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最強剣士の血風伝  作者:
序章
3/61

ドラゴンと遭遇

 ユーリは1人で西の山脈付近まで走って進む。

 ファルケン本家の修行場は、大陸における人々が住む最西部、蛮族やモンスターが跋扈する山脈に隣接している。いつも素振りをしている沢を越えて、さらに西へと足を踏み入れる。

 そんな中現れるのは山岳地帯でもっとも凶暴と呼ばれるダークグリズリー。黒い毛皮と鋭い爪と牙を持つ体長5メートルにも達する大型モンスターである。

「今日は熊って日じゃないから、またねー」

 ユーリは片刃の太刀を背後から抜いて、すれ違い様に後頭部を峰打ちで叩いてそのまま通り過ぎる。5人小隊で戦うような大型モンスターであるが、ユーリはダークグリズリーを殺さずに軽く叩いて地面へと臥させて去る。

 そのまま更にに山奥へと駆け抜ける。

「今日は卵なんだよなー。その前、大きい卵を見かけたけど、あれ食べれるのかなぁ」

 雲の置くまで続く断崖絶壁を魔力で強化した足で蹴り、凄まじい速度で雲の上まで駆け抜けて、山の中腹へと辿り着く。雲の上の更に上には果て無き山の頂上がある。その奥から稀に膨大なモンスターが襲撃したりする。その為、山岳の西には魔王がいるとか言われている。だが、実際にそれを見た人間はいない。というよりも山岳の奥へ進んで帰ってきた人間がいないのだ。

「うはー、凄い見晴らし」

 ユーリは満足したように雲の切れ目から覗く大陸を眺める。ここからであればファルケン領の最大都市ロートブルクまでも見える。ロートブルクは科学技術が発展しており、魔法の力で動く列車が首都シュバルツバルトまで続いている三大公爵家ファルケンが治めるケーニヒ公国四大都市の1つである。

「さすがにシュバルツバルトは見えないかぁ。大きい塔ってのを見てみたかったのに…」

 ピョンピョンと山の中腹を飛んでみるが、地平の奥に隠れてケーニヒ公国首都シュバルツバルトは全く見える様子は無かった。大都市間を繋ぐ機動列車の線路も、遥か地平の果てまで続いている。

「あの先にあるのかなぁ。どんな街なんだろう。ロートブルクより大きいってどんなんだろう」

 ロートブルクは巨大な城が聳え立つが、その城の周りには巨大なビル群に包まれており都市要塞と形容するような巨大な都市である。長らく山奥に住んでいるユーリからすると想像も絶する都会であった。ロートブルク自体、人生の中でも数度しか行った事が無い。

「さてと、卵を探しに行こうっと」

 ピョコンと飛び跳ねて、ユーリはそのまま山脈の中腹にある台地を走り、昨晩、見つけた卵のある場所へと向かう。大きい岩岩に囲まれた産み立ての卵である。一昨日通ったときには存在しなかったものなのでまだ卵として食べれるのではないかと睨んでいる。


 辿り着いた岩場には巨大な卵が存在していた。140センチに満たない自分の背丈を悠に越える大きな卵である。

「おっきーな、初めて見た。何の卵だろう?持って行ったら誰か知ってるかなぁ」

 ユーリは卵を見上げながらぼやく。

 だが、そんな中、急に空が黒く染まる。

「曇ってきたなぁ。さっさと卵を持ってかえろ………」

 自分で口にしておかしい事に気付く。ここは雲の上で曇りになるはずが無い。まだ空には太陽が存在していたから、別に日が暮れている訳でもない。

「?」

 ユーリは空を見上げると、そこには空を覆うほど巨大な何かが蠢いていた。人の体よりも大きい鱗がびっしりと空を埋め尽くしている。自分の真上を覆っている何かを見渡して、その端にあるトカゲのような頭を見て、それが何か始めて認識する。

