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第八十五話 ライバル、異世界での戦争を見届けるのこと。

夜間の登山には随分手間取った。勿論単純に暗い足下に気を付けた事は間違いないが、日本で有った様な登山道等が未だ無いと言う事も間違いなくある。人類軍は村を挟んだ反対の尾根に布陣しているが、其れでも大きな音は出せない。


息せき切って登り続け、夜半には人類軍の布陣とほぼ同じ高度に達した。もう直ぐ山頂だ。ふう。半時程登って山頂に着く。月は完全に姿を隠して、中点には見慣れぬ天の川が掛かっている。方角の目印になる様な、北極星の様な星は見当たらない。本当、何処なのだろう。


尾根を辿って東へ進む。打ち合わせ通りなら、そろそろ気配位は感じられる筈だが。


と思い始めた頃に、軽い鼾が聞こえ始める。ゴブリン達か。星明かりを頼りに近付いていく。大きめの石が転がっている様に、ゴブリン達が毛布に包まって寝入っている。よし、避難は済んでいる様だ。


安心したら、猛烈に眠くなって仕舞った。之処警戒任務でどうしても余り眠っていない。ゴブリンの群に夜警が居ないのは、何故か等迄頭が回る事無く荷物から毛布を出して包まり、寝入って了った。





村を出て16日目の朝、私とリーダー、そして村民と一緒だったケントは南のゴブリン村裏手の山頂で目を覚ました。


周囲のゴブリン達は未だ眠っている。私達三人は自分達の荷物を纏め乍ら、状況について情報交換を行った。驚くべき事にケントがいうには、山頂に避難したのは村民の2/3程で、村長をはじめ可成りの成人男子が村に残っているという。


何と言う事だ。


東の空が明るみ始め、対面の山頂でも人類軍が目覚め始める。どうするべきなのか。


傍らでリーダーがウズウズしているのが判るが、此処でリーダーを死地には出せない。


とは言え、私が今、山を駆け下って退避を促しても、彼等は避難したりはしないだろう。劣勢とは言え、一矢報いる覚悟なのは間違いない。


此処で多少の抵抗をしても、戦闘の趨勢は不利になるだけなのに!


止むを得ずリーダー、ケントと三人で体を解し、暖め乍らゴブリン達の目覚めを待つ。南側の山頂に釣られてゴブリン達も起き始める。


村の幹部といった大人のゴブリンが目覚めたので、此方からの偵察報告をする。グル配下の2名も此方に残っている。此方に残ったのは此の幹部とグル配下の2名、其れに職人が1名だという。


眼下を見下ろす。


下の方に小さく村が見える。


よし。


「リーダー、私は山を下る」


「よっしゃ!腕が鳴るぜ!」


「いや、私達は戦闘には参加しない。私はゴブリン達の戦いを見届ける。そして、残った村民に語り継いで貰う。その見届け役として山を下る」


「なぁんだ」


「ケント、配下のどちらかに戦闘に参加しない事を理解してくれるなら一緒に見届けないかと云ってくれないか」


「わかった」


結局、私一人で山を下る事になった。グルの配下の二人はどちらも近くまで行ったら戦わずに逃げるなんて出来ないという。仕方がない。


南の尾根では人類軍が戦支度を整えて、下り始めている。ゴブリン村の様子は良く解らない。


「では」

といい残し、私も下り始める。登って来た斜面と違うので、勝手が解らない。四半時で人類軍寄りも先行できた。一時程もすると、村が良く見える場所に着く。はっきりとは解らないが、村でももう、防衛体制は整えている様だ。


風を切る様な音を立てて、炎が村へと落ちていく。火矢だ。が、海から吹いてきた風に流され、村には届かない。

村の西に落下して、春の瑞々しい草木に火を消される。


と、一斉に鬨の声が上がり、数百人の兵が雪崩を打ち始める。


村は未だ静まった侭だ。人類軍では相当数が転倒し、負傷している。が、怪我をしなかった多くが其の侭槍を構えて下り切り、村への突撃を行う。


どう贔屓目に見ても、戦術も何も無かった。只管人数に任せて押し潰す。最前線の兵も、止まれば自分が後ろから味方に突かれるので、止まれない。最後尾は坂を下った勢いで止まれない。見るに堪えない。


その勢いの侭、村の境界にある木の柵を押し倒す。迎撃する者の居ない村の庭を駆け、建物へと殺到し槍を突き立てる。


此処に来て漸く勢いが止まった。最前線では尚も建物に槍を突き立て続ける兵が居る。


さて、主力は村に残ったのでは無かったか。



同じ微妙な空気が人類軍に広がるまで、僅かな時が流れた。


私が結局避難してくれたのかと安心したのと、人類軍に「留守に必死になって攻撃して仕舞った」と照れ臭い空気が広まったのは、粗同時だった。



何となく緩んだその空気を切り裂いて、鋭い風切り音が空を走った。


多くは和太鼓の角を叩く様な、「カカッ」と云う音を立てて鎧兜に阻まれる。が、中には数名の悲鳴を上げさせる事に成功した。


更に鬨の声を挙げたゴブリンが村の背後の草叢から飛び出していく。完全に虚を突く事に成功し、怯んだ人類軍兵士の恐慌を誘う。


崩れた人類軍兵士の背後から、ゴブリン達が攻撃を加えていく。




が、ゴブリン達の抵抗は此処迄だった。確かに完全に虚を突き、一矢報いる事には成功した。が、如何せん一人一人の戦闘力に差が有り過ぎる上に、兵数にして10倍もの開きがあった。


数人は討ち倒された様だが、二人目三人目が次々に斬り掛かる。戦闘の終了迄に半時も掛からなかった。昼前に撤収が宣言され、槍衾によって穴だらけにされた建物にはゴブリン達の死体が集められ、火が架けられる。


辺りに異臭が立ち籠め、耐え難くなってくる前に、人類軍は立ち去って行く。隊毎に整然と集まり、死者、負傷者を集めて抱え、立ち去って行く。



其れを呆然と見送る私の視界に、一人のゴブリンが入ってきた。村の東側からふらふらと歩いてくる。


グルだった。



少し後ろにはグルと行動を共にしていたハンス。



私は二人に近付き、避難していた村人と合流すべく山を登る様に促した。

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