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第八十七話 ライバル、ヴルドを偵察にいくのこと。

私達はコボルト村に数日を掛けて戻り、報告の上で新しいゴブリン村の建設をはじめた。近くに建設しても問題が起きにくい、川沿いの場所を決め、少しのアドバイスをする。


尤も協力できることはその程度。犬人には犬人の生活がある以上は、基本的には自助努力になる。建物ができるまでは毛布などの貸し出しという名の供与、食料の補助はした。


また、希望者には狩りへの同行を許して、犬人に依存しない、自立できる様に協力していく。


これには犬人達の「男女同格」的な生活が大いに刺激となった様だ。ゴブリンはどうしても多産なために女性の負担が多く、男性が狩りに出かけて行くことが多い。そうなると食料を受け取るだけの女性は、次第に社会的地位が低下して、同格ではなくなっていく。

これまでならそれでも何とかなっていたのだが、今回の様なことで村の男手が壊滅状態ともなると途端に生活が立ち行かなくなる。女性でも狩りに出、男性でも村で生産をおこなう犬人の生活は、ゴブリン達にある種のカルチャーショックを与えた。

女性でも子育てをしていないものは狩りに出、村を建設していく。子供でも年嵩のものは、狩りに同行したり、採取に同行したり、鍛冶などの生産を手伝う。


春の月が変わろうという頃にゴブリン村は完成して、ひとしきり祭りとなった。これまでの毎年移転することを前提とした村ではなく、定住を前提とした村だ。まずは全員がまとまって眠れる家。周囲とを隔絶する柵。防御力は皆無に近いが、まずはここからだ。



狩りに出ることで軍事行動の基本が身につく。命令に従うこと、整然とした集団行動。戦闘への習熟、怪我の手当て。


村で毎日行われる武術訓練と相まって、戦闘力は上がっている。


夏の月にはいってからは、ガラッハ村からはいくつかの村が攻撃を受けたという知らせもはいった。春先にあった様な大規模なものではなく、10人程度の部隊で村々を襲撃している様だ。もちろん一度に殲滅させられたりはしない様だが、人類軍は戦闘経験を積むことで着実に強くなっていく。



腸が煮えくりかえる様な気持ちになるが、ここで感情にまかせて反撃してもいいことはないだろう。

まずはこちらの村々を連合させなければ。ガラッハ村と連絡を取り合い、襲撃された村を訪ねていく。


まあ、訪問された方は良い気分はしないだろうが、食料などの提供に困ることはないだろう。そして殲滅された南の村の窮状を話し、戦力的協力について話す。一方的な話しをしてものっては来ないだろうから、あくまでも対等にする。



武術について村の力自慢と一勝負してこちらの力を披露してみせた上で、これを身につけたくはないかと誘う。ただ、条件として、こちらが必要なときには戦力として協力してもらうことを約束してもらう。あくまでも対等な取引だ。




もちろんこんな胡散臭い話しに二つ返事で乗る村は少なく、ごく一部だ。襲撃を受けた5つの村のうち、話に乗ってきたのは一つだけ。それでもいい。今年中にゴブリンが殲滅させられるという話でもないのだから、焦ることはない。それでも、秋には一度襲撃の必要がある。



時折狩りを休ませてもらい、魔王城周辺の地形を調べて回る事に夏を費やした。


城の内部はやはり都市化していて、いわゆる城郭都市となる。西から東に流れる大河を天然の壕として取り入れ、都市の側に建設した堤の上に更に防壁を築いている。都市の西で川と大河の合流点があり、ここが一種交通の難所になる。


都市の北側、防壁の中央には大門があり、ここが前回大軍が出撃していった場所になる。とは言え、大河に橋は架かっておらず、渡河には渡しを使う。


渡った対岸には小規模な村ができはじめていて、冒険心に富む住民が定着しつつある様だ。防壁に守られないので、ゴブリン達の襲撃の心配があるものの、土地が余っていて開墾すればするだけ自分達の生活を向上できる。


村から私達の方までは細い道が続いていて、人類軍のみならずゴブリン達も移動に使っていた様に思える。

道は丘を縫ったあと大きく西に曲がり、川沿いにでる。あとは川に沿って北上すれば、ガラッハ村、そして私達のコボルト村だ。


大河との合流点からはいくつかの道が延びる。一つは大河沿いに下り、城の正面にでる。もう一つは大河沿いに遡っている。遠くに山脈を望み、大河の源流に着く様に思えた。


更にもう一つ。川沿いに西岸を遡る道を見付けた。

コボルト村の前には通っていない道なので、どこかで途切れているのだろうか。


合流点の少し上には一旦流れが緩やかになる場所があり、ここでは上手くすれば渡河できる様だ。ここで渡河できれば、渡しを使わずに城に潜入できるかも知れない。


近隣の村から戦力を補充しているのであれば、このあたりを通って新兵が都市にはいっていくのだろう。秋にはここで襲撃を仕掛ける必要がある。



さまざまに企み、練っていく。



と、突然若い男の声がした。


「・・・・・!」


言葉は聞き取れないが、平和的に誰何している様には聞こえない。

声の方を見やれば、件の兵士達が7〜8人ほど槍を構えて私を睨み付けている。

狭い道をふさぎ、私を通す気がない。体ごとそちらに向いて、よく観察してみる。道の左側は開け、道さえ外れれば、逃げ様はある。右には大河がたゆたい、こちらへでるのは賭けになる。道沿いに登っていけば逃げられる方向にはなるが、未知の領域なので今は未だ冒険したくはない。


両手を挙げて、掌をみせ、抵抗の意志がないことを示しながら普通のペースで近付いていく。


「いやあ、どうもどうも、お務めご苦労様。今夜の夕食はビーフシチューかい?」と笑顔で話しかけながら近付くが、まあ、通じてはいないだろう。


手を挙げすぎて疲れた風を装い手を下げる。


「!!」


相手に緊張が走るが、槍の届く距離でもまだない。


なにもなかったことで一瞬の緊張が僅かに緩む。そこにナイフを投擲した。二人ののど元に刺さったナイフは、袖に結んだ革紐を引くと抜けてて元に戻る。仰け反った二人が後ろの仲間に寄りかかるその瞬間に、一気に駆け、間を詰める。


左の端にいた兵士が突こうと一瞬だけ槍を引く、その瞬間を狙って道に身を投げて前に転がる。人間の目は左右への動きにはついていきやすいが、どうしても上下の動きには対応しにくい。足下に身を投げた私を見失っている。


下から腹、そして顎を蹴り上げた。宙で身を翻して、右手のナイフを後ろの旗持ちに投擲。回転の勢いを殺さずに右の踵で五人目の側頭を蹴り抜く。背後で地面にものが落ちる音を聞きながら、及び腰になっている右端の兵士の腿にナイフを投げる。蹴りながら手元に引いた右のナイフは最初に倒れた兵士を抱えて身動きが取れない3人のうち右端に。最後の二人は打撃で沈黙させる。ナイフを喉に喰らった4人はまだもがいているので、振り回す槍にあたらない様に近付いて喉を捌いて止めを刺す。意識のないものも同様に止めを刺しておく。


都合8人。隊長らしいものもふくめて、取り逃がしたものがでなかったのは幸いだった。一番できの良さそうな剣を一振り、剣帯ごとちょうだいする。鎧や冑、盾と槍はちょっと嵩張りすぎる。数日分にはなりそうな食料と合わせて、そのまま河へ流した。城の前を流れれば、すぐに見付けてもらえるだろう。



追っ手が掛かる前に、私はコボルト村に帰った。


まだ夏もこれからという時期、私は生まれて初めて殺人者になった。

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