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第九十八話 ライバル、再び春の襲撃に備えるのこと。

コボルト村に戻ればすぐに、南部の村の防衛問題が待っていた。南には今二つの村が進出していて、どちらも防衛の必要がある。とは言え、どちらも配下ではないので、のこのこ出かけて行くにも口実がない。


正月の挨拶にいったときにはまあ、一応の客とは遇してもらったものの、これがまた防衛ともなると話は変わる。

グルの村はガラッハと比較的仲がよかったので、ガラッハ経由でそれなりの支援ができたのだが、今度の南の村、南東の村は北の村のさらに遠縁ということなので、支援については正直あまり歓迎されていない。


恐らくは新しい南の村が脅威にさらされるのだろうが、こればかりはあまり勝手もできない。


もっとも支援をするといってもまだまだ総兵力で数十人規模。あちらさんの三百人という兵力には対抗できない。戦えばむざむざと討ち取られてしまうのは明白。せいぜい難民となりそうな女子供の脱出とこちらへの移動を手助けして次世代の兵力増強に充てるぐらいしかできない。ゴブリン達を騙して野望の手助けをさせているようで心苦しい。



まずは昨年同様にガラッハに挨拶に行き、難民受け入れについての確約を得ておく。いくらガラッハが配下になったと言ってくれ、頭を下げてくれるとはいえどもあまりガラの顔を潰してしまえば、あちらも黙ってはいないと思う。こんなものは持ちつ持たれつだから、頼みをするなら頭を下げておいた方がいい。


これはグルも同様だ。圧倒的なカリスマをルラと二分するグルとは言え、あまり蔑ろにしたら気分も悪かろう。



人から教わった冬物作物によって、春先の食糧事情はやや余裕がでている。昨年は私もふくめて4人しか出せなかったが、今年は秋襲撃ぐらいの人員は出せるだろう。

それでもまだ援軍を出せないことが心苦しい。


今回人数面で主力になるのがルラ村だ。ルラ自身を引っ張り出すわけにはいかないが、比武で二番手を務めたラグを中心に10人ほどが参加する。

それから東の村出身者を中心に編成された10人の隊、ガラッハ出身を中心にした10人隊。ガラとコボルト混成の10人隊。人数も装備も、練度もバラバラではあるが、過去最大規模の亜人連合軍を20日程度なら動かせるだけの生産力を手に入れた。


コボルト村周辺にはグルがあるのでさほどには感じないが、村を出てガラッハに入るとやはり異様な風景だ。ガラッハも人口が増えたとはいえまだ100人には達していない。そこに40人からの軍隊が現れて、人数だけなら1.5倍に膨れあがっている。勿論村に上がらせてもらうわけにはいかないために、村の外に野営をしているのだが、なかなかに壮観だ。


翌日には出立し、まずは南東の村へ行く。


私達が近付くと、村は蜂の巣を突いた様な大騒ぎになってしまった。総勢で村の人口に匹敵するほどの軍隊をまだみたことがなかったのだろう。私もそうだが。

迎撃するの、出迎えるだのと忙しいがこちらとしてはただの顔見せ、南部防衛の際の挨拶回りなので、少々の矢を射掛けられた程度のことは水に流す。


事情を話して村の外に一泊し、今度は南を目指す。旧グル村跡は南東の村から二日だが、ついてみると一年まえのまま、いや風雨にさらされて荒廃している以外はそのままだった。グルをはじめ、出身者がしんみりしている。


ゴブリンに話を聞くと、ほとんどの場合で一度放棄された村を使うことはないという。今のように村を二年も使うことの方が珍しい。

このあたりに進出しても、村の跡が完全に消えてしまうまでその土地が村になることはほとんどないのだと。


なんとも効率の悪い話だが、直情径行のきらいがあるゴブリンには相応しいようにも思える。食べ物が減って住み難くなったのなら、そこを住みやすくすることよりも、住みやすい場所に移動することを選ぶ。そういうことなのだろう。


グル達には悪いが、ここを駐屯地にして、村を探した。


程無く、半日ほど川の方にでた道沿いに見付かり挨拶をしてみるが、人数の問題から全軍を移動させることはしなかった。北の村出身者を中心に挨拶をしたのだが、やはり遠縁ということもあってまずは襲撃されることを警戒している。

こういった所に同種同士で略奪をくり返してきた歴史が影を落としている。大軍をみればまず襲撃、あるいは示威を想定する。目的は略奪。

そう自動的に考えてしまう歴史をゴブリン達は送ってきた。それ故に多産なのに種族の人口は少なく、人類にたいして劣勢を強いられる。


それがあるからこそのこの支援だが、ゴブリン的にはそこに納得が出来ない様子だ。仕方がないので、簡単に事務連絡だけをすることにした。


まず我々が近所に駐屯するが、基本的には自前で用意しているので食糧などの物資供給は不要であること。


人類の大軍が攻めてくるので、できたら村を放棄して脱出して欲しいということ。


それが出来ないのであれば、女子供だけは戦闘中村の外に逃げて、戦闘が終わったら難民としてガラッハ、グル、東の村、北の村に受け入れて貰うこと。


戦闘については私達は一切関わらないが、村が戦うのは止めないこと。


人類軍の動静については逐一伝えるが、どうするかは村で話し合って決めて欲しいこと。


此等の事を伝えたら、村を出て駐屯地に戻った。


これからは部隊を交代で南に進出し、南端の丘で警戒に当たる。


次第に風が温んでくる中、私達は独特の緊張を感じ続ける。そういえば、昔春の軍隊という小説を読んだ。どんな内容だったのだろうか。その春の軍隊も私達と同様に、緊張したのだろうか。


あの丘の上に砦でも築いた方がいいのだろうか。

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