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第八十二話 ライバル、ヴルド市を監視しはじめるのこと。

三日目。朝起きると、ゴブリンが3人、私達を待っていた。どうやら昨日の偵察で私達に先を越されて潰された面目を何とかしたいと言う事の様だ。ケントが言うには「同行させて欲しい」と行っているそうだ。


まあ、自分達の村を守る気になったのは良い事だから、其の侭出発する。今日は昨日の偵察結果も踏まえ、一度西の川まで出る。其処で朝の水浴びだ。犬人達は是をしないと一日元気が出ない。


私達は交代で水浴びをするが、ゴブリン達は戸惑っている。と、リーダー格の確かグルと名乗った、ゴブリンが思い切って服を脱ぎ、川に入った。慣れていない所為か恐る恐るではあるが、体を洗う。一渡り体を洗った後、川から上がって服を着ようとした際に気が付いた。


自分の服が余りに臭い事に。私達も然うだが、大体着た切り雀で日々を過ごし、体も洗わないとなると次第に自分の体臭に無頓着になる。が、大自然の中で体を清めれば、自ずとその「慣れ」は無くなり、自分の体臭に気付く事になる。


使者のゴブリン達に続いて、此処でも新しい文化がゴブリンに入る事になるのだろう。グルは仕方なく特に臭いのきつい下着を中心に川で洗い、まあまあになってから皆で乾しながら運ぶ事にした。替えの下着など当然無いので、手拭いの様な布を腰に巻く。


まあ、是は是で旗印の様に見えなくもない。当初予定よりは少し遅れて、私達は二つ目の山を回り込んだ。此処で、私は誤算に気付いた。昨日、山の頂から見た限りでは大きな山が二つある程度と見て取っていたのだが、実際の所は可成り起伏があり、村の様な地点は見えてこない。大体の見当は付く物の、少々の不安材料が出来た。


「ま、大丈夫だろう」

とはリーダー。


グルが何やらケントに言うが、曰く

「自分たちのではないが、この辺にもゴブリンたちが住んでた事はあったそうだ」

との事。


成る程。

ならばと出発し、件の場所には夕暮れ前には着いた。グルに因れば

「やっぱりゴブリンの村だ」

との事。


古い村の様で、特有の腐敗臭は可成り薄れている。建物は朽ち果ててとても泊まれる様な物ではないが、敷地内にテントを張るのは可能だろう。念の為に周辺を見て回り、安全確保が出来そうな事を確認する。少し小さいが小川も見つけた。


日が暮れる前にはテントも張り終え、火を熾し夕食の支度は出来た。今回はゴブリンの同行は予定していなかったので、同じ火を囲み乍らも別の物を食べる。明日の予定に附いて話し合い、早々に寝る。


ゴブリン達は火を熾す事が少ないので、私の作った竈に附いて注目していた。火が風に吹き消される事がない。上に容器を置けば煮炊きが可能(此の機能に附いては余り興味を引かなかった様だ)等。


歩哨にはゴブリンと犬人とで一名ずつコンビを組んで、交代する。村の中なので、其程警戒が必要な気もしないが、何拠りも魔王城に近い。其れだけで充分だと言いた気だった。




四日目。野宿が続いて体の固まりを感じ乍ら目覚めた。柔身六法、金剛八式、小八極で体を解していく。程良く体が温まった所で、皆と一緒に小川に行って、沐浴をする。今朝はゴブリン達も全員、交代で身を清めた。


支度が出来た所で先ずは予定通りに近くの山に登る。一昨日立てた計画とは異なるが、思っていた依りも起伏が大きいので止むを得ない。


登頂には午前一杯掛かって仕舞った。何拠りもなだらかな為に距離がある。野草の類が花開き、蝶の様な虫が舞っている。遠くで雲雀の様な声がさえずっている。



一昨日には気付かなかった、沢山の起伏が平原に表情を持たせていた。此処からならば、魔王城は可成り能く見える。


平原には道があるが、木々も又深い。一方で魔王城の手前には本当の平地が広がっている様に見える。丘の様なうねりが続き、間を道と川が縫う。此等の川は、魔王城の手前に横たわる大河に注ぎ込んでいる様だ。コボルト村の脇を流れる川も右手、魔王城よりも上流で合流している。



其れにしても大きい。未だ2〜3キロは離れているだろうに、城壁の連なりがくっきり見える。中央には大きな門がある。彼所から魔王軍のお出ましなのだろう。塀の高さは少なく見積もっても2メートルはある様だ。大河沿いに10キロ程度は続いている様に見える。


門は塀よりも高く、恐らく二階建て程の楼閣が見える。天守の様な建築は窺えないが、塀の内側にも建築があるのが見え、城塞都市なのは間違いない。


門の手前、大河の此方側には、小規模の村落がある。魔王城から見れば可成り見劣りがするが、あれ一つだけでもコボルト村やゴブリンの村に匹敵する規模だ。恐らくは魔王城の規模が既に満杯で、溢れた民衆が新たな開拓地を求めているのだろう。


成長速度は高く、人口規模も大きいので犬人やゴブリンの様な小規模村落など一溜まりもない。

恐らくは「正義の開拓者気取り」なのだろう。彼等は開拓される土地に住む者の事等は考慮しない。北アメリカでは多くの先住民、インディアンが虐殺され駆逐された。南アメリカでは風土病が猛威を振るって開拓者を押し止めたが、其れでも先住民は社会階層の低層に置かれた。

アジアでは戦争を仕掛けられ、逆らわせた上で徹底的に叩きのめし、悪逆の烙印を押した上で進駐して支配した。


魔王城が地球の開拓者と同類であったならば、南ゴブリン村の言い分も理解出来る。此迄の様な牧歌的な生活を送っていたらあっという間に駆逐され、併呑されていくのは間違いない。


とは言え、然う云う戦略については今後の話だ。

当面の対策を練らなければいけない。


まず、定期的な監視が最重要なので、此の村跡に暫く泊まる必要がある。グルの配下から一人選んで、村に使いを出す。此の村に泊まる事、山頂から監視をする事、動きが有れば直ぐに連絡するので、避難経路等を決めておく事、ゴブリン兵の為に食糧の補給を持たせて返す事。


以上の事を伝言して貰う様に伝えて、使いを出す事にする。先ずは村まで帰るが、着く頃にはもう午後に差し掛かっていた。グルには恐らく私達程度が数人、数十人程度集まっても対抗は難しい事を言う。


本気で対抗する為には、可成りの準備が必要だろう。其れでも勝ち得るかどうか。


先ずは之からの監視だ。


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