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最強剣士の血風伝  作者:
二章
26/61

出会う最強と最強

 まさに今、リーゼロッテはヘルムートに殺されるという最中、空気を読まずに現れたのはファルケン家と思われる青年であった。

「え、ええと、ちょっと取り込み中なんだけど」

 あまりに空気を読めてないので、話が続くと死ぬ事も忘れて、ついついリーゼロッテは突っ込みを入れてしまう。

「五月蝿い!お前の所為で私がどれだけ辛い思いをしたと思っているんだ!」

 だが男はビシッとリーゼロッテを指差し、声を荒げて怒る。

「はあ?」

「お前なんかと話してた所為で、私が勘定を払えと店員さんに怒られるし。お前が食ったウニ丼の勘定を立て替える変わりに働くしかなく、皿洗いに便所掃除、バイトの先輩にいびられておぞましい虐めに合ったんだ!トイレは便器が舐められるまで綺麗にしろとか言われて…人生でこんな屈辱は初めてだ。とにかくウニ丼代くらい私に払え!この人でなし!食い逃げ犯!」

 握り拳片手に涙目で訴える青年は見た目以上に幼く見えた。よほど酷い目にあったのだろう。

「いや、ええと、その…それ所じゃないって言うか」

「うっさい大事なのは金だ!このビリビリ食い逃げ女!」

 ギャーギャーわめく青年の様子を見て、ヘルムートはイラッとしたようで、コメカミに血管が浮き出る。

 その様子を見て取れたリーゼロッテはハッとして、関係ない人間を巻き込んでしまったと気づく。

「小僧、取り込み中だ、失せろ」

 不機嫌そうなヘルムートは凄まじい殺気を放って青年に向ける。リーゼロッテはこのままでは無関係な青年が、ヘルムートに殺されると察してどうにか出来ないかと考えているが、ヘルムートに失せろと言われた青年は更に激昂する。

「はあ?何だ、おっさん。こっちの方が重要案件だ!お前はトイレの中に顔を突っ込まされた経験が無いからそんな事がいえるんだ!」

(定食屋でそんな事されたんかい)

 リーゼロッテは心の中で激しく突っ込む。

 青年とヘルムートが険悪な様子で睨みあう。そこで、青年はハッと気づいたようにリーゼロッテの方へ視線を向ける。

「お、お前、また食い逃げして、絡まれてるのか?」

「違うわよ!全然!アンタ、バカなの!?バカなんじゃないの!?」

 凄い誤解である。リーゼロッテは青年に食い逃げの常習犯だと断じられてしまったのだ。さすがにそれは聞き捨てならなかった。

「じゃあ、通り魔?小父さん、いくらこの女が生意気で見た目だけはそれなりに良いかもしれないけど、中身はとんでもない魔女だぞ。悪い事は言わないから、そういう事は娼館にでも行ってきなさい。あと、こっちはお金の取立てに来てるんだから邪魔しないでね」

 青年はがれきの上にいるヘルムートに歩み寄り指を差して文句を言う。

「ば、バカ!ちょ」

 リーゼロッテは慌てる。

「小僧、邪魔だ。消えろ。物理的に」

 ヘルムートは刹那の内に成年の目の前に立ち、凶悪な魔力を込めた左手で、青年の頭を壊そうと無造作に振る。ヘルムートの拳は触れた物を破壊する最凶最悪の魔力を帯びた拳である。

 リーゼロッテは自分の迂闊な行動の所為で、全く関係ない人間を巻き込み殺させてしまったと視線をそらす。


 だがヘルムートの手は青年の頭を触れられず空振る。

 その代わりガランと大きい音が立てて、何かが地面に落ちる。ヘルムートは、リーゼロッテは、その落ちた物を見て過去最悪なほどに戦慄する。

「オッサン、ただの通り魔だったら相手が悪いから辞めておけ。そのチンケな盾みたいにお前の首を落とすぞ」

 地面に落ちたのはヘルムートの左腕についていた盾が真っ二つに切り落とされた残骸であった。


 チンケな盾…、そう形容するには些か語弊がある。1000年前にケーニヒ王からその子孫達が3大公爵家として賜った王盾コンホヴァルである。それは王剣シグムントと並びオリハルコンで出来た、あらゆる攻撃を無効化する伝説の盾である。

