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第八十一話 ライバル、偵察するのこと。

翌日、朝早く起きる。ゴブリン達は犬人程は早起きではなく、未だ目の覚めていない村を他所に、テントより抜け出していく。朝食前の水浴びをするには水場が遠い。諦めて、予め汲んで置いた水筒の水に手拭いを少し濡らし、皆で回して顔を拭う。更に小さな杯に注いで、口をすすぐ。


身支度を終える頃にはゴブリンでも朝の早い者が起き出してくるので、ケントに「斥候へ出る」と伝えて貰う。いずれにしても私達が出た処で「数え切れない程の軍勢」を打ち倒したり、追い払ったりする事が出来るとも思えず、女子供を中心に村を放棄して脱出する支度をし、指示があり次第裏山の頂上に退避する様に薦めておく。最悪、成人男子が全員討ち死にをしても、女子供さえ居れば村は存続する。



村を出て先ずは目前の山に登る。右側、川に続く谷底には獣道の様な小径が続く。之は此の村の生活道路なのだろう、水の汲み置きをする様だ。大きく迂回する手もあるが、先ずは周辺の地形を把握したい。


茅、芒の様な草、茨の様な低木、石塊を踏みしめ掻き分け斜面を登る。コボルト村近くの山よりはなだらかだが、其れでも小一時間程は掛かった。


頂きから見る景色と謂う物は、大体は感じ入る物がある。所謂大自然の驚異と謂う物だ。


左手には遠くに海が望め、暁光が辺りを明るくし始めている。今居る山は其の海岸へゆるゆると続き、海岸付近の山と繋がる。逆に右手へは高さを減じつつ続き、恐らく川で断ち切られている。川と思しき凹みの向こうには更に山が連なっており、次第に高さを増しながら山脈へと接続している。私達の居る様な山は南北に何段もあり、南へ下るに連れてなだらかになっているのが解る。


驚いた事に、私達の今居る山が殆ど此の山々の南端だった。此の山の南にはもう一つ同じような山が連なって東の山に接続しているが、此の連続地形はほぼ其処まで。後は少し小さい山、丘よりは大きい山が二つ程斜めにあるだけだ。其の先には豊かな平原が広がっている。


川は其れ等の山々の間を通り、曲がりくねっている。


遙か遠く、春霞の向こうには山脈が出張っている様だが、其の手前には何やら威容が見える。双眼鏡の類があれば良いのだが、生憎此の世界は其れ程優しくはない。じっと眼を凝らせば、どうやら城塞の類の様に見える。


細い道が幾本か其の城塞に続いている様だが、遠過ぎて良く判らない。孰れにしても其の数え切れない程の軍勢は、彼の城塞より出でて、手前の細い道を進むのだろう。


四人で示し合わせ、更に南の山に登る。下り坂には登り以上の用心をする。此方の谷底にはゴブリン村の側の谷とは異なり、小さな澤が水音を立てていた。軽く飛び越え、再び斜面を登る。


此方こちらの斜面は四半時程度で登り切る事が出来た。もう昼が近い。軽く腹を拵える。


南にある山は遠くからは判らなかったが、小さいと云う事は無かった。斜面は依り緩やかではあるが、全体の大きさはやや小さい程度。互い違いに重なる様になっていて、複雑だ。


木々はコボルト村周辺の物より大きく鬱蒼と茂り、春先の芽吹きと相まって魔境の雰囲気を醸し出す。


軍勢を連ねる程の魔物と云う物はどれ程禍々しい存在なのだろう。


犬人は兎も角ゴブリンも相当に魔物臭がするが、蛮勇と言っても良い程の獰猛な彼らでさえ、怯えて助けを願う。そんな魔物が本当に存在し得るのか。


彼方に見える城塞がややはっきり見える様になってきた。東京で流行っていた様なゲームで良くあるあれが魔王城と謂う物なのだろうか。



ふと気が付いた。之まで自分そうだから勝手に敵も地に歩みを進めるのだと考えて居たが、此の前提が間違っていたらどうなのだろうか。


雲霞の如く悪魔の軍勢が、将又はたまた天使の軍勢が、或いは邪龍の軍勢が襲い掛かって来るとしたらどうなるのだろうか。


到底私達が太刀打ち出来るとは思えないのだが、果たして。


山の尾根から見ると、道沿いに幾つか村落がある様に見える。


此方に若し人也ゴブリン也が居るようであれば、之は偵察して置かなくてはならないだろう。但し、今日ではない。今日は半日をかけて此処まで出張ったが、彼の村まで行くとなると、片道で一日は見なくてはなるまい。今日の処は泊の支度はしておらず、彼の村が最初のゴブリン達の様な敵対勢力であった場合には私達は立ち行かなくなる。其れは避けた方が賢明だろう。


一先ず、魔王の城はひっそりと静まり、襲撃の気配は見えない。翌朝早くに村を出、道沿いに進めば昼過ぎには村に行ける筈だ。


此処は一旦退き、村で更に情報を得よう。


一度尾根から澤に下り、今度は西の川へと出る。川沿いに上れば二山越えるのはさもない。日暮れ前には村へと戻ることができた。


ゴブリン達に平原にある村の情報はなく、私達は朝早くから遠くに出かける、勤勉な部族としての評価を驚きと共に得る事となっただけであった。


私からしてみれば、一週間程も掛けて他の村に助力を乞う位なら、多少早起きして村の周囲を警戒する位は大した事無いだろうと思うのだが。


ゴブリンの価値観は判らんと、リーダー達と顔を見合わせ、首を捻った。

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