表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強剣士の血風伝  作者:
三章
36/61

ミハエル対オズバルド

 ファルケン家傘下の貴族として会議場となっているレーヴェ領の公爵が持つ居城の外で警備をしているのはオズバルド・ハインリヒ男爵を含むケーニヒ公国の軍務系貴族とその家臣団。


 オズバルドは家臣団を持っていないのでロートブルクのファルケン私兵団らと協調して巡回をしていた。彼は元々ロートブルク勤めだった時代があるので優秀な先輩として多くの軍人たちに尊敬を集めていた。

「やっと終わりますねぇ、先輩」

「だが、あまりだらけない事だな。こういう時こそ狙われ易い。ずっと様子を窺っていたがチャンスが無かったからと、最後になって暴発させるような例も過去にはあった。まあ、街の中は他国の人間が潜入しているという話もないしテロの問題はないとは思うが」

「ですね」

 オズバルドはかつてのロートブルク勤務時代の後輩と共に警備を勤めながらそんな話をしていた。


 そんな折、街の方から悲鳴が聞こえてくる。

「何だ?」

「おい、どうした!?」

 2人は訊ねると、部下の1人が走って報告へとやって来る。

「大変です!軌道列車のミニアツルガーデン駅付近から突如2000の軍隊が現れ、それと時を同じくして市街周りのレーヴェ私兵団が一斉蜂起しました!」

「!」

 聞きたくない報告が行われる。領内のクーデター発生である。

「レーヴェ家は、ヘルムートが亡くなって2つに割れているとは聞いていたが、今ここで蜂起してどうするつもりなんだ?」

 明らかに呆れている後輩の声にオズバルドも同様の感想を持つ。ここで蜂起したら国家反逆ともとられかねない。

「取り敢えず会議場を守るように伝えろ。まさかレーヴェの私兵が自領の民を攻撃するとは思えない」

 そう言った矢先に爆発音が響き渡り、遥か遠方で大きい煙が立ち上がる。

「お、おい、まさか」

「自領を焼くつもりか!?」

 たくさんの悲鳴が響いてくる。

「中央より現れた軍隊はヴィーゼル伯爵軍です!」

「次から次へと……。私はヴィーゼル伯爵軍の対応に当たる。どんな軍勢だろうと市街である以上、道の幅で戦える人数は決まってしまう。通路による挟み撃ちに気をつけて防衛に当たれ!100人ほど借り受けるぞ!」

「はっ!」

 オズバルドは周りに指示を出して走り出す。



 齢50に近いオズバルドだが、未だに現役である。彼は数年前までヴィルヘルムを継承したユーリに技を教えていた。つまり修行として剣を交えていた事を意味する。

 数分前まで平和だった市街が、一転して炎と悲鳴の上がる戦場と化していた。

 無能な貴族の暴発はよくある事だが、今回は手際がよすぎる。

 オズバルドはヴィーゼル伯爵の人となりをある程度把握している。お世辞にも思慮深い人物とは言えない男で、傲慢でいけ好かず、平民を平気で蔑ろに出来る人物だった。

 とはいえ、彼も貴族である。こんな大それたことをすればどうなるかは分かっているはずだ。

「先輩、ヴィーゼル伯爵は何を考えているのでしょうか?」

 訊ねてくるかつての後輩に、オズバルドは苦々しく顔をゆがめる。

「何者かに唆された…というのが正しいだろうな。レーヴェ家のお家騒動で、クラウス派に唆されて、という所だろうか?クラウス自身は知らぬ存ぜぬで通すだろうが」

「そんな事が許されるのですか!?」

「許されるだろうよ。ドラッヘとファルケンの見ている前で反逆され、ヨハンは失脚する。クラウスは自分の派閥だろうと、ヨハンの家臣がやった事だからな。当人が否定し、証拠が出なければ罪には問われまい」

「証拠が出ないわけが…」

「派閥の半数を抑えた人間からどうやって証拠が出る?」

「!?」

「どうせ生きてる連中がクーデターで死んだ連中に罪を被せるだろう」

 オズバルドは吐きつけるように口にする。

 貴族は基本的に自分の利権を得る為に足を引っ張り合うのが常である。だから強いものに巻かれるのである。公明正大な王など何の飯の種にもなら無い。そしてより強い勢力に傾くのだ。

 ファルケンの傘下にいたオズバルドは15年前の戦争で嫌と言うほどそれを味わっている。


 彼らが進む先、レーヴェ家の居城へ向けて進軍する、恐らく軌道列車の駅から侵攻してきた一団が現れた。目の前の敵は500程度で街道を塞ぐように進み、魔導銃を持って前方の障害であれば一般市民であろうとお構い無しに殺戮を続けていた。