 それを真っ二つに切り落とすなどありえないことだ。

「私は、とにかく、この女に金を返してもらわねばならないのだ。あと、通り魔を見過ごすのは気分が悪い。この女が痛い目を見るのはザマア見ろといった感想しか持ち合わせてはいないが、女1人見捨てて去るのも男として気が引ける。生かしてやるからさっさと去れと言っている」

 青年はヘルムートへ視線を向ける。

「ちょ、辞めなさい!私の事は放って起きなさい!アンタ、殺されるわよ!金なら払うから!あんたがどの程度のものか知らないけど、相手が誰か分かって無いの!?」

 ヘルムートが明らかに青年に対して敵意を向けていた。ただの小童程度に見ていればよかったが、そうも行かなくなってしまった。

「知らん。通り魔じゃないのか?女に向ける殺気じゃないでしょう」

 青年は左腰においてある長刀の柄に右手を置いて、チラリとヘルムートを見る。

 ヘルムートは半眼で青年を睨む。

「貴様、何者だ」

「だからこの小娘からお金を催促しに来た通りすがりの人間だよ。大体、名を名乗るなら自分から名乗れ。更に言えば、通り魔に名乗る名はない。この無礼者め」

 『お子様か』と突っ込みたくなる程に頬を膨らませている青年は、ヘルムートに抗議する。

 だが抗議しておいて、青年は自身でもおかしな事を口にしたと気づく。通り魔のような犯罪者が自分の名を名乗るはずも無いのだ。

「我が名はヘルムート・フォン・レーヴェ。さて、小僧、そこをどいてもらおうか」

 ヘルムートは凄まじい殺気を放つ。

 だが青年はその言葉を聞いてさらに怪訝そうな表情になる。

「あのね、おっさん。確かにその名前は凄くハッタリが聞くだろうさ。一応、この国で最強の名前だ。でも、その人は貴族の公爵家の人間であって、賞金稼ぎとかそういう類じゃないの。嘘を吐くにも限度があるでしょ。小娘を襲う通り魔な公爵がいたら驚きだよ。あと、私は別にそれが当人であっても怖くないし。今なら見逃してやるからさっさと去りな」

 ヘルムートの殺気を簡単に受け流してシッシッと手で追い払うようにする。

「アンタ、ちょ、その男の言葉は本当よ!ここからさっさと去りなさい!殺されるわよ!」

 リーゼロッテは慌てて訴える。手遅れでもとにかくリーゼロッテは必死だった。自分の所為で他人を巻き込みたくは無かったからだ。

「?お前…金も払わずに俺をここから追い出そう等と思わないことだな。何だ、そこの自称ヘルムートと実はグルなのか!?」

「あああ、もう……」

 非常に面倒くさい奴だとリーゼロッテは呆れてしまう。こっちは命を心配してやっているのに、何と言う言い草なのだろうと頭を抱える。


 瓦礫の上に三者が並ぶ。

「そうか、なら、……まずは貴様が死ね!」

 ヘルムートは前に足を出そうとした瞬間、首元には既に長刀が突きつけられている。

「!」

「お前も、私の間合いに入って生きているだけ幸運だと思え。たかだか通り魔風情を斬り殺す趣味はない」

「甘い事を言うな、小僧。お前も人一人殺せないほどのお人よしか?」

「?……はあ」

 青年は目の前の男が、攻撃してこないとたかを括っているのを感じて、まあ良いやとばかりに刃で首を撥ねようとする。

 ヘルムートは咄嗟に大きく跳び退って距離を取る。

 首筋からジワリと血が流れる。目の前の青年は殺気など無く、気軽に人を斬りに来ていた。まるで空気を吸うよう。

 空気を呼んでいない青年の姿にヘルムートは過去にない恐怖を感じていた。同時に、退屈に飽きていた感情が一転して青年への興味へ切り替わる。


 リーゼロッテはそんな実の父の表情を見て、もう手遅れだと察する。父は強者を求めており、真剣勝負を好む。もはや娘(王族の生き残り)を殺すという大義より、目の前の強者と殺し合う事に興味が向いてしまった。

