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最強剣士の血風伝  作者:
二章
20/61

ロートブルク防衛戦開始

 ファルケン領東の城砦アイゼンシュバートからファルケン領の都市ロートブルクまで100キロほど、行軍で3~4日かかるという距離である。

 その距離を、報告を聞いた半日後にはロートブルクに、軌道列車を使ってヴィルヘルム・フォン・ファルケン、オズバルド・ハインリヒ、ディオニスの3人はロートブルクまで先回りして戻っていた。


 ロートブルクは既にあちこちが破壊され、燃やされており、兵隊達は戦争の準備の前に住民の避難誘導や町の火消しに駆けずり回っていた。集団で一気に壊滅されたというよりは局所的にテロにあって破壊を受けたという感じである。だが町は混乱しており、怪我人があちこちに転がっていた。


 ヴィルヘルムとディオニスはオズバルドについていき、ファルケン領軍の市街地における防衛拠点へと向かう。

「は、ハインリヒ様!」

 拠点に着くなり声をかけてきたのは剃髪の大男で鎧を着込んでいるように明らかに軍人である。ロートブルクを任されているファルケン領軍第三軍の指揮官ヘスラー将軍である。

 ヘスラー将軍はハインリヒを見て敬礼をして迎え入れる。ハインリヒは男爵家を継いだが、15年前の戦時中はファルケン領軍の将軍を務めていて、現在でも指南役として時折指導をしている為、ファルケン領軍からすれば有能な貴族の先輩と言う立場にある。男爵家で貴族でありながら偉ぶらない態度から、多くの軍人達に敬意を持たれているのも理由の1つである。

「状況はどうなっている?」

「バルツァー子爵軍からの行軍は途切れる事無く続いており、我が軍の戦力では厳しいと判断しました。逃げれる市民は西方へ、逃げる余裕の無い市民は城へ避難させています。我々第3軍は篭城を敢行する所存です」

 篭城…とは言っても、ロートブルクは大きい都市で都市の周りにはモンスター対策の城壁があるのだが、対軍隊用には作られていない。その為のアイゼンシュバート城砦なのである。

 そして、このアイゼンシュバート城砦はそもそもその東にあるバルツァー子爵領にあるゲルトボーデンで万が一にも負けた場合の城砦であり、基本的にはゲルトボーデンで時間を稼いだ後に万全を持って防衛に当たる城砦なので、当のゲルトボーデンの軍隊が反旗を翻されたら非常に弱い。

 1000年の歴史を持つケーニヒ公国と三大公爵家であるが、逆を言えば1000年間裏切らなかった同胞の貴族が後から攻撃を仕掛けてくると非常に弱い点がある。

「やはりそうなるか」

 オズバルドは神妙な顔つきでぼやく。

「しかし、この状況は一体どうなっている?まだ攻めてきていないのだろう?」

「それが…奴等、龍騎兵<ドラグーン>で上空から攻めてきまして…どうやらアイゼンシュバートも上空からの攻撃に崩壊したと」

「龍騎兵!?バルツァー子爵領にドラゴンはいないだろうが」

 オズバルドもその報告には顔色を悪くする。

「裏に帝国がいるなら、ありえる話では?我が国より遥か東方、リュミエールとアームズ帝国領を隔てる中央山脈はドラゴン、特にワイバーンが多く生息していると聞きます」

 ヴィルヘルムはオズバルドへ助言する。言われてみれば当然な事かとも一同が考える。

 ワイヴァーンを駆る龍騎兵のもっとも厄介な所は攻撃が届きにくい所と、行軍速度を無視した単独行動による奇襲が出来る事である。

「斥候は出してるんでしょう?敵軍の状況を簡潔にお願いします」

 ヴィルヘルムはヘスラー将軍に訊ねるのだが、ヘスラー将軍は怪訝そうにヴィルヘルムを睨み、そしてオズバルドへ視線を移す。

「彼は私が後見人をしている元本家のヴィルヘルム・フォン・ファルケン殿だ」

「!……し、失礼しました」

「こんな若造に敬礼なんてしなくて良いですよ。それよりも状況をお願いします」

「はい。まずバルツァー子爵軍は第1陣2000でアイゼンシュバート城砦を奇襲し強奪。第2陣の2000で再び行軍を開始しましたが、そこには銃士騎馬隊100、魔導砲100、龍騎兵20も見られ、非常に危険な状況です」

「龍騎兵20もあって即座に落としに来ないってことは、行軍速度からしてシュバルツバルト襲撃と同時に行なう積もりだな」

「同時にする意味は?」

「軌道列車は1日2往復するのだろう?席を取っ払って重量ギリギリまで乗れば2000人くらいは乗れるって話だ。それを2往復だから4000人をロートブルクへ投入できる。行軍に1日のズレで4000人の兵力がどこに分散されるか分からないのは相手にとっても厳しい」

「なるほど。と、ところで公爵様は…」

「帝国第四皇女の護衛の任が入っており、シュバルツバルトには10万の軍隊が背後から迫っている状況からして、恐らくだが戦争が終わるまで戻って来れないだろう。軍部の3分の1を掌握していたオッタル辺境伯とプフェールト侯爵派閥が寝返っている時点で、ここよりもシュバルツバルトが戦場の中心地となっている」

