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第九十六話 ライバル、北の村で試合をするのこと その二 次鋒戦あるいは中堅戦または副将戦

盛り上がる広場の中、私達はギィの両脇を抱えて人垣の外へ運び出した。一渡り体を検め、相当な打撲傷を見て取った。ただ、幸いなことに骨への異常はない。しばらくは痛むだろうが、まあそれだけだ。手拭いをとって水場でぬらし、湿布にしておく。


明日になると相当痛むだろうが、それはお互い様だ。相手側も相当ダメージは受けているはずなのに、効き目の怪しい塗り薬を塗りたくられているだけだから、まあ、湿布してもらえるだけましだろう。


手当てが一段落ついたら第二試合だ。

この試合を落とした場合は私達の負けが確定し、北の村の軍門に下ることになる重要な試合だ。


グルが相当やる気になっているが、ここは実力重視でリーダーに頼む。と、狼の遠吠えのような気勢をリーダーが挙げた。


盛り上がっていたゴブリン達が一斉に静まる。


その静まり返った空気の中を、リーダーがずいと進み出た。人間よりは体格が小さい犬人とは言え、通常ゴブリンよりやや大きい。さらにリーダーはその犬人の中でも二回り大きく、頭頂高は150センチを超える。ルラもゴブリンの中では二回りも大きい体格ではあるが、リーダーには及ばない。まして二番手のゴブリンは、ルラよりもやや体格で劣る。


場は完全にリーダーが支配してしまった。


二番手も奮い立って広場に進み出るが、やはりどこかぎこちない。前傾姿勢をとり、両脚を踏ん張る。脚を左右に開いている。両腕も開いて下げているので、下から掴みかかろうという姿勢になる。


一方のリーダーは左前に構え、右拳は腰に、左拳を緩く前に突きだしている。

脚は四六式。ゴブリンからみると突き出された左拳がすでに牽制に成っている。


「グルァ!」

気合い一閃、二番手が突進するが、即座に左脚を進めたリーダーの左拳が陽拳のまま顔面にヒットした。


見慣れていなければただ二番手が勝手にリーダーの拳にあたりにいっただけのように見える。が、実際にはそんな物ではない。二番手が脅威的なタフネスで耐えきるが、あれが並のゴブリン、たとえばグルレベルであったら、もう決着していた。


二三歩蹈鞴を踏んだ二番手に、リーダーが感嘆したのがわかる。


まだ二打不要とまではいかないか。


あ、不味い。リーダーが負けん気を起こしてしまった。自分でも会心の一打だと思った攻撃に、曲がりなりにも相手が耐えてしまったことで、次の攻撃を喰らう気になっている。


頭を振って意識をはっきりさせる二番手を他所に、リーダーは騎馬式になり、両腕を輪の様にしてしまった。隙だらけである。


立ち直った二番手が、リーダーの構えをみて沸騰した。宜なる哉。

突進してリーダーに左右の連打を浴びせる。もちろん最初の一撃は耐えきったが連打までは想定していなかった。


リーダーとしてはいい薬なのだろうが、戦略の正否がかかっている私としては、そしてルラとしても気が気ではない。思わず両拳を握りしめてしまった。


三発四発。連打を喰らって退るリーダーだが、流石にクリーンヒットを許さない。二発目以降は肘や肩を上手く使って逸らしている。


さらに、後ろ足を横にずらしてたいを捌いた。五発目を躱されて体が泳ぎかける二番手の右にリーダーが回り込む。


と、二番手が真横に吹っ飛んだ。体が横にくの字になっている。


リーダーが弓箭式になって、右掌を突き出している。弓歩架打の応用だ。上手い。通常なら上段に入る右が、がら空きになった脇に入っていた。


並のゴブリンならこれで決着する。リーダーは痛む顔面で勝利を確信しただろう、にやりと笑みを浮かべた。


が、次の瞬間にその笑顔が凍り付いた。二番手が壮絶な笑顔で立ち上がったからだ。元々ゴブリンも犬人も口が大きく左右に裂けているので、笑顔となると実際相当怖い。人間のように門歯もないので、噛み付こうと牙を剥いているようにしか見えない。

さらには二番手は肋骨をやられたのか、大きく咳き込み、血を吐いた。劣化したエンジン冷却水のような濁った青緑色の血が、口の端から垂れている。


ゴブリンの戦闘欲求というものは空恐ろしい。意識がある限り戦い続けるとでもいうのだろうか。



二番手は口に溜まった血を、唾とともに吐き捨てる。


リーダーの毛が逆立ち、遂に本気になったことがわかった。


クッと顔をこちらに向ける二番手はもうダメージが見て取れない。タフだ。


「グルルァ!」

初手のように飛び掛かってくる二番手に、リーダーが再び合わせた。今度は二番手の右拳を取り一気に引いて体勢を崩し、そこに左肘を入れる。右手を引いた瞬間に全身が回転していて、全エネルギーが左肘経由で二番手の頭部にヒットした。



まるでボウリングの球がぶつかり合うような音が響く。


一瞬両者が静止して、二番手が崩れ落ちた。


今度こそ決着したであろうが、二番手が深手でなければいいのだが。

駆け寄ってのぞき込んでみるに、顔が明後日の方に向いてはいるが、不自然なほどではない。首の骨を検めてみると、折れたりしている様子はなかった。


顔がやや歪んでしまったが、これは頬骨でも折ったのかも知れない。白目を剥いて、意識は綺麗に刈り取られていた。


意識を失ってぐったりはしているが、死んでしまうほどではないように思え、少し安堵する。


ルラをとみると、手を挙げて敗北を知らせてきた。広場のゴブリン達が一斉にどよめく。


勝負はこれで一勝一敗。決着は当初の目論見通り、私とルラの一騎討ちで付けられることになった。


二番手の手当てはコボルト村の誰もが嫌がり、北の村任せにせざるを得ないのが少し申し訳ない。


リーダーが後ろで

「俺の手当ては誰もしてくれないのか!」

と喚いているが、誰も相手にしていない。リーダーなのに。


次はいよいよ私の番だ。圧倒しないことには、北の村がコボルト村に恭順することはないだろうから、気をつけなくては。

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