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最強剣士の血風伝  作者:
二章
16/61

出会い

 結局、高等学校襲撃に対して黒幕が見つからぬままに10日の時が過ぎる。

 ヴィルヘルムは毎日のように街を歩き、地理を頭の中に入れるよう心がけていた。一応、高等学校周りに異変が起きないか、貧民街で悪さを企むような人間がいないかを気をつけて注意深く探っていた。

 夜も更けた頃、街道周りの商店街や繁華街は、まだ魔導灯による街灯で照らされていた。とはいえ、夜になっており人けがほとんど無い。そんな中で走る足音を聞こえる。

「ぬっ」

 ヴィルヘルムが気付いて足を止めようとするが、手遅れ(足遅れ?)で、曲がり道で左手前から女性が飛び込んでくる。

「危ない!」

 飛び込んできた女性は、いきなりとび蹴りをかましてきた。

 ヴィルヘルムはほぼ本能でとっさに斬り殺そうとしてしまった事で、慌てて手を引っ込めるのだが、そこに気を取られた所為で防御が遅れて顔面に膝をめり込まされる羽目になったのだった。

 見事にヴィルヘルムは地面にゴロゴロと転がる。相手の女性もヴィルヘルムにぶつかって尻餅を付いていた。

 だがヴィルヘルムは打った鼻を抑えて、涙目で起き上がる。

「ううう、酷い目にあった…」

「ちょっと!貴方!見たわね!?」

「?」

「わ。わわわ、私の下着よ!人の飛び蹴りをかわさないで、私の下着を凝視していたんでしょう!?何て変態なの!」

「えー」

 いきなり目の前に現れて膝蹴りをかまして、しかも下着を見たと因縁をつけてくる女が目の前に現れ、さしものヴィルヘルムも困惑する。理不尽極まりない。

「何故にそんな女の股座を見る為に、膝蹴りを素直に受けねばならぬのだ」

「むっつりそうな顔をしているもの!鼻血をたらしてるのが証拠よ!」

「鼻血はお前が私の鼻を蹴ったからだ!そんな白と青のストライプ柄になどに興味あるか!」

 凄く理不尽な女だったのでヴィルヘルムも珍しく腹を立てて怒鳴る。ちょっとだけ、斬るのを途中でやめなければ良かったと後悔する程度には腹が立っていた。

「でも、はっきり見ていたじゃない!」

 ジトと冷たい視線でヴィルヘルムを見る。

「うぐ……め、目が良いのだよ、私は」

 怒りに任せて口を滑らせてしまったと、ヴィルヘルムは目をそらしてケフンケフンと咳き込む。鬼神であっても、所詮は男である。目の前にパンツが飛び込んでくれば目は行くものだ。


 すると女のやって来た曲がり角から3人の男が走ってやってくる。

「待ちがやれ、娘!」

「もう逃がさないぜ」

 黒尽くめの格好をした怪しげな男達がそれぞれ武器を持って追いかけてくる。結構立派な武器だ。どこか戦闘にでも行くのだろうか?

「まあ、助けてくださるなんて、何て男らしいのかしら。ありがとうございます、騎士様」

 だが、女性はいきなり声色を変えて、ヴィルヘルムの背後に回りこみ、追いかけてきた黒服集団からヴィルヘルムが守ろうとしているような格好へとシフトチェンジする。

「はあ!?」

 さすがのヴィルヘルムも何がなんだか理解できず頭の上に膨大なクエスチョンマークが浮かぶ。

「はっ!騎士気取りか、色男」

「俺ら、泣く子も黙るアンドレ一家だぞ」

「その女をよこしな。痛い目にあいたくないだろう?」

 三者三様で一人はブロードソード、一人は斧、一人は短剣といった荒野で戦う賞金稼ぎや兵士も真っ青な立派な装備である。

 ヴィルヘルムとしては、これっぽちも戦う気なんて無かった。というか、散散な扱いをされて助ける義理もない。

 だが、あからさまに怪しげな男達へ、女性を差し出すような真似もできず、諦めるように溜息を大きくつく。

 武器を市街で振り回す人間はいないが、剣などの武器を腰に下げていたり背中に背負っている人間は多い。町の外であれば、街道であってもモンスターに襲われることはあるからだ。なので武器を持っていてもおかしい話ではないが、武器を手にして町中を走っている彼らはかなり怪しげでもある。

「下がれ、無法者ども。私はファルケン家に組する者だ。事情は知らぬが小娘1人に徒党を組んで追い回すのは見過ごせん」

 ヴィルヘルムは腰に下げてる長刀を一瞬だけ閃かし、再び鞘に収める。

「あ?」

「何だ、きさ…」

「!」

 男達の持っていた武器は全て刃を真っ二つに切り落とされていた。

 三者三様で何が起こったか理解できないが、武器があっさりとヴィルヘルムに切り落とされた事だけは理解する。

 ヴィルヘルムは右手で腰に差した長刀の柄を撫でているのを見て、自称アンドレ一家3人組は街灯に照らされた顔が一気に青くなるのが分かる。

「ひっ」

「逃げろ!こいつ、やべえ!」

「覚えていろ!」

 男達はテンプレな負け犬の台詞を吐いて走り去っていく。

「ふむ、引き際は素晴らしいな」

 勝てない相手とは戦わない事こそが弱者の基本である。チンピラにおいても早く引ける判断の速さは、この厳しい世界に置いて生存率を上げる大事なファクターである。

「で、お前は一体何をしたのだ?」

 ヴィルヘルムは後にいた女をジロリと睨むと女は顔を上げて手を差し出してくる。

「ありがとうございます。助かりました」

「?」

 女は握手をしてこようとしてくるので、ヴィルヘルムはそれに合わせて手を差し出すのだが、そこで女は裾から2つの金属片のようなものが付いている黒い棒を取り出して、その金属片をヴィルヘルムの手に押し付ける。

 刹那、文字通り電撃が駆け抜ける衝撃がヴィルヘルムを襲う。

「かはっ」

 ヴィルヘルムは体を痺れさせてそのまま地面に倒れ臥す。

「ま、まさか追手にファルケン家まで関わってくるなんて。くっ…レーヴェ家だけじゃなく、ファルケン家まで私の事に気付いていたというの。早く身を隠さないと…」

 女はそんな事を呟いてその場を足早に去って行く。

 かつて最強の剣士といわれたゲルハルト、100年に1人の天才エドガー、さらには200メートル級ドラゴンにさえ勝ったドラゴンスレイヤーは、ヴィルヘルムを継いで以来、初めて負けた相手がか弱い女性だった。

(というか……なんなんだ、あの女……。魔法の杖か?あんな稲妻でも落ちたかのような魔法の杖、見た事も聞いたこともないぞ…)

 倒れながらも痺れが回復するのを待つヴィルヘルムは己の迂闊さに後悔していた。怪しい女なのは最初から分かっていたはずだ。


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