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最強剣士の血風伝  作者:
三章
31/61

定食屋にて

 夏の月も半ばを過ぎ、熱くなる大陸西部にも夏がやってくる。

 大きい盆地にあるケーニヒ公国にも夏がやってくるのだが、ここの国は四季があり、夏は渇いた暑さを持っている。

 特に日で肌がチリチリと焼けるような暑さに、風通しのよい長袖が一般的な服装となっており、女性は頭からすっぽり隠すような薄布で出来たケープを被る事が多い。


 ヴィルヘルムは公爵になると同時に、ライナーに再び継承権を譲渡する。王国時代だったら勝手にできない所だが、公国なので公爵位の敬称は公爵たちの間で勝手にやって、帝国に後で報告するという形式になっている。

 これで一応、祖父からの遺言を守った事にはなり、ヴィルヘルムは自由となり改めてユーリという名に戻す事にする。未だ戦後のゴタゴタが残っている中で、ヘルムートが何者かに暗殺された為に非常に国家は忙しい状況にあった。


 オズバルド・ハインリヒは毎日忙しそうに仕事をしており、ぐったりとしているのがその証拠である。

 居間のの机の上でグッタリしているオズバルドを見ながら、エメリとユーリは世間話をしていた。

「お館様は忙しそうです」

「世の中、真面目な人がバカを見るというのが良い見本だ。難しい仕事に対して、こんな仕事は出来ないと、仕事を振られる前に自分から逆切れして口にすると、出来そうな人に仕事が割り振られる。そして割り振られた人が、やっぱり出来ないと、文句を言われる。社会ってのはそうやって回っているんだよエメリ」

「酷いですねぇ」

「先手必勝とも言うけどね」

「ようするにお館様は負けてしまったと?」

「くくくくく、オズバルドさんはお人好しな上に、頑張り屋さんだから、必死に仕事を回しているんだよ。安い俸給なのに」

 二人が談笑していると

「その半分はユーリ様の処理なのだけど」

「げふんげふん」

 オズバルドは体を起こしてやり返すものだから、ユーリは咳き込んで目をそらす。

「ユーリ様は暫くしたら出て行くとは聞いてますが、いつになりますか?」

「そうだね、今すぐでも良いのだけれどそうすると国の最新情勢が聞きにくくなるからね。ウルリヒが……ウルリヒ様が卒業して皇女殿下と結婚するまでって所かな」

「確かに、それが一番良いタイミングでしょうね」

 ユーリはオズバルドと頷きあう。反面、エメリはしょぼんとする。

「おーい、ユーリ。昼飯食べに行こうぜ!臨時収入入ったから驕ってやるよ、ウニ丼」

 やって来るのはリズである。見た目は絶世の美女と称してもおかしくない筈なのに、なぜか男らしいセリフを吐く。

 ユーリはジトリとリズを睨む。

「あたかも上から目線で語るな!お前は私にウニ丼を驕る義務があるんだよ!」

「べ、別に変わりに払っておいてなんて頼んだんじゃないんだからね!?」

 わざとらしい照れ隠しをした振りをするリズに、ユーリは思いっきりひきつる。

「何、その照れ隠し風!?一方的に迷惑掛けただけの癖に!」

「分かった分かった。ようするにウニ丼はいらないと」

「リズ様、一生ついて行きます」

 ユーリは即座に土下座頭を180度下げて前屈の如き礼をしてお願い申し奉る。相手が王女殿下でもここまでへりくだるのはケーニヒ王国においては珍しかった。

「素直に驕ってくださいといえば良いものを」

 リズとユーリは一通り文句を言い合ってから、以前の定食屋へと向かう。

「何だか…仲良しです…」

 去っていく2人の背中を眺めて、エメリは羨ましそうに口にする。

「まあ、…何だかんだで対等に付き合える存在が少ないからね、ユーリ様は。ディオニス君が来てから随分と明るくなった事だし、彼女もまたいい影響を与えているんだろうね。これは良い事なんだよ」

