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最強剣士の血風伝  作者:
三章
32/61

遊び場

 ユーリが、定職屋でリオと名乗る人物と出会ってから暫く経つ。同年代だったこともあり、自然とユーリはリオとよくつるんで遊ぶ様になっていた

 この日もユーリとリオの2人は遊び場へとやって来ていた。遊び場といっても別に娼館といった大人の遊び場ではない。

 どちらかと言えば紳士の遊び場。


 バーテンダーのあるシックな雰囲気の店で、ダーツやチェスボード、ビリヤード台などが置いてあり、2人はそこでよく顔を合わせる。

 ちなみに、リズもよく底に混ざっているので、正確には3人である。


 チェスをやらせるとリズはほぼ無敵。賭博チェスで貴族から金をふんだくっていたというのは本当のようだ。実際、わざと勝ち負けを繰り返し、ほんの少し勝つ事で生活費を確保していたらしい。勝ちすぎると睨まれるし、負ければ文無しで生きていけないというのが理由だそうだ。裕福でおおらかそうな紳士を選ぶのがポイントだとか。若い男はちょっとの勝ちも許せずに突っ掛かってきたりするから危険らしい。


「よしっ、私の勝ちだな」

「ぬう」

 この日はビリヤードの日である。

 ビリヤードはユーリとリオの一騎打ちとなる。

「まさか、この私が勝てないとは」

 リオは棒扱いにはかなりの自信があったようだが、ユーリはその上を行く。長いものなら帯でも刃にするユーリにとって、ビリヤードのキューは指よりも自在に動かせる。

「これで85戦78勝。私の勝ちだな」

「くうっ…リオ!あの調子に乗ってるクソガキをけちょんけちょんにしてよ!」

 口の悪いリズは、新しく出来た友人に訴える。

「いや、ユーリはビリヤードが強いね。最初はあんなに下手なのに、教えたらあっさり抜かれたよ」

「もしかしたらビリヤードをやる為に生まれてきたのかも知れぬ」

 ユーリはギラッと目を光らせる。キューをくるくる回してから、壁に立てかける。

「でも、ダーツは全然駄目だよね」

 リオはダーツのある方向を指差して訊ねる。

「折角魔力を持って生まれたのに、魔法は結局覚えられなかったからな。どうも、こう、体から何かを飛ばすのは苦手なんだよ」

 ダーツの投げる振りをしてぼやく。魔煌剣・大鷹にしても微妙に制御が下手なのである。

「だから童貞なのよ」

「「ぶっ」」

 リズ(女子)のかなり際どい突っ込みに、男2人は噴出してしまう。

「リオは奥さんいるんでしょ?」

「ああ」

「今度連れて来れば良いのに」

「子供がまだ小さいからね。遊びには行けないよ」

 リオは肩を竦める。

「それは残念。ならば、逆に子供を放って大丈夫なのか?」

「肩のこる仕事ばかりやっているので、むしろ息抜き位して来いと追い出される始末さ」

 苦笑気味にリオは説明する。

「ほら、リオは体から何かを飛ばすの上手でしょ。奥さんにもちゃんと届いて」

 リズはケラケラ笑ってユーリに訴える。

「すいません、私では取り扱い困難なので助けてください」

「あははは、セクシャルハラスメントを女性にされる日が来るとは思わなかったよ」

 男2人で困り果てる事になっていた。どちらもセクハラを平気でする女に免疫がないので涙目でうめく。とはいえ、対応を放棄したユーリに対して、リオは肩をすくめて対応していた。

「突っ込みを放棄したユーリと違って、リオはちゃんとセクハラだって突っ込んでくれたじゃない。やっぱり、こう…女性に対する突っ込みの上手さが、童貞ユーリと奥さん持ちのリオとの違いなのね」

「ごめんなさい。私にもかなり厳しいです」

 リオは引き攣って呻く。

 リズことリーゼロッテ王女殿下の鬼神の如きセクハラの嵐が、男2人を困惑させていた。

「一体、そういうセクハラをどこで覚えてきたんだ貴様は」

「女1人で、生きていくにはそういうセクハラを散々言われるからねぇ」

 もっと下品な貴族を相手にチェスをしていたという事なのだが、二人にはそんな貴族がこの世にいることを知らなかったのだった。


 そんな中、チェスボードを前に何やら男達が揉めていた。

「こ、こんなのイカサマだ!」

「君に、もはや手が無いのは事実だろう。もう負けを認めるなら、支払いをしてくれないか?それとも、まさか負け分を払えないとは言わないだろうな、男爵家の子供なんだろう?さっきから散々偉そうに語っていたじゃないか、うん?」

