第八話 主人公、異世界生物を対処するのこと。
目が覚めた。
今までで一番落ち着いている。当たり前だ。奴がそれほど恐れるような化け物ではない事が解った以上、あわてて行動を起こす事に意味はない。
落ち着いて奴が来るのを待ち受ければいい。
乾いた葉音が奴を知らせてくれる。
恐れというものはないが、やっぱりこのサイズならではの生理的嫌悪感はぬぐえない。金属的な光沢を感じる巨大な複眼、前方に突き出て揺らぐ触角、なめらかに開閉する顎、緩く上下に振り下ろされる左右の前肢、軽やかに前進してくる中肢、後肢。
その無機的な視覚は俺の事をどう捉えているのか。
おや?これまでと違って、襲いかかってこない?
どういう事だ。警戒されたのか。
ふむ・・・。頭や触覚があちこちに向きを変えているのは、周辺警戒をしているようにもみえるな。
ゆっくりと接近してはくるが、どうもこちらを認識出来ているようにはみえない。
とはいえ、こちらにも奴と闘わなければならない理由がある。避けては通れないだろう。
やむを得ん。仕掛けさせてもらおう。
む。反応はするか。
とはいえ、待っていてもどうにもならん。
「イヤー!」
どうにも様にはならないが、威勢はよくなければな。
避けられた!?
威勢よく突っ込んではみたが、俺の拳は奴の前肢で払われ、空を切った。遠い。
直後に攻撃がくる!だが、さっきの(昨日の?よくわからん)経験で受けに苦労しない事はわかっている。
む。ちょっと痛い。
お?反対側がもう!?
う。
カウンター!
?届かない!
さっきは単調に受け切れた攻撃が、今度は受け切れていない。軽々入ったカウンターも届かない。
おかしい。タイミングが違う。どうして。
わからないが捌けなくはない。まずは堪えなければ。
ライダージャケットの袖口が結構痛んできている。やばいな。
む、む。
打開策を見つけないと。
というか、前回と攻撃のタイミングに違いがあるのはなにか理由があるはずだ。どんなにでかくても、所詮は虫。修行を積んだとか考えられん。
む。
む?
あ。
くそ、こういう事か。
やつめ、前後左右に動いていやがった。フットワークって奴か。さっきは崖際にこっちが追い詰められていた上に、まわりの木々に遮られて足が止まってたって事か。
ネタバレしてしまえばなんと言う事はない。こっちの足が止まっていたから、良いようにやられていたが、今度はそうは行かない。奴の足に合わせて動ければ、奴の攻撃は単調なワンツーに逆戻りだ。
前進、後退、右、左。
そうか、俺がいた場所は以外と開けていたんだな。
うん。カウンター。
入った。よしよし。
ばし、ばし。
カウンター。ウンウン。
ばし、ばし。カウンター。
身体が前後に動いていたせいか、一撃では沈まなかったものの、何度か当たったカウンターに次第に奴が動きを鈍くしている。
もうちょっと強敵なら、そろそろ逃走に入るのだろうが、奴にはそこまでの頭はないらしい。こっちが目の前でリズミカルに動けば、反射的に攻撃してくる。
そこにカウンター。よしよし。
ぐらりと奴の身体が傾いていく。
軽い音で広場に倒れ込んだが、果たして生きているのか。
いや、まあ、生きていてもこちらのやる事にそれほど変わりはないのだが。
触覚と顎はまだゆっくりと動いている。生きてるのか。
まずは前肢だ。
身体を押しつけて、付け根の関節をみる。
関節の曲がらない方向へてこの原理で力を入れる。ぐいっと。
まるでカニしゃぶでも食べるかのような音を立て、外れた。引っ張れば腱のような繊維がつーっと出てくる。中肢、下肢はパタンパタンと抵抗するが、どうにもならない。
続いて反対側の前肢。
中肢、下肢もばらしてみるが、頭や胸、腹の部分はどうにもならないだろう。
変な内臓を食べて毒に当たるのもさえない。
カニだったらハサミなんだろうが、こいつの場合はカマになるのか。関節ごとに外していって、身を吸い出す。
それにしても、緑色というのは食欲が出ない。ピーマンだのグリーンピースだの、ほうれん草もそうだもんな。アスパラガスも白い方が高級っぽい。
左前肢を喰ったところで、ふと気がついた。
待て待て、明日明後日、食料の当てはあるのか?
食料もそうだが、水もいるだろ。さっきは散々のどの渇きと空腹に悩まされただじゃないか。
まだ食べ切れていないあと五本の足、それから水を何とかしなくちゃいけない。まだ日没まで時間があるはずだ。
足を抱えて移動するのは無理だ。中間の関節は殻から出さなければ、運べる。とはいえ嵩張る。
ここは一つ、考えどころだろう。
玲央はアイテムをえた。
蟷螂の前肢×2
蟷螂の中肢×2
蟷螂の後肢×2
玲央はアイテムを使った。
蟷螂の前肢×1
玲央は空腹が収まった。