 オズバルドは苦笑する。



 街を歩くユーリとリズの2人は目的地の定食屋へと向かう。

 店に入ると、やはり客がたくさん入っていた。

 2人は4人用テーブルに案内されて、向かい合って席に座り、それぞれ丼を頼む。ユーリはウニ丼でリズは肉丼だった。

「って、そっちのほうが凄く美味しそうなんだけど」

「隣の芝は青いものよ。ジューシーなデビルブルの肉の脂の乗った場所を切り落とした、この店特製よ」

「肉が…肉が…」

 基本的にユーリは肉さえあれば生きて行けそうな勢いを持っている男である。

 ウニ丼を頼んでもやはりリズにしてやられる哀れな男だった。

 すると店員がパタパタとユーリ達の方へやってくる。

「すいませんが相席でよろしいでしょうか?」

 店員が聞いてくる。席は満席で、自分たちの隣にそれぞれ一つずつ席が空いている。

「かまいませんよ。食い逃げをしない相席なら」

「皮肉か!?」

 ユーリの言葉にリズは引き攣って呻く。店員はそれを聞いて再び入口の方へ向かい、客の1人を案内してくる。

 相席と言う事でユーリの隣に座る男は、

「肉丼1つ大盛で」

 常連だったようでサラリとメニュー表を見ずに注文する。

「畏まりました」

 店員が奥に入って行く。

「オオモリ!?」

 ユーリは愕然として隣に座った男を見る。

「そんな注文がありなのか!?」

 そして再びリズを見る。

「言っておくけど、私のおごりなんだから、ウニ丼以外の何者も驕らないわよ」

「けちな女だな」

「女に驕られるしょっぱい男に言われたくないわ!」

 2人はにらみ合っているのだが、そこでリズはユーリの隣の席に座った男を見て、違和感を持つ。ユーリと非常によく似ていたからだ。 

「……ん?兄弟?」

 リズは隣の男と指を差して尋ねてくる。ユーリは首をかしげて隣を見る。隣にいた男も不思議そうにしてユーリを見る。

 赤い髪に赤い瞳、容姿の特徴がよく似ていた。

「「…いやいや、私に兄弟はいないよ」」

 と同時に応える。見事にハモった。

「そもそもリズは私の家族関係を知っているんじゃないのか?」

「そういえばそうだったわね」

 ユーリはヴィルヘルムを名乗っていた。ヴィルヘルムは家族を殺してその名を継いでいるのだから、ヴィルヘルムに家族がいない事を知っているはずなのだ。

「私はファルケン領出身の母がいたからね。赤い瞳はその所為だろう。小さい頃はうさぎのようだと笑われたものだよ」

「兎か…」

「そんな可愛い生物だったかしらファルケンって。兎狩りしそうだし」

 猛禽類の苗字を持つファルケン家が兎と言うのは、些か酷い例えである。

「…だが、気をつけたほうがいい。ここにいる女は食い逃げの前科がある。私は何故かたまたま隣の席に座っただけなのに、この女の所為で私が食い逃げした分まで払う事を要求されてしまったのだ」

