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最強剣士の血風伝  作者:
二章
14/61

事件

 翌日、大きい問題が発生した。

 帝立シュバルツバルト高等学校でテロ事件が発生した。魔導大砲による学内への攻撃、同時に身元不明の暗殺者集団による学園襲撃。

 それは公国の強力な武門を持つ教師陣によって早期鎮圧される事となった。彼らはいずれもレーヴェ家、ドラッヘ家、ファルケン家の分家の跡継ぎにもなれなかった者達が新たな貴族として教師となった実力者達である。

 死者13名、負傷者56名を出した。無論、魔導砲を打ち込まれてこれだけの被害ですんだのは少なかったともいえる。撃ち込まれた場所が未熟な学年の場所ではなく3年騎士課程だったからだ。



 事件後の学校にヴィルヘルムはオズバルドと共にやってきていた。

 公国の治安維持隊という兵士が出て、事件の見聞をしており、そこに被害者の貴族として幾人かやってきており、ヴィルヘルムとオズバルドも被害者の一人であるファルケン家の人間として参加している。

 学校というよりは石造りの城で、城の一角にある3階あたりの部屋が大きく穴を開けており、黒こげた教室がむき出しになっていた。

「魔導大砲で穴が空いたのがあそこです」

「魔導大砲でぶち込まれたら、校舎そのものに穴があきそうなものだけど」

「とっさに気付いた魔導師課程の教師や、騎士課程の教師や生徒が防御障壁を張っていたらしいですね。それに、校舎自体も魔法結界で防御されているので」

「あの程度で?私なら真っ二つに切れそうだが」

「…」

 オズバルドは閉口する。この青年、切れるか切れないかでしか物事を判断しないところがある。そういう部分も、祖父のゲルハルトにそっくりである。

「発射位置とその余波からすると威力は、まあ通常の魔導大砲と考えて良いだろう。狙いは学校崩壊ではなく、教室の生徒程度と考えて妥当かな。3年の騎士課程というと誰がいるの?って、ウチの王子様か。彼を除いては?」

「……というよりもまず問題になるのは『同じ教室にリュミエール帝国皇太子の第四皇女がいた』という事ですよ。我が国は帝国に弓引くものがいて、皇女に怪我は無くとも襲撃されたという事実を、しかも魔導大砲を打ち込まれたという事実が残りますから」

「………んな?何、ウチの王子様は同じクラスになった皇女様を落としたってことなの?」

「そういう話だそうです」

「意外と見直したなぁ」

 とヴィルヘルム、心から感嘆する。

「ですが、このような事がありますと、今回の婚約を帝国が撤回を申し出てくる可能性もあり、我々としては…」

「ふむ、それは困るなぁ。とすると……我々が台頭するのを嫌がる勢力か。とはいえだ、ひいては帝国に弓弾いた事にもなってしまう。犯人は?」

「全員自決しています。いずれも都市の貧民街に住んでいる犯罪者崩れどもなので何者かも分かりません」

「でも、魔導大砲なんてもの、平民が、特に貧民街の人間が簡単に手に入れられるものでもないだろう?」

 ヴィルヘルムの指摘は正しく、現在の治安維持隊という兵士達もその方面を調査しているようだった。

「調査中ですが、すくなくとも我が国で生産されているものではないようです」

「調査中…か。まあ、私はそういうのは分野の外だからね。犯人が現れてから動く人と犯人を探す人がいるのであれば、私は現れてから動く人だ。ま、普通に考えれば帝国製でしょ?」

「おそらくはそうでしょう。とはいえ、ファルケン本家は……今回の事でヴィルヘルム様が手を回したのではなんて声も」

「阿呆か?祖父上様は遺言に、一族に生殺与奪の権利を与えてんだぞ?殺したいなら正面から真っ二つにしてやる。あいつら正気か?」

「ただ、恐れているだけだとは思いますが。結局の所、ヴィルヘルム様は本家の得体の知れない武門の血を引き継いだ化物みたいな印象が少なからずありますから」

「一応、あの連中は私の親戚で、同じくヴィルヘルム2世の子孫だろうに…」

 頭が重たいとばかりに、右手で頭を抱えるヴィルヘルムに、オズバルトはヴィルヘルムのおぼやきに笑ってしまう。

「とはいえ、ヴィルヘルム様でも当然のように魔導大砲が平民で手に入らないような代物で、我が国のもので無いのなら、それはアームズ帝国であるとは予測できる以上、そうなのでしょうね」

