家臣達も一緒に亡くなっている為である。つまり、どれだけの人材が失われたかは一目瞭然だった。

 ユーリの付き人になってからハインリヒ領で暮らしているので、オリバーは年上であるがディオニスにとっては数少ない友人でもある。その友人の窮地を見捨てるわけにはいかなかった。

「考えさせてください」

 ディオニスは悔しそうに顔を歪めて頷く。



 ユーリは葬儀の途中ではあるが、その場を抜け出して王都の雪道を歩く。

「ユーリ、どこに行くの?」

 追いかけてくるのはリズだった。

「ちょっと用事があってね」

 ユーリは淡々と歩き続ける。

 白い雪を踏みしめる音を立てて、ゆっくりと歩く。向かう先は都市の中央部の方向だった。白景色となったシュバルツバルトだが店は多くやっており、街道は人の足跡で白い道が汚れていた。

 そんな折、ユーリは花屋へと入って行く。少なくともリズの知る限り、ユーリが花屋に入った事など、見た事が無かった。

 リズは寒い中、店の外で体を縮こまらせて手袋をしていながらも手を擦り合わせて暖を取ろうとしていた。するとユーリは直に店から出てくる。手には目に毒々しいと言っていた真っ赤なプルチェリーマの花束を持っていた。

「どこ行くのって、聞かなくてもわかるか。だからって今日、リオと遊びに行く事もないでしょう?どこにいるか知っているの?」

「ん、まあ……多分、今日会わないと2度と会う事もないだろうからな」

「?」

 リズは不思議そうに首を傾げる。



 2人がたどり着いたのはオズバルド邸同様に葬儀を行っているドラッヘ公爵邸の近くにある教会だった。弔問客が多くおり、あちこちですすり泣く声が聞こえてくる。

 真っ白い景色の中、多くの人が出入りしている。葬儀とあって誰かが入口で止めるという事も無く、ユーリはそのまま真っ直ぐに教会の墓碑が並ぶ庭園へと歩いていく。

 多く人の集る場所へユーリが歩いて行くのを見て、リズはふと進む先を見て驚きを露にする。喪に服した人間達はドラッヘ家の人間達だ。ギュンター・フォン・ドラッヘ公爵、ヴァルター・フォン・ドラッヘ次期公爵などが葬儀に参列していた。

「ゆ、ユーリ?」

 リズは、何故ここに来たのか、嫌な予感と共に何を意味しているのか、この時ほど自分の優秀な頭脳を恨めしく思うほどに分かってしまっていた。


 5つの棺桶が並ぶ。中央の棺桶にはリズもよく知る人物が眠っていた。

「誰だ、貴様!」

「ここはドラッヘ家の葬儀中だぞ!」

 周りの人間達がユーリ達の姿に気づいて前に立つ。

 だが、そこで目を赤く泣き腫らしていた喪服の女性がハッと気づいたようにユーリのもつ花束に視線を向ける。プルチェリーマはリオと自身の思い出の花である。これを知っているのはリオの妻、そしてリオの従兄であり共に修行をしてきた兄弟同然に過ごしてきたヴァルターだけである。

 ヴァルターはユーリに視線を向ける。

「リオの…友人か?」

 ユーリはコクリと頷く。リズは口元に手を押さえて、驚きに打ち震える。信じられないという表情をして足を止める。

「うそ…リオが……死んだ?」

 リズはあまりの事に嘆き、堪えていた涙腺を崩壊させて涙を流す。

「恨んでくれていい」

 ユーリはリズに申し訳なさそうに頭を下げて棺桶に花をささげる。

「貴公は?」

 ユーリに名を問うヴァルター。従弟の友人が弔問してくれたことに感謝を示そうとしていた。

「……私は………………名をヴィルヘルム・フォン・ファルケンという。この者らを殺した男だ」

 ユーリの言葉に、この場の全員が驚きの表情をする。リズは目を大きく開いてユーリの陰鬱な表情を見る。この男がずっと黙り続けていたのは、この事実だったのだ、と初めて気づく。