「くっ」

 何だかどっちもどっちという感じの声が聞こえてくる。

 かたや学生服を着た少年達、かたや黒いスーツを着た男。

 チェスに負けてイカサマだと訴えている少年の背後には4人の学生服を着た少年達がいぶかしむように相手の男を睨んでいた。

「これまでの2ゲームはわざと負けてやがったな!」

 学生の一人が前に出て訴える。

「人聞きの悪い。それにラストゲームだと言ったのも、3ゲーム目がやりたいなら掛け金はこれまでの3倍だとレートを上げたのも君たちじゃないか」

 黒服の男は肩を竦めて嘲笑う。


 だがそこで学生たちは互いに目配せをして、拳を握る。不穏な空気が漂う。

 その時、何やらゾロゾロとこの場にはそぐわない賞金稼ぎのような格好をして、腰に帯剣をした男達が入ってくる。荒くれ者10人が学生たちを取り囲む。

 学生達は暴力でどうにかしようかという雰囲気を持ったが、一気に形勢逆転されてしまい、何も言えなくなる。

「トーマス。何をやってるんだ。随分遅いじゃないか」

「いやあ…ここのお坊ちゃん達が支払いを渋っていてね」

 黒服の男は白々しくも、賞金稼ぎの男達に訴える。

「そりゃ、いけねえなぁ」

 賞金稼ぎ達はニヤニヤと笑いながら学生たちを取り囲む。


 こういった詐欺のような話はどこにでも転がっている。調子に乗った貴族の学生がプロに嵌められて、逆に貴族の領地にまで多額の請求を求められるケースがある。

 特に、帝立高等学校は校則で賭博を禁じている。彼らはそれらをよく知っているのだ。


「そこまでにしておきなよ、お兄さん達」

 リズはそんな中を堂々と歩いて割り込む。

 その様子を見ていたユーリとリオは、いつの間にかリズがその現場に割り込んで行ったのを見て驚く。

「何だ、テメエ」

「おかされてえのかよ」

 賞金稼ぎと思しき男達はニヤニヤと笑ってリズを嘗め回すように見る。

 リズは、中世的な服装をしているが、隠しようも無い程度に細い腰つきと美しい形をした胸を保持しており、また、喧嘩仲間であるユーリからしても見た目だけは良いというように、金髪にライトブラウンの瞳の美女である。

「あら、お子様を脅してお金をせびり取ろう何ていうしょっぱい男には興味なくってよ。それよりも、小父様。私と一戦しないかしら?」

「ああん?」

「そうね、賭けるのは、私の体って事で良いかしら。その代わり、私が勝ったらこの子達を見逃してくれないかしら」

「へえ、正義のヒロイン気取りかい?だが、それだけじゃあ、賭けには乗れないなぁ。俺はアンタの腕を知らないわけだし」

「そうね、じゃあ、私が学生さん達の変わりにこれから打つわ」

 リズはトントンとチェス盤を叩く。その言葉に全員が絶句する。

 そして黒服の男はニヤリと笑う。

「アンタもスキモノって訳か?」

「さあ、どうかしら。賭けは成立って事で良いのかしら?」

「ガキが投了した状態からやるって事だろう?良いぜ、乗ってやろう。その代わり、負けたらガキ共は勿論、お前の体はねっぷりと俺達で楽しませてもらうぜ」

「あら、それは素敵ね。でも…貴方達にそれが出来るのかしら?」

 リズはニヤリと笑い、チェス盤を眺め、そして駒を1つ動かす。

 黒服の男は少しだけ眉を動かすが、気にせずにチェックをかける。

 だが、リズはそのチェックを軽くかわす。黒服の男は更に深追いするように駒を打つ。

「そこで良いのかしら?まったは無しよ?」

「ああ。お前に勝機は最初から無いからなぁ」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 リズの一手で全員がチェス盤を凝視する。完全に劣勢だった筈の状態だったが、今の一手で素人でもリズのほうが有利になったのが分かる。

 黒服の男は凍りつきチェス盤の前で固まる。

 相手が散々悩んで打った手を、リズはさらにノータイムで打ち返す。

 黒服の男は必死に盤面を睨んでいた。そして思い切った逃げの手を打つが、そこでリズは最後の一手をうつ。

「チェックメイト」

「!」

 どよめく声が広がる。

 リズは肩を竦めて笑い、

「ほら、私の勝利よ。学生さん達も帰って良いわよ。これに懲りたら、背伸びをしてこんな場所に遊びに来ない事ね。それと…相手からとった分は全部置いていきなさい」

「は、はい、ありがとうございます」

 学生達は相手から儲けた分を置いて、逃げる様にこの場から去っていく。

「くっ……女ぁ、生きて帰れると思うなよ」

 黒服の男は羞恥と怒りに顔を赤く染め、コメカミに血管を浮かべてリズを睨みつける。

「ガキ相手にぼったくろうとしているお前らの根性も大概だがな」

「やめておいたほうが良いよ」

 ユーリとリオがリズを守る様に前に出る。


 リオの頭上にはいつの間にか炎の玉が無数に浮かんでおり、この場の全員を瞬時に焼き払うには十分な量が存在していた。

 それと同時にユーリは黒服の男の口の中にいつの間にかビリヤードのキューを捻じ込んでおり、前に押し込めば喉元を貫く所まで来ていた。

「「全員がかかっても勝てない事位分かるだろう?」」

 リオとユーリの言葉が重なる。


 男達は青褪めて走って逃げて行く。


「無茶をするよ、全く」

 リオは肩を竦めて、呆れた様子でリズの方へと視線を送る。

「学生が授業料を払う程度なら放って置いたんだけどね。あの連中の中に指名手配犯が混ざってたから。授業料どころか人生を棒に振る程度にはやられそうだったから止めて置いてあげたのよ」

「お前が怪我したら意味が無いだろう」

「あら、ここで心配されるとは、私の気を引くチャンスとか思ってるな!?」

「いや、言われてみたら、あいつらに売り払われても別に構わないような気がしてきたな」

「ひどい!だからもてないのよ!」

「ぐっ」


 何だかんだで3人でつるんでバカをやりながら楽しく過ごしていた。

 大体、トラブルメイカーのリズに、ユーリとリオが振り回される形になることが多いのだが。

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