「いや、別にアームズ帝国のものだとは想像してませんよ~。まあでも……」

 しばしヴィルヘルムは考えてオズバルドを見る。

「現ファルケンより高い影響力を持ち、自分達の影響力を奪われる事を疎んだ国内勢力がアームズ帝国を引き込んだというのが正しいんじゃないかな?」

「……背信行為をしている者がいると?」

「背信行為って……ぷくくくくく、オズバルドさんは頭が固いなぁ。そもそも、現行政府は背信者集団じゃないですか」

 ヴィルヘルムはついつい笑ってしまう。

 15年前、王国を裏切り女王簒奪をしてリュミエール傘下に入ったレーヴェ公爵。

最後まで戦争をしていたファルケンと同盟を組んでいた事を誤魔化す為にドラッヘ公爵家は嫁入りしていたファルケン家の娘を殺してレーヴェとリュミエールへ差し出した。

 そしてファルケン公爵家はそんな背景があってリュミエール統治下で日陰者にされながらも、帝国皇太子第4姫との婚約を踏み込んで国家における浮上をしようとしている。

 旧王国などお構いなしに自分達の権益を守っているのがこの国の貴族達だ。

「私がいても捜査の邪魔になりそうだし、やはり帰らせてもらいますよ。他に調べたい事もありますし」

「他に調べたい事?」

「この町、大きすぎて、地理がサッパリ分からないんですよ。何かあった時に地の利は抑えられないまでも、情報を持ってないと話にならない。この町の大きさも人の多さもウエストエンドのガラハドの比じゃない」

 ヴィルヘルムは周りを見渡してから、土地を見るのだが、背の高いビルばかりでどこがどこか把握できない。野戦と市街戦では全く異なる。

「ああ、なるほど。本業の方ですね」

 オズバルドは、ヴィルヘルムが切った張ったしか出来ないと口にするだけあって、本業がなんなのかはよく理解している。

 ヴィルヘルムが言うように、ウエストエンドの首都は都市面積はこのシュバルツバルトより大きいが、人口は半分もない。シュバルツバルトは中央の住民権を持つ人口が50万、貧民街の登記されていない人口を含めるともっと多くなる。

「分かりました、こちらはお任せ下さい」

「ありがと」

 オズバルドは恭しく頭を下げて、ヴィルヘルムは手でそれを制し、そこでふと周りの目に気付く。

「それと…オズバルドさん」

 ヴィルヘルムはすすすとオズバルドに跪くように腰を低くし、声を小さくする。

「他家が見ている所で、私に傅くのは拙い。ヴィルヘルムは存在しないのだ。以降、私はハインリヒ男爵様の家臣ユーリとして動きますので……何卒…」

 周りに聞こえないようにしてヴィルヘルムは傅く。

「……分かった。ではそのように」

「はっ」

 ヴィルヘルムは立ち上がりそのまま去っていく。

(何が斬った張ったしか出来ない…だ。鬼神、軍神、戦神、様々な異名を持つ神が如き威光を放ったヴィルヘルム、その血脈の正統後継者がだれかなど言わずと知れている。ライナー卿とは器が違うのだ、あの方は…)



 ヴィルヘルムはシュバルツバルトに走る東西南北に広がる道をひたすら歩く。

 巨大な街道沿いには、ヴィルヘルムらがロートブルクからやって来た西の街道沿いにある軌道列車と同じくして、北にドラッヘ領へ向かう軌道列車のレールが、東にレーヴェ領へ向かう軌道列車のレールが陸橋によって高い場所に長々と続いている。

 町の規模は円形の形をしていて中央から東西南北へそれぞれ3キロほど続いている。さらにそこから下位貴族の住む住宅街が2~3キロ続き、貧民街がその周りに転々と平民街との境が無く入り乱れる様に存在している。


 あちこちで道路工事のような事もしており、それらの工事を行なう機具も見たことの無い魔導器具によって一般の工事労働者がいとも容易く大きな穴を開けていく。

「舗装道路は主要都市までか。道路を掘り返しているけど、ありゃ、何をしてるんだ?」

 ヴィルヘルムは不思議に思って、首をひねる。

 道路工事というよりは道路の下にもう1つ道路を作っているような感じである。王族などが逃亡用の道路を作るのは分かるが、こんなに皆に分かる様に作ってたら意味が無い。

 とはいえ、巨大なしゃべるが魔導エンジンで動いて土を掘り返し、尖ったランスのような鉄の塊が回転して穴を開けていく。

 魔導師無しであっという間に地下道を作っていくさまは恐ろしいの一言だ。魔導師がいなければ大規模な工事は出来ないという常識観念を無視している。

 この国の科学技術はオーバースペックと呼ばれており、シュバルツバルト高等学校の科学はリュミエール帝国でも最高学府であると呼ばれている。第4皇女がこの学校に来ているというのも決しておかしい話ではない。