「そ、それは災難だね」

 そんな相手と今一緒に食べている方が変なのだが、偶然、相席してしまった男は引き攣ってしまう。

「だから今日はこの女のおごりと言うわけだ。べ、別に女に無理やり驕らせているわけではないぞ」

「あー」

「そんなんで他人から小さい男だと思われるのが嫌なら、あの程度の借りくらい笑って流せばいいのに」

「そういう事を言うなら、お前は今後、食い逃げのリズという2つ名を進呈してやるぞ」

「くっ………だったらお前は便所掃除のユーリだ」

「ぬなっ」

 二人が互いに傷つけあって複雑な表情をしていた。

「食い逃げはともかく、便所掃除は別に悪い事ではないよ」

 まあまあと赤の他人に宥められる2人。

「では、貴公の名は何と言う?」

「え?ええと………リオだけど」

 何故自分の名前を考えるのか?という感想を持つが、それは捨て置いて

「貴公、便所掃除のリオと呼ばれて嬉しいか?食事中に」

 ユーリはまじめな顔でリオに問う。

「いや、ちょっと」

「傭兵団で働いていて、便所掃除のリオがドラゴンを討ち取ったぞーっとか呼ばれたらどうするよ?」

「ドラゴンの何を始末したのか怪しい言葉だね。なるほど、確かにそれは汚名だ。便所掃除だけに」

「そうだ、と言う事で、その2つ名は断固拒否する」

 ユーリはキリッとした表情でリズを見る。そんな折に、リオの前にも肉丼が出される。

「食い逃げも断固拒否したいんだけど。こう、私に相応しい2つ名を進呈して頂戴」

「ビリビリ女?」

「却下で」

 横に座るレディが笑顔で黒い棒をユーリの腰に突きつけていた。今日は長刀を持っていないのである。流石のユーリも体が凍りつく。

「で、では、どのような2つ名が良いのでしょう?」

「こう超絶★美女リズ様とか?」

「ほほう、超絶★美女リズ様が御所望ですか。では今後はそう呼ばせて頂きます。超絶★美女リズ様」

「ごめんなさい、調子に乗りました。もう言わないので許してください」

 リズはさすがに自分で勝手につけておきながら、流石にセンスねえな、と思っていたようで、ユーリに連呼されて心が折れたようだ。

「よろしい」

 ユーリは満足したように頷く。

「でも…ふーん、君はユーリというのか」

「?」

「いや、私には生き別れの弟がいてね。殺人鬼につれていかれたからおそらくは生きてはいまい」

「ほほう」

「丁度ユーリという名前で」

「ユーリ死す!」

 嬉しそうにするリズ、愕然とするユーリ。

「相席運というのが有ったとしたら、私はきっと酷いのだろう。食い逃げ犯と私を死人扱いする酷い相席だ」

「いや、生きていたら君くらいの年だったって話なんだけどね」

「ああ」

 ユーリは変な勘違いをしていたのかと納得する。

「じゃあ、ここは私ではなくお兄ちゃんに奢って貰うという事で」

 リズはウムと頷き、店員に渡されていた伝票を、今初めて出会った目の前にいるリオという青年へ渡そうとする。

「お前は私への借りを返す為にここに来たのではなかったのか?」

「違うのよ、ユーリ。こう……ユーリ君が生き別れのお兄さんと会わせるために」

「私に生き別れの兄はおらんわ!」

「あはははは」

 酷い女だとユーリはげんなりする。これが本当のケーニヒ公国のお姫様だったとは到底思えない。幼き日に想像したお姫様とは180度違う場所にリズがいた。それはもう、物凄いガッカリ感がハンパ無かった。

「そういえば、君達はどういう関係なの?いや、まあ、初見の私が聞くのは失礼かとは思うのだけれど」

「被害者と加害者?」

「いや、父を殺された私が被害者よ」

「いやいやいやいや、お前の父ちゃん、お前も私も纏めて殺そうとしてたじゃん。あえて言おう、正当防衛であると」

 ユーリは胸を張って言い切る。

「何だか複雑な関係なようだね」

「いや、だから娘には食い逃げ容疑を押し付けられ、父親に殺されかけたという、私は一方的な被害者と言う事で良いのではないか」

「言われてみれば、私の一族酷いわね」

「私の一族ではなくお前が酷いのだ!」

 ユーリは勝ち誇るようにリズに言い切る。

「ところで、リズはどうやって金を手にしてるんだ?私はパトロンがいるから良いのだが、お前はそうではないだろう」

「愚問ね、私は超美しくて頭がいいからね」

「ああ、娼婦か…がほっ」

 グーで殴られた。

 リーゼロッテ・シュテルンブルク=ケーニヒ王女殿下は鬼神ヴィルヘルムを殴れるほどの猛者だった。……という訳ではなく、ユーリは本当に体がいう事を聞かない程度に弱っている事を実感する。

「次にアホウな事を言ったら捻り千切るわよ」

 何かを握って捻り千切る素振りを見せるリズの言葉に、ユーリはついついヒュンとなって腰が引ける。隣にいるリオも同じような様子を見せる。

「賭け事よ。賭博場で適当に稼いでるの」

「賭け事?」

「チェスやプレイングカーズとかね。スロットとか人気らしいけど、私はもっぱら自分の頭を使って勝てるゲームかな。絶対に負けないし」

 リズは偉そうに胸を張る。

「僕も結構チェスは得意だけどね。体使った方が得意だから、ダーツとかビリヤードとかの方が好きだけどね」 

 リオはリズの言葉に乗ってくる。

「ほう、これは奇遇ですな。これでも私もチェスは得意でね。チェス界のヘルムート・フォン・レーヴェと謳われた私に勝てるかな」

「いや、その代名詞は絶対に誉め言葉じゃないでしょ。途中で自分のナイトがクイーンを殺してキングになるから」

 ユーリとリズが話している中で、リオは引き攣り気味に

「君達はこのご時勢で恐ろしい事を言うね」

 と突っ込みを入れる。

 このご時勢…というよりも、先日、当のヘルムートが謎の死を遂げている為、国家の情勢は非常に不安定だった。

「OK…つまり、貴様はこの王が死のうと敵を撃つ天才ユーリ君にチェスで勝てるというのだな?」

「いや、王が死んだらあんたは負けでしょ」

「あれ?」

「所詮は山猿か」

「失礼な。ならば私が一番強いことを証明してやろう!そこのおぬしも付き合ってもらうぞ。リズはユーリより弱かったという証人になってもらう」

 余計な場所に首を突っ込んだなとリズはリオの方を見て憐れむ。

「まあ、時間はあるから別にいいけど…」

 リオは苦笑気味にユーリの言葉に付き合う羽目になる。

 リオ……と聞いて、この物語を読んでいて覚えている方が幾人いたでしょう。ユーリとリオは一度出会っているけど、完全に忘れています。そりゃ道端で一度くらい会っていて覚えている人がどれ程いるでしょうか?

 よく物語で「あー、あの時の」みたいな事がありますが、現実ではほぼ100%気付ける筈もないので、ここはあえてそういう事は無い事になりました。

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