 オズバルドらは強固な盾を持つ重装歩兵を前方に立てて魔導銃から身を守りつつ相対する。

 だがクーデターを起こした軍勢はお構い無しに進軍し銃弾の雨霰を降らし、盾と盾との間をすり抜けて弾丸を食らう兵士が幾人も出てくる。

「このままでは…」

「私が切り込み魔導銃士隊を引きつける。その隙に一気に進み、敵を押し込め」

「む、無茶な!?」

 周りの人間達は無茶な事を言う上司に悲鳴を上げる。

 だが、オズバルドは盾を寄り添わせて防備を固める自軍を飛び越えて、弾丸の雨を降らす一団の前に躍り出る。

「魔煌剣・大鷲!」

 一撃で前方にいる魔導銃士隊の半数が吹き飛ばされ、幾人かはそれで絶命している。

「なっ!」

「何だ、あのジジイ!?」

「化物か!?」

 相手の軍勢が悲鳴を上げる隙に、一気に距離を詰めて、軍勢の中に切り込む。

「重装歩兵部隊!進め!オズバルド閣下に続け!」

「「おおおおおおおおおおおおっ!」」

 一気に軍勢と軍勢がぶつかり合う戦いとなる。

 さすがに重装歩兵のような重い装備を軌道列車で運ぶのは厳しいので、相手は攻撃重視の銃士隊をメインで組んでいる。その為、ぶつかり合いになると一転して不利になる。

 オズバルドはそれも込みでの作戦を立てていた。

 そしてその作戦を立てた男は、前線で魔煌剣を使い次々と敵の装甲を簡単に切り裂いて、血の華を咲かせていく。

「化物だ!」

「一時退却だ!」

 クーデターを起こした銃士隊の後方部隊は逃亡へと走る。オズバルドたちも防衛を任務としているので迂闊に守るべき拠点から離れる訳にもいかないのでそれを後追いしない。


「す、すげ…なんすか、あのオッサン」

 若い兵士はOBと聞かされていたオズバルドのあまりの強さに戦慄していた。

 ゴンッとオッサン呼ばわりした若い兵士の頭を小突くのは上官である。

「ハインリヒ男爵家はそういう一族だ。ファルケンのお家騒動で技術が途切れた際に、本家に鬼神ヴィルヘルムの技を指南する役割を持った地方領主だ。実際、15年前の戦争で活躍したゲルハルト公爵閣下に技を教えたのはハインリヒ男爵の祖父だったらしい。鬼神の技を継承している家だ。ファルケンの武門が途切れた今ならば、個の武力だけなら南西部最強の剣士だ。普段は大人しい方だがな」

 そんな話をしているのだが、オズバルドは戻りながらも微妙な表情をしていた。

 自分が人生の大半をかけて身につけた剣技を、たった1年で身につけ、自分の数倍の威力で放つ本物の怪物を知っている。それだけに、自分を持ち上げるような他愛無い話を聞いても恥ずかしいだけである。そもそもユーリの大鷹ならばその後の戦闘も何も一撃で敵兵を全滅させただろう。

「南西部最強などおこがましい事だよ」

 オズバルドは謙遜する様に口にする。周りは謙遜するように感じているが、当人からすると南西部に大陸最強の怪物を知っているので、言葉のとおりおこがましいと感じているのだった。

「故ゲルハルト・フォン・ファルケン閣下や故エドガー・フォン・ファルケン殿ならば、魔煌剣・大鷹であの軍勢を撃滅して、我らの仕事など存在しないだろう。所詮は彼らが技を途絶えた際に伝えるだけの伝言板のような家だからね。今のファルケンはそれを必要としないので寂しくもあるが」

 オズバルドは諌めるように口にする。若い者達はもっと頑張れと励ますように。


 オズバルドら防衛軍は元の隊列に戻りながら敵を深追いせずに守っている中で、城の裏口方面からの襲撃があったという連絡を受けて、駅側の方面を後から来た部隊に任せて、城の裏口方面へと移動を開始する。


 次に現れたのは敵重装歩兵部隊だった。

 恐らくレーヴェ家の私兵で、綺麗な隊列を組んで、城から一歩たりとも逃がすまいと動いていた。城門を守る部隊が小競り合いをしている状況にあった。

「城へ入れさせるな!城門の防衛部隊を援護せよ!」

 城門で外部から横槍を入れるようにオズバルド達は重装歩兵部隊へと侵攻する。

「加勢が来たぞ!」

「誰一人反逆者どもを城へは入れさせるな!」

 城門の防衛に当たっていた兵士達も活気付く。

 オズバルドは戦いの中で次々と敵兵を蹴散らしていく。ファルケン家は一騎当千で初めて一人前と言う。その一人前になるまでファルケンの子供を指導する為に出来た家がハインリヒ家である。普段は温厚で優しい人物であるが、鬼神を戦場に送り込むような家が、果たして鬼の化身でないと誰がいえるだろうか。当人が一騎当千でなければ、そのような怪物を育てられるはずもない。

