表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強剣士の血風伝  作者:
二章
28/61

決着

 ヘルムートはここが戦場であれば勝者として名乗り上げたいところだが、観戦者は存在せず、そしてここは戦場ではなくただの貧民街である。

 しとめたと確信した拳を食らったヴィルヘルムは、瓦礫の中に潰れ、ヘルムートの目の前には自ら切り落とした左腕だけが存在している。


(初見であれば見切れなかっただろう、奴がもしもあのファルケンの奥義を私が知っていると分かっていたなら撃たなかったかも知れぬ。幼くして受け継いだ為に、情報を知ら無すぎたという事か。確かに……これは失敗作なのだろう)


 もう少し育ててから受け継がせて、ヴィルヘルムを継がせていれば結果は変わっただろう。それ程までに強かった。ヴィルヘルム・フォン・ファルケンという剣士は心技体全てを兼ね備えた怪物だった。ただ経験不足だった。


「これでは勝利した気分にもならぬな…」

 ヘルムートは瓦礫に背を向けて、その場を去ろうとすると、瓦礫がゴソゴソッと動き出す。

「!?」

 ヘルムートは背後を見る。すると満身創痍の状態ながらも、瓦礫を掻き分けて1人の男が現れる。ヴィルヘルム・フォン・ファルケンがまさか生きているとも思わず驚きに目を大きく開いて凝視する。

 生きているにしても、もはや戦える状態ではない。何故ここで現れた?死んだと思わせておいたほうが得策だった。

 意味が分からない。

 ヴィルヘルムはおぼつかない足でノソノソと歩き、斬り捨てた自分の左腕を血塗れになっている右手でそれを掴み、自分の失われた傷口にあわせて治癒を始める。

 普通ならつぶれた細胞をつなぎとめるのは並大抵の魔法力がなければ回復することは叶わないが、ヴィルヘルムによって切断された腕は細胞の一切をつぶさずに切り落とされている。そして切り落としてから時間はさして経っていないので壊死していなかった。幸か不幸か腕はとりあえずつながるのだが……

「何故出てきた。死んだ振りでもしていればよかったものを」

 ヘルムートは呆れたようにヴィルヘルムを見る。もはや体を動かすのも怪しく、このまま放置しても死にそうな存在である。わざわざ腕を復元しても死んでしまえば意味がない。

「?」

 ヴィルヘルムは不思議そうにヘルムートを見て首を傾げる。


 コレカラシニユクキサマガ、シルヒツヨウノアルコトナノカ?


 確かにそう口にした。全く殺気さえ感じない、死体のような男から発した言葉だった。

 ヘルムートは目の前の男の異常さに目を細める。虚勢でもない。怒りも何も感じない。


 無


 ただそこにいるのは、殺戮を生み出すただの人形である。ヘルムートは哀れにさえ感じてしまう。そう、目の前にいるのは人ではないのだと確信する。

 フェルケン家によって生み出された鬼神、それこそがヴィルヘルムである。たった9歳で、家族を殺させられ、数多の人間を殺戮し続けた怪物だが、それは人間を材料としている。心技体の全てが揃っていると感じたのは嘘だ。心の部分を無理やり壊して鬼神に作り変えただけの、人間を無理やり捨てさせられた、ただの子供なのだ。

「哀れなガキよ。これが………私が追い求め、目指し、行く着きたかったものか。貴様の人生という名の地獄を、私が終わらせてやる」

 ヘルムートは目の前の殺人鬼をただ殺す事に集中する。もはやおぼつかない足元に歩く事も頼りないヴィルヘルムに対して、ヘルムートは大地を蹴って下水道の通っている道路を自壊させ、少年の足元まで一気に破壊させて崩落させる。

「とどめだ!」


 ヘルムートはヴィルヘルムに止めを刺しに、崩れる足場をお構い無しに走って足場を失い堕ちていくヴィルヘルムへと飛ぶ。右手の拳に集中する。


 だが、ヘルムートは大きい勘違いをしていた。

 ヴィルヘルムは動けないのではない。確かに崩落から避ける体力もないが、そもそもこれまでは、崩落から逃れようと足掻いていた為に、無駄に隙を作っていたのだ。

 つぶれる事を最初から覚悟しておけば、別にヘルムートの突進など恐れるものでは無い。崩落する中でも左手の拳に強力な魔力を集中させ、魔法によって固定する。右手に持った光の魔法剣は左手という固定された発射台に置き、ただヘルムートが襲い掛かるのを待つ。

 ヘルムートの拳がヴィルヘルムへと襲い掛かる。

 魔煌剣・鳳凰

 祖父を死に至らしめた、両手がある事で初めて成立する超高速斬撃。

 ヘルムートはヴィルヘルムの頭を捕えたと錯覚した。だがそのまま何故か力が入らず、ヴィルヘルムのいない方へそのまま飛んで行き、自らが生み出した、崩れ行く瓦礫へと、その体を飛び込ませていく。

 ヘルムートは振り向こうとしても体が動かず、目だけをヴィルヘルムの方へ向ける。その視界に、切り落とされた自分の下半身がヴィルヘルムの目の前に置き去りにされている事を見て知る事になる。


 自分は殺されたのだと。


 ヴィルヘルムは瓦礫に埋もれる中でも、そこから逃れようとせずにただ来るものだけを待ち構えて斬る。既に自分が死地にある事を無視して敵を切ったのだ。

(哀れな化物め……)

 己の命も顧みず、ただ斬る事だけに総てを賭した鬼神の姿を哀れに思い、ヘルムートは自身を殺した相手に同情しながらその生涯に幕を閉じる。


 ヴィルヘルムもまた、ヘルムートとともに崩れ行く道路の奥へと瓦礫と共に堕ちていく。

 だが、まだ生きているヴィルヘルムも流石にまずいと察していた。ここで意識を手放したら自分も死ぬのだと。



 翌日、貧民街の一角が壊滅しているのが発見される。

 そして、そこにヘルムート・フォン・レーヴェの死体が同時に発見される事となる。これは大きく余人の知る事となり、そしてケーニヒ公国における最大の事件へと発展する事になる。

 ここ最近だけで、アームズ帝国軍4万の死体、ベヒモス、そしてヘルムートを立て続けに斬り殺した存在がいる。さすがに国内の要人が死んだ今となっては、もはや無視できる存在ではなくなっていた。


 これにて第2章の終了です。

 そろそろ毎日投稿が厳しくなってきました。次回より第3章に入りますが以前にちょろっと(?)出てきた人物が本格的に参入します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