第九十九話 ライバル、鼓舞するのこと。
昨年の襲撃を参考に日程を調整していた事もあって、私達が警戒を始めてすぐに人類軍の動きを見る事ができた。
昨年同様に軍旗を立て大挙して河を渡って来る。
が、ここで私は昨年との顕著な違いを見付けた。
少ないのだ。
奴等が1隊10人ほどの編成なのは確認している。そして隊旗は昨年30近い数が揚げられた。つまり300人近い兵力だった。
ところが今年はその隊旗が12旒しかない。
規模としては半分にも満たない。昨年見て取った通り、この春の遠征は主に新兵の訓練だろう。経験の浅い新兵に軽い実戦経験を積ませるのが目的だろうと思う。
その数がこれだけ減っている、つまり、秋の襲撃が功を奏して昨年に比べて新兵の数が半分以下になっているという事だ。
なかなかよろしい。秋の襲撃は間違っていなかった。このまま上手く続けられれば、人類軍の兵力を相当削減できるはずだ。もちろん、何年にもわたって継続する必要があるし、その間に奴等に対策されない事が前提になるので、相当甘い見通しと言えるが。
グルやリーダーは浮かれてきているし、北の村の連中にも人類を侮る空気が見える。
リーダーなどはこのまま私達で人類軍を叩かんばかりの勢いだ。ここはしっかり釘を刺しておかなければ。
「出立前に説明した通り、私達はあくまでも南の村から脱出する者達の支援と補助だ。戦闘は一切しない」
「なぜだ!村の人間も入れれば数はほぼ同等だ。奴等に一矢報いる事が出来る筈だ!」
というのはグル。北の村からのものも同調している。
「ここで戦わなければ、奴等はさらに増長して俺たちの村にも来るに違いない」
というのはギィ。ガラッハの危機感はわからなくもない。
「せっかく鍛えたんだ。少しは体を使わないと鈍っちまう」
というのはリーダー。
「数からいって勝てないかも知れないが、それでも黙ってみている事はできない!」
というのは北の村の兵士。たしかロルといったか。
「そうだそうだ!」
と皆が同調する。
「そしてここで果てるのか」
といってみる。
「奴等に一泡吹かせてやれるのなら、俺はここで死んだって構わねえ!」
グルの村の新兵だ。
死んでも構わないか、そうか。
「そして俺たちが死んだ後に、誰が村を守るのだ?」
と聞いてみる。
「それは!」
考えて居なかったのは解っている。
「後に続くものが必ず」
「それを誰が鍛えるのだ」
「・・・」
「お前達。村の次の世代をきちんと鍛えないまま、どんな奴が相手なのかも知らせないままあの大軍に立ち向かわせるつもりか」
「昨年よりも数が減ったとは言え、あの人数に鍛えていない子供たちが立ち向かえると思うのか。立ち向かわせるつもりなのか」
「それで彼らは生きて帰ってこれるのか」
なにかに気付いたかのように、項垂れていたゴブリン達が私を見上げた。
「そうして毎年毎年数を減らして、お前達はこの世から消え去るつもりなのか」
「・・・」
「お前達が地上からいなくなったあと、世界から忘れられてもいいのか」
「い、いやだ・・・」
「ならば
「でも!」
ここで「デモもストライキもねえ!」といっても通じないだろうな。
「くり返していうが、生き残らなければ勝てない。
「どんなに強くても死んだら忘れられる。忘れられないためには死んではいけない。たとえ自分が死んでも、覚えてくれている誰かは生かさなければならない。わかるか」
「わかる・・・」
「今回、私達は村を助ける事ができない。助けてくれといわれていないから。
グルの村は助けてくれといったから、女や子供は助けられた」
「だが、助けてくれといわない男は助けられないし、助けてはいけない。それは男を侮辱する事になるからだ」
「お前達がそもそもそうだろう?」
というと皆がニヤリと笑った。不貞不貞しい、凶悪な笑顔だ。人類に仇なすものに相応しい。
よし。
これでみんなが「きちんと戦える」だろう。命を賭けて戦闘するだけが戦争ではない。生き残ることも戦争だ。