 ユーリがオズバルドの息子オリバーに手解きをしている本当の理由をオズバルドはよく知っている。目指すべき場所を示し、お前はこれをファルケン家に教えられる男にならねばならないと強さを叩き込んでくれていた。オズバルドはゲルハルトに剣を教わっている人間でもある。こうしてハインリヒ家はファルケンの技術を受け継いで来たのだ。


 だがそこで情勢が変わる。見たことの無い軽装鎧に顔を隠した兜をつけた集団が後方より現れる。いずれも槍を持っており、ただの槍部隊だと認識していたが、その中に5人、とんでもない達人がいた。

 密集の中をするりと抜けてきて、槍を回転させて通りすがりに立つ敵だけを刺し殺していく。

 血の飛沫を吹き散らし、謎の槍術使いが敵を蹴散らしながら進んで行く。

「!?」

 オズバルドは単独で城門まで破ろうとする槍術使いの前に出て剣を振る。だがその攻撃を槍術使いは軽くいなし、槍の穂を振りオズバルドを吹っ飛ばす。魔煌剣と同じく槍の穂先に魔力を溜めて攻撃している。

(これは…)

 レーヴェ家のクーデターという印象があっただけにオズバルドは、相手がレーヴェ家とヴィーゼル伯爵家の共謀した襲撃だと予測していた。

 だが、目の前に立つ槍術使いはオズバルドも知っている術者だった。

 レーヴェの家紋をつけた鎧だが、使った技術は宮廷魔導士の護衛部隊でもある槍術使いの技術だ。つまりドラッヘ家の手勢であることを示す。このクーデターに彼らが極秘で支援しているという事実に気づく。

「その首は証拠として頂くしか無さそうだな」

 オズバルドは剣を構え、最も強者と思われる男の前に立つ。

 オズバルドは魔力を剣に流して一気に攻め立てる。だが相手は槍で攻撃を受ける。しかし、距離を詰めれば槍よりも剣の方が有利で、混戦の中で戦うには経験値も含めてオズバルドのほうが有利だった。

「いかん!若様がおされている!助太刀に向かえ!」

「何だ、あの化物みたいなジジイは!」

 槍術使いたちも驚いたように呻く。

 ワカサマという言葉が入る様に、オズバルドと対峙している一際高いレベルの実力者は一番若かった。

(ドラッヘ家の若い槍術使い………まさか…)

 オズバルドは冷たいものを感じる。目の前にいる青年、兜の奥に見える燃えるような紅玉の瞳と目が合う。

「まさかミハエル・フォン・ドラッヘ」

 オズバルドは驚愕と共に口にする。槍術使いは引き攣るように口元をゆがめ、そして槍を大きく振って距離を取る。

 だがオズバルドは必死に喰らいつき刃を突き立てる。目の前の男はここで殺さなければならない。誰もが知る大きい証拠が後方を撹乱する為に参加していたのだ。

 剣を振るうオズバルドだが、槍で攻撃をいなす。

『我が名において命じる。大気に漂いし静寂なる調べ、雄大なる天地の狭間に移ろう疾き者。我が声に耳を傾けたまえ。我が示したもう形は疾風の嵐、向かうべき場所は眼前!』

 槍で防御しながらも魔法の呪文を口にする。平行詠唱が可能な槍使い等この国に幾人もいるものではない。

「全員!伏せろ!」

「嵐刃」

 真空の刃が嵐のように撒き散らし、防衛に入っていた兵士達に襲い掛かる。

「うおおおおおおっ!魔煌剣・大鷲!」

 最も強力な剣技で吹き散らそうとする。だが放たれた魔法の刃も圧倒的な物量を持つ真空の刃によって切り刻まれ、そしてその真空の刃はオズバルドに、そして背後の兵士達をも切り裂いていく。大量の血が空へと舞い散り、死体と鮮血によって城門まで道が出来る。

「全軍!進め!城を制圧しろ!」

 槍術部隊は全員に指示を出す。

「我々はここで撤退しましょう」

「はい」

「少々やりすぎです」

「すまぬ。だが、あの剣士、技量もそうだが、私をミハエルだと察してしまった。早急に始末する必要があった」

 魔法を使った男は、体内の血をすべてぶちまけたのではないかという致死の傷を負ったオズバルドを一瞥して口にする。

 槍術部隊はそのまま城とは逆方向へと撤退して行く。

 物語上でいえば起承転結になり、第3章は転の役割を示します。

 このまま3章クライマックスへ突入いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