「そういえば、人の歩く側の道路のあちこちに円盤のような鉄の塊が、穴でも塞ぐように置いてある。むう、興味深いな。地下道にもまさか町があったりするのか?」

 ヴィルヘルムは足元の円盤を眺めながらぼやく。

「いや、そこはただの下水道だよ」

 背後から声が聞こえ、目を丸くしてヴィルヘルムは背後を見る。

「下水道、知らないかい?」

 後ろにいたのは赤みの差した茶色い髪に紅玉のような赤い瞳をした青年だった。年齢は若干ヴィルヘルムよりも高いか、亡きエドガーによく似ていてたので、ヴィルヘルムは一瞬凍りついてしまう。だが、兄はを殺したのは自分である。生きている筈が無い。

「?………どうしたんだい?まるで亡霊でも見ているような顔だけど」

「え、あ、いや、すいません。知人に似ていたもので。えーと…ゲスイドウというのは?」

「下水道とは都市の生活排水を都市外へ流す為の道だよ。これだけ人が多いと糞尿を垂れ流すだけで、衛生面が悪くなり疫病で大変な事になるからね」

「へえ、そういえばウエストエンドのガラハドは臭かったし、そういう違いもあるのか。ここは綺麗だし、そういう臭いが全くし無かったもんなぁ」

 ヴィルヘルムは過去に行った大都市と比べて全く異なる事を理解する。

「南部から来たのかい?」

「あっ……ええ、その…農村暮らしだったのですが、その前の戦争でウエストエンドで色々あったらしく、先行諜報部隊に配置されてしまいまして」

 アハハハハハと笑って誤魔化す。さすがにウエストエンドなんて他国と比べるのは拙かった。

「ああ、なるほど。あっちの方が農村の男手が軍事にでるらしいからね。大変だよねぇ」

 と後ろに立っていた青年は同情するように頷く。

 この都市の男性が良く穿いている綿の厚地織布の長ズボンに、シャツとジャケットといった服装で、よくいる町の若者といった感じである。

 平民なのだろうかとヴィルヘルムは思う。

「もしかして、貴方も戦争に?」

「いえ、北の方の貴族様の家臣をしているので。南部はバタバタしてた割に戦争にならなくて良かったですね」

「ええ」

 1人でウエストエンドに行って戦争を終わらせたとは到底言えないが。

「ところで……、もしかして南部出身ですか?そんな赤い瞳は南西部の山岳地方の人しかいないって聞いてたので」

「母がファルケン領の人だったんだよ。どうも母親似らしくてね」

「なるほど、同郷だったか。大きい都市ともなると、紆余曲折して同郷の人とあることもあるんだなぁ」

「そうだね。ここは普通の都市とは違うから」

 朗らかに笑う青年に、ヴィルヘルムもまた納得してしまう。あまりにも今までとは別次元の世界に来たかのように感じる都市は、科学都市と言うよりは異世界都市、未来都市、そう呼んだほうが正しいようにも感じる。

「ありがとうございました、下水道かぁ、世の中にはいろんなものがあるんだな」

 ヴィルヘルムは感心したように工事現場を眺めてから、親切な青年と別れて先へと向かう。



 青年は暫く歩いていくと、1人の中年男性と若い女性と落ち合う。

 黒いスーツ姿の貴族と思われる中年男性は両手に手袋を嵌めていて、その手袋の甲宮廷魔導師であるリュミエール帝国の紋章である六芒星の入っていた。

 隣に立つ女性はシルク生地のワンピースを着ており貴族の子女らしい格好をしていた。

「ミハエル様、お待ちしておりましたよ。またそんな平民のような格好を…」

「こっちの方が楽なんですよ。それに……ミハエルなどと言う称号は、この時代、いってしまえば只の殺し屋でしょう?平民よりも、むしろ不法者らしい格好のほうが似合っているのでは?」

「ご冗談を。さ、会議場へ行きましょうか」

 貴族の男は、ミハエルと呼んだ男と共に会議場へと向かい、ミハエルはその隣にいた女性の手を取り歩き出す。

「すまないね、マリー。こんなつまらないところに連れて行く羽目になって」

「いえ、これもお役目ですし、仕方ありません」

 女性は首を横に振る。

「マティアスは元気にしてたかい?」

「ええ。こういう時だけは母がよろこんで引き受けてくれるので助かります。あの子、もう首が据わってきたのよ。早く、ミハエル様にも会わせたいわ」

「そうだね。でも久し振りすぎて泣かれたら、少しショックかも。知らないおじさんだと思われるだろうし。ままならないものだよ」

 青年は肩を竦めて溜息をつく。

 青年の名はミハエル・フォン・ドラッヘ、齢19になるドラッヘ家史上最高の天才と呼ばれる魔術士である。15年前に両親を失い、マティアス・メレンドルフの家に引き取られ、7年前にミハエルの名を継いでいる。学生ながら17歳の成人を迎えると同時にメレンドルフ家のマルガリータと結婚し、マティアスという子を持つ一児の父親でもある。


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