 周りには怒りと憎しみが渦巻く。ユーリは棺桶の前で祈りをささげる。

「何で…何でよ!リオは…リオは友達だったじゃない!何でそんな事が出来るのよ!」

 リズはユーリを責めるように叫ぶ。

「兄や祖父を殺した男が……敵として対峙した以上、親友を手にかける事を止められるはずがなかろう。ハハハッ………祖父上は最初から分かっていたのだな。リオがミハエルだったという事を。だからヴィルヘルムの儀を必要としていたのだ」

 ユーリはリオの安らかに眠る顔を見て涙を流す。


 だがユーリの言葉を聞いて、喪服の女性、ミハエル・フォン・ドラッヘの妻にしてマルクス・メレンドルフの娘マルガリータ・メレンドルフが懐刀を取り出し、ユーリへ憎悪の視線を向けて刃を向ける。

「いけない!殺されるぞ!」

 慌てて止めに入ろうとするのはヴァルターだった。目の前の男がヴィルヘルム・フォン・ファルケンならば、復讐するよりも先に首が飛ぶ。

 だがそれより早くマルガリータはユーリに復讐の刃を向けて走り出す。


 白雪に真っ赤な血が飛び散る。

 マルガリータの刃がユーリの左腹に刺さっていた。


 ユーリは刺された事で初めてマルガリータが自分を殺そうとしていた事に気付いたように見下ろす。血走った憎しみの瞳が自身へと向けられていた。

「きっと……私はそのような目で親友を睨んでいたのだろうな…。すまぬ。謝って済む事でもないだろう、だが……私には義父とも言うべきオズバルド・ハインリヒを殺した男を討たないと言う選択肢があの時に思い浮かばなかったのだ」

「!」

 ユーリは酷く優しい瞳で、救いを求めるように、マルガリータへ告げるように口にする。

「なんて…事を…」

 リズは何が起こったのか、どうしようもなくなっていた状況だったことを知り、責める言葉さえも浮かんでこなかった。

 憎しみに彩られたマルガリータの視界の中に入った、ユーリの瞳が、亡き夫と同じ色と優しさを湛えていた事で、自分の行なった凶行に驚いたように懐刀を手放し後退る。

 真っ赤な血に塗れた刀は地面の上に落ちる。


 ユーリは視線をギュンターへと向ける。

「ギュンター・フォン・ドラッヘ。………いや、敢えてこう呼ばせてもらう。祖父上様。何故、……何故、あのようなクーデターに乗った。ドラッヘ家が乗る話ではなかった筈だ。このような下らぬ些事で多くの人が亡くなった。あんな事が無ければ、私はリオを殺さずに済んだのに!」

 ユーリの嘆きにヴァルターはハッと気づく。ユーリの顔立ちはリオによく似ていた。

 最近出来た友人が、生き別れた弟と同じ名前で、同じような赤い瞳をしている事、本当の弟と過ごすように楽しそうに話していたのリオの姿をヴァルターやマルガリータは思い出す。

「ユーリ、まさか、幼少のみぎりにエドガーにさらわれた貴様が、よもやヴィルヘルムを継いでいたとはな。此度、我らを反逆者の謗りを受けずに済んだのは、お前が死体を回収する我らを見逃したからだ。それに関しては礼を言おう」

 ギュンターはユーリを見て、そして最低限の礼だけをする。

「友を犯罪者として、死体を辱めるような真似をする程、堕ちたつもりはない。もう、このような事が2度と起きない事を祈るだけだ」

 ユーリは首を横に振り、そのまま背を向けて立ち去る。

 リズは慌ててユーリを追いかける。

 ブクマ・感想・評価ありがとうございます。

 次回で第3章が終わります。第4章の構想は存在していても、最終的な主人公の進む方向性を見失っている状況で、ほとんど書けておりません。

 やばいなぁ。今年中に一段落付けたいのですが…。

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