「貴様の瞳の色、ファルケン家の人間だな?レーヴェ家に刃向かって只で済むと思っているのか?」

「一応、ウチのボンボンが皇女殿下と良い仲みたいだし、そうはならないんじゃない?っていうか、まさか、まだ自分がヘルムート5世だとでも言い張るのか?言っておくが無駄だぞ。その名は脅しにならないからな。むしろ……明らかに通り魔をやっているヘルムートなら斬り殺す大義名分が出来る。俺は喜んで貴様の首を飛ばすのだが」

 ヘルムートの首を飛ばす事に全く感慨も持たずに口にする。

「こちらは名乗ったのだから、そちらの名も応えてもらいたいのだがな」

 ヘルムートは切り落とされた盾を捨て、殺気をヴィルヘルムへと向ける。

「ヴィルヘルム・フォン・ファルケン」

 その言葉にポカーンとリーゼロッテもヘルムートも凍り付いてしまう。ヘルムートに対抗しているのだろうかとも思うような偽名である。

「そっちの偽者と違って、こっちは正真正銘本物だ。齢9の頃より家族を皆殺しにしてしまいその名を継ぐ事になった。残念ながら、その事実を本気で信じてくれる人がほとんどいないので、失敗作と呼ばれているが」

 長刀を肩の上に乗せて他愛もない話とばかりに溜息をつく。

 ヘルムートはその言葉を受けて、ヨハンの言葉を思い出す。

 一族全員が殺し合い、9歳の子供が戦わずに生き残り、ゲルハルトの遺言に従って、その子供はヴィルヘルムを継いだとう。だが、9歳の子供が天才エドガーや怪物ゲルハルトを殺せるなんてありえない話だ。

「ふっ…ハッタリなら辞めておけ。王剣シグムントを持たずしてヴィルヘルムを名乗る等不敬な事を」

「とは言っても、ヴィルヘルムの儀の時に祖父上と一緒にあの剣も切り落としちゃったからなぁ。自分が切れるような鈍らなどに何の意味がある?そも…あれは王族に賜ったものだろう?その王族がいない今、それを振り回すのもむしろおこがましいのでは?」

 不思議そうにする青年の言葉。だが一切の嘘や虚勢を張る様子も見られない。空気を読まず、人を殺す際にも殺気さえ出さない。



 ヘルムートは目の前の青年が過去に見たこともない底の無さを感じる。そして今さっき見せた、いや、見えなかった。超高速の剣撃が己の持っていたオリハルコン製の盾を切り落としたのを。王剣シグムントを斬ったと言われて、それが嘘だとは思えない。

 そしてヘルムートはとある言葉に引っ掛かる。ゲルハルトごと切り落とした?あの怪物を切り落とした、そう言ったのだ。つまり目の前にいる男は……正真正銘本物の、家族を殺してその名を継いだ本物のヴィルヘルム・フォン・ファルケンであると理解する。

「くっ…はははははははははっ!そうか、そうか…ずっと、引っ掛かっていた。あの剣神ゲルハルトが、そんなミスをする筈がないと。ヴィルヘルムを生み出すために失敗し、犬死したとは思えなかった。貴様らファルケンと戦う為にリュミエールに組して王族を殺して15年、ついにその念願が適うか。最後の王族を殺すより、よほど楽しい余興が舞い込んだ!」

「?」

 とはいえ、ヘルムートに殺気を向けられた当人は全く理解できていない様子だった。それも当然である。だがヘルムートの殺気がヴィルヘルム・フォン・ファルケンへと向かう意味は伝わる。


 こんなどうでも良い偶然の重なり合いによって、レーヴェ家とファルケン家の語られぬ戦いが始まる事になる。後世、この偶然が世界に対して大きい影響を与えた事が歴史家によって明言されている。

 ついに最強と最強は出会ってしまった。


やっとここまでやってきました。ヴィルヘルム対ヘルムート。

ずいぶん昔の話で、

 レーヴェ<ファルケン<ドラッヘ<レーヴェ

 というじゃんけんのような相性を持つ点が触れられておりますが、真っ向勝負であれば当然ヴィルヘルムの優勢は変わりません。とはいえ、経験値という意味では今代のヘルムートは非常に豊富で、ファルケン打倒を抱いていたのですから、対策も持っていることになります。

 一応、2章はこの戦いで終わり、3章に移行する予定です。

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