「でっか!ドラゴンだー。初めて見たー。………」

 ユーリは初めて伝説のドラゴンを見て感動する半面で、自分が非常に危険な場所にいる事に気付く。そして何故かドラゴンは猛々しく唸りをあげて、ユーリを睨んでいた。

 自分の目の前にある見たこともない巨大な卵、怒っている巨大なドラゴン。

 ユーリの額はびっしりと冷や汗で埋め尽くされる。

「もしかして怒ってる?」

 もしもしなくてもドラゴンは明らかに怒っていた。自身の卵を狙う不届きな生物が足元にいるのだ。

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

 ドラゴンの咆哮に大地が鳴動し大気が震える。ただの咆哮1つで山はあちこちで崖崩れが起こる。

 ドラゴンは口から息吹を吐くと、爆風が吹き荒れて卵を守るように竜巻が発生してユーリを吹き飛ばす。

「うわああああああああああああっ」

 ユーリは吹き飛び、大地を転がり、崖へと落ちていく。

 だが、怒り狂ったドラゴンはユーリを更に追いかける。

 空を覆いつくすような翼を大きく広げ、人間の数人を丸々食い散らかしそうな巨大な口を広げて、巨躯を躍らせて襲い掛かってくる。

「!」

 ユーリは恐怖を感じると同時に、心は一気に戦闘状態へと切り替わる。己の中にいる何かが目覚めたかのように体が自然と動く。魔力を集中させた脚で空を蹴り飛ばし、襲い掛かるドラゴンの巨大な牙をかわす。ユーリは雲の下へと落ちて、体を翻し、大地へ魔法の力を使って着地を軽減させる。

「ううう、足が痛い…」

 さすがに凄まじい距離を飛び降りる羽目になり体に負担が大きかった。だが途中で空に止まったドラゴンは口元に炎を撒き散らし、今にもユーリに襲い掛かろうと、黄金色に光る瞳を向けていた。

 ユーリは慌てて剣を抜く。もはや引き返せないところにいる事を察する。

 ドラゴンは爆炎を空から吐き散らかす。ユーリは長刀を一閃、魔力の込められた刃から発した衝撃波は炎を切り裂く。だがその炎の熱量は切り裂いた奥から尽きる事無く溢れるように襲い掛かってくる。

「くっ」

 ユーリは自分の周りの足元が、瞬時にマグマのように溶け掛けている事に気付き、もはや耐えられないと見て、更に刃を一閃して、退路を作って後に大きく跳び退る。

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

 逃げたユーリに再び咆哮をあげる。ただの咆哮でさえその威力は破壊と化して空気が振るえユーリを吹き飛ばす。

 体中を痛めながらも、ユーリは慌てて体を起こす。

 ドラゴンは既にユーリを標的と見做していた。それをユーリも理解している。生存本能が恐怖を凌駕する。

 ドラゴンは巨大な腕を振り鋭い爪でユーリを捕捉する。

 だがユーリは凄まじい速度で大地を蹴って空を舞い、空を蹴ってドラゴンの頭上へと体の位置を入れ替える。ドラゴンの振りかざした爪は大地を抉り1つの谷を生み出してしまうほどの衝撃を放つ。

 もしも食らっていれば一撃でユーリは死んでいただろう。だが空へと逃げたユーリは既に反撃態勢に入っていた。両手で右肩より上に担ぎ上げた剣に魔法の力、すなわち魔力を集中させる。

「魔煌剣・大鷲!」

 ファルケン家に伝えられ秘匿されている技の1つ、魔力を刃に込めて放つ魔煌剣。魔煌剣の種類の中でも大鷲は最も強い最大規模の有効範囲を持つ斬撃である。実はユーリはこれを教わってはいない。兄エドガーに見せてもらった物を見様見真似で使っただけだ。

 だがその斬撃はドラゴンの鱗に傷をつけるが肉を貫けるほどのものではなかった。ドラゴンは直に空を仰いで巨大な尾を振りユーリを殴り飛ばす。

 ユーリは吹き飛ばされて、切り立った石壁へと叩きつけられ、そのまま大地へと倒れ臥す。


 ユーリの目の前には巨大なドラゴンがゆっくりと歩いてユーリに止めを刺そうと来る。ユーリは朦朧とした状態で、目の前の状況を見る。

 ドラゴンの大きな口には炎が溢れ、黄金の瞳はしっかりとユーリを見つめていた。

 ユーリは死を覚悟するが、それでも紅玉の瞳を有している武門の子に流れる赤い血と細胞は体を自然と動かしてしまう。

 所要時間にして1秒にも満たない一瞬、両手両足が動く事を認識、敵の狙いと動きを目視にてミリ単位で把握、右手に持つ大剣は未だ魔法の力を流し込んだ魔煌剣としてあり続けている。

 187年前、ケーニヒ王国に侵攻したリュミエール帝国の誇る大軍勢を、単身で一夜にして壊滅させたという鬼神ヴィルヘルム2世直系の血は、この幼き少年の中にも流れているのである。


 その日、鬼神の子はついに目覚めた。

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