「……だからとて、公爵閣下はまさか自領をお見捨てに?」

 ヘスラー将軍はヴィルヘルムの襟首を掴んで声を荒げさせる。

「ヘスラー将軍。公国は首都防衛に失敗したら終わりだ。だが、ファルケン家は違う。そこに領事館に匿っている帝国皇女殿下の防衛とファルケン領の防衛が加わる。シュバルツバルト50万人の中にどれだけ敵の手のものがまぎれているか分からない以上、王都にいる全軍で都市内部の防衛を行ない、皇女殿下を守る必要がある。もしも皇女殿下が殺されたら、公爵家はどちらにしても終わりだ」

「…」

 正しくは皇女殿下さえ守りきれば、自領を潰されてもリュミエールの恩赦で復興してもらえる可能性がある。無論、それでは公爵としての面子はつぶれ、ウルリヒと皇女殿下の婚約が流れてしまう可能性が出る。故に、公爵領の防衛は、ライナーとしては絶対に引けない場所だ。だからこそ、ライナーはヴィルヘルムに頭を下げて、腹を割って話をしたのだ。

「将軍、貴殿は公爵領軍第三軍だろう。公爵閣下は現在3つの生命線の全てが切れ掛かっている。首都にて閣下は第1軍と第2軍を持って奮戦しているのだ。最後の3つは貴公を信頼して首都にて踏みとどまっている公爵閣下に応えて欲しい」

「はっ!なにとぞお任せ下さい!」

 ヴィルヘルムの言葉にヘスラー将軍は目の前のファルケン家直系の青年に敬礼をする。

 同時にヘスラー将軍は1つの疑問も持つ。ヴィルヘルム・フォン・ファルケンという16歳になる青年は、ヴィルヘルム継承の儀で家族が殺し合ってしまい、遺言に従い戦わずに生き残ってしまいその名を継ぐ事になったと聞いている。後、ハインリヒ領の田舎で遊び暮らしていて、シュバルツバルト高等学校にさえ行っておらず、貴族としての嗜みもなく、軍議に参加できるような頭も無く、政治も知らない出来損ないだと言う噂を耳にしていた。

 だが、目の前の青年は、ライナー公爵にも劣らない堂々とした振る舞いを見せている。

「将軍閣下。怪我人がいる場所に、こいつを連れていってくれませんか?」

 ヴィルヘルムはそこで斜め後ろに控えていたディオニスの頭をぽんと叩く。

「そちらの少年は?」

「私の従者でディオニスと言う。内乱で滅んだが、生まれは医療大国アルツでも有名な大魔導師の家柄で、医療魔法の技術はこの国でも上から数えたほうが速いだろう。背後の都市防衛で結界を張らせる人間を1人でもと思ってつれてきたが想定以上に怪我人が多い。使ってやってくれ」

「そ、それは助かりますが…はっきりいって酷い状況です。子供にあの環境が耐えられるか…」

 ヘスラーは視線をそらして口にする。想像以上に酷いのは既にこの都市に来て分かっている。

「あ、問題ないです。そこら辺は」

 ディオニスは首を横に振る。

「ディオニスはアルツ崩壊時に死人か怪我人かも分からないような場所で血塗れになって倒れている人間達を見捨てられず、燃え盛る戦火に包まれた都市の中で魔力が切れて火の中で死に掛けている所を私が拾ったような孤児なので、そこらの従軍医師よりも遥かに肝は据わってますから」

「そ、それは心強い」

「ほう、それは初耳ですな、ヴィルヘルム様。私がアルツ内乱の時にハインリヒ領を離れていた頃、アルツ内乱で逃亡してロートブルクまで来ていた孤児を拾ったのだと聞いていたのですが、何故、ヴィルヘルム様は私が留守中に、同じアルツの内乱のど真ん中にいたのでしょう?」

「うっ」

 ヴィルヘルムは自分の口を押さえて、オズバルドから目をそらす。

「あーあ、ばれちゃった」

 ディオニスはケラケラと笑っていた。

「いーの、そうでも言っておかないと安心しないし」

「後できっちりとお話しましょうね、ヴィルヘルム様」

 オズバルドは笑顔でヴィルヘルムに話しかけるのだが、顔が笑っているが目が笑っていない。ヴィルヘルムは徹底して視線を避けて苦笑を見せる。

「と、取り敢えず、私は斥候してくるから、オズバルドさんは都市防衛戦の準備を。都市での篭城はしても城での篭城は論外、都市を蹂躙させるわけには行かないのだ。その為の準備をして欲しい」

 ヴィルヘルムはオズバルドにお願いをして逃げる様に去っていく。

「全く…」

 オズバルド呆れるようにヴィルヘルムの背中を一瞥してから、ヘスラーの方に視線を移す。

「ハインリヒ様。彼はその…大丈夫なのでしょうか?噂に聞いていた人物とは随分かけ離れていますが」

「ヴィルヘルム・フォン・ファルケン…ですよ。それ以外でもそれ以下でもない。190年前より我が祖先唯一の師匠であり、主人であった方の名を受け継ぐに相応しい鬼神の再来」

 オズバルドは去っていくヴィルヘルムの背を見る。

 誰よりも優しい心根の少年であるが、そこには鬼が住み着いており、戦場においてヴィルヘルムは鬼神と化す。

「ご気を付けて」

 オズバルドはヴィルヘルムの背に頭を下げて見送る。


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