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第八十四話 ライバル、ヴルド軍の蠢動を追跡するのこと。

翌14日目の朝、人類軍の駐屯地は蜂の巣を突いた様な目覚めだった。大声で呼ばわり仲間を叩き起こし、武具を鳴らしながら身支度をしていく。


私達の支度は簡易で其程手間取らない物なので、奴等の支度が調うまで随分待たされた。支度が終えると集合して点呼。声を聞くだに矢張り若い、と言うより幼い。

総数は大凡250人程か。矢張り10人ずつで小隊を編成しているが、7〜8人で編成している、欠員がある隊も多いようだ。歩兵隊と弓兵隊、其れに斥候隊が居る。点呼の途中で斥候だけ先発する。続いて点呼の追えた隊から順次出発していく。


私達も木立に紛れ、斥候隊を警戒しつつ追跡していく。


直ぐに山々の南端の山に着いた。道なりに見れば一列縦隊だが、山に対しては一列横隊になる。総指揮官の指示の元、一斉に山へ登り始めた。


彼方側は、グルとハンスの担当だが、大丈夫だろうか。私達は敵軍の先頭だった側、西端の河岸の方へ行ってみよう。


先頭の側でも凡そ状況は同じで、丸で燎原の火の様に山を覆っていく。蝗の群等と異なるのは野草を喰らっては居ない所位だろうか。道なりに平地を進む先頭部隊は山越えをしている部隊に歩調を合わせ、のんびり進んでいく。


山越え部隊が山頂に着いたのは、昼過ぎの事だった。どうやら弁当を開いて交互に休憩している。午後は下山だ。ハンス達が見付かったりはしていないか、やきもきしながら偵察を続ける。


下山の際に何名かの怪我人が出ていた。まあ、靴があれでは仕方のない所だ。あれならば未だ、草鞋や革サンダルの方がいい。

散々な苦労の末に下山し、谷底に着いた頃には日が陰り始め、どうやら二度目の野営を行う様だ。


其れにしても此のローラー作戦の様な布陣は如何な物だろうか。まるで、山野に逃走した犯罪者を逮捕しようとする「山狩り」のようで、とても軍事作戦とは思えない。此の軍隊は同規模の敵と戦った事がないのだと察せられる。となると、対抗策としては「同規模の兵力をぶつける事」か。今直ぐには無理だが、何れゴブリンと犬人を連合させて、数百の兵力を編成する必要が出てきた。


リーダーに話してみるが、

「んー、コボルトは半分は戦えるから、三つ四つ村に声かけりゃ、何とかなるんじゃないか」

と、判ってはくれなかった。


此方の最大兵力が此の遠征軍と同規模では勝てない。恐らく此の遠征軍は全軍ではなく、抽出された物だろう。此の倍の規模は予備兵力として温存してある筈だ。となると此の遠征の目的は何だろうか。


正直に言って、彼等に何等かの攻略目標がある様に見受けられない。どちらかと言えば、其の攻略目標を探す為に行軍している様に見える。


訓練か。


此の軍隊は私の考える軍隊よりも遙かに若い様に見受けられる。源平合戦でさえ、30、40の兵は居たのだから、年嵩でも20代と云う此の編成は異常だ。而も其の割に規模が大きく、欠員も多い。となると今は絶賛再編中と謂った所だろう。そしてドクトリンは大軍で少敵を討つ。


で在れば、此の大軍勢に小数の部隊で挑むのは愚の骨頂で、奴等に経験を積ませるだけと謂う事になる。此の遠征は冬の間に訓練を行った総仕上げと云った所か。となると、秋に新兵が訓練を開始する筈だ。城内にどれだけの人口があるかは判らないが、1,000人からの正規軍を編成するとしても住民の10人に一人を徴兵するのは無理筋だろう。其れに城内ならば農家よりは商家の方が多い筈で、次男三男と言えども徴募はし辛い。状況の良く判っていないだろう、近在の農村等から徴募する方が、無理はない。


ふむふむ。段々見えてきた。



農村から徴募するならば、時期は秋。収穫が終えて農閑期になる前に次男三男等の余剰人口を応募させる。秋から冬にかけて訓練を行い鍛え、春に仕上げの遠征を行う訳だ。春から夏は恐らく実戦として周辺を哨戒し、必要に応じて村を攻略して占領する。然うして少しずつ支配地域を拡大していく訳だ。


となると先ずは秋だ。訓練の終えた兵士と戦うのは事だが、訓練を行う前ならば「唯の村人」。やりようは幾らでもある。



15日目。谷底がガチャガチャと目覚める。特に配置換え等は行われず、其の侭又山に登っていく。三日目で疲れが溜まっているのか、又何人か脱落者が出る。其れにしても隊旗を掲げた壗登山する隊長と思しき物のタフさよ。


何が彼をそうさせる。


2番目の山の方が険しい為に、山頂に着いたのは午後に入って大分経っていた。南のゴブリン村を発見して殺気立っている。


だが、此の侭戦闘に雪崩れ込む様な無能な指揮官ではなかった。一旦野営を行い、翌朝に総攻撃を仕掛ける様だ。


其れにしてもあの山頂で夜を過ごすのは中々の事だと思うがどうだろう。

ともあれ先ずは偵察結果を持って、南のゴブリン村に行っておこう。


私はリーダーと二人、春の宵に鼾を立てる若き兵士達の間を縫っていき、第三の山の山頂に退避したはずの南のゴブリン村民を訪ねていった。


日が暮れると未だ未だ冷えの忍ぶ、春の宵だった。中天に銀河が掛かり、改めて地球ではないのだと実感する。

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