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第七十九話 ライバル、コボルト、ゴブリンとともに出撃するのこと。

取り敢えず川の両岸での話は其処で止め、私は一旦村へ話を持ち帰る事とした。私一人行けば良いだけであるならば、長にとやかく言われる筋合いの事ではないが、事はコボルト村への援軍要請だ。私一人で決められる事ではない。


ケントと二人、村の門を潜る。


長とリーダーへの報告は、ケントが行う。


一渡り報告が済めば、長から意見を求められる。

「で、ケイよ、どう考える」


「俺はその、襲撃者って奴が気になるな」

とはリーダー。

「この辺りでゴブリンといえば、普通は襲撃する側だ。それが襲撃される。ましてや援軍が欲しいっていうのはただごとじゃない。どれほどのものか知っておいた方がよくはないか」


成る程。

「然う成ると、援軍としては人を出せないな。飽く迄も情報収集の為の人数しか出せないだろう。若しも援軍として人を出して、其程強大な勢力に敵対的と思われた場合、共倒れしかねない」


「人は出すが、援軍じゃないってか。どうにも面子のたたねえ話だなぁ」


「もし援軍を出すとなると、いくのはリーダーかケイか、どちらか一人だな」


「然うだな。リーダーには何かが有っても困るから、援軍を出すなら私が率いる必要があるな」


「待て待て待て、援軍になったら俺がいけないってのはどういうことだ」


「援軍とも成れば、其の勢力とやらと一戦交えずには帰って来れまい。其の勢力がどれほどの物か解らぬのだから、死なない迄も手傷を負う事は充分あり得る。今は未だリーダーに引退などして貰っては困るのだ」


「ム、ぐう・・・」


「もちろんケイが死んでも構わないということではないが、援軍ならどちらかがいかねばならんだろう。そしてより死んでは困るのはリーダー、お前だ」


「わかった。それなら、偵察っていうのか、一目見にってことなら、俺もいって構わないな」


「其の場合は私とリーダー、其れからケント、ハンスと謂った所か」


「ケントとハンスはまるでケイの手下だな」


リーダー、其れは誤解を招く言い方だぞ。

「何ならリーダーはレイラを連れて行くか?」


「ば、バカ。なにいってんだ!」

何言っているも何も無かろう。からかっただけだ。


さて、長よ。飽く迄状況視察と云う名目も決まった、出す人員も決まった、視察である以上は戦闘を極力避ける方針も決まった。他に何か有るかね」


「そうか、リーダーはレイラのことが」


其方は良いですよ、長。


「まずは、ゴブリンからの使者への返答だな。援軍は出せないというと角が立つ。なにかいい名目はあるか」


「軍事顧問と云うのはどうだろう」


「何だそりゃ」


「うむ。私が居た所では表立って援軍を出せない時には軍事顧問団と云う物を派遣した。実際は援軍の様な物だが、基本的には戦闘に関して助言したり、手本を見せたりする。実戦の手本を見せる事も無くはない。軍事と云うのは戦に関わる事。顧問と云うのは助言をしたり手本を見せたりする人の事だ」


「なるほど、顧問か」


「只、今回は呉々も其の脅威に関しての情報収集が主だ。不用意に戦闘をして帰って来れない様では意味がない。気を付けてくれよ、リーダー」


「お、おう」


「良し話は決まった。ケント、使者に伝えてくるから通訳を頼む」


「わかった」


「其れと長、使者達は村に招き入れるのか」


「ムウ・・・」


経緯から仕方が無いとは言え、犬人達の警戒心は根深い物があるな。


「解った、使者達には門で泊まって貰おう」


「そうしてくれるか」



話が決まると、ケントを連れて又川を渡る。此方の援軍は出せないと謂う返答には多少落胆した様だが、顧問団の派遣で何とか気を持ち直した。


塀の中には入れられないが、今晩は門で泊まっていく様に言うと、目に見えて喜ぶ。暖かくなってきたとは言え、川沿いの石くれの上では毛布を敷いても大して暖かくは眠れない。屋根を葺いて、木の床があるコボルト村の門は其れよりは増しだろう。



村に取って返すと、少人数とは言え戦支度に活気付いている。皆、普段は着けない手甲や肩甲を用意して、荷物に纏めている。今回はハンスが弓を出した。


問題は食糧だ。件の村迄は川沿いに下って七、八日。途中で配下のゴブリン村にも立ち寄るが、基本的に彼らの食料は充てに出来ない。川魚等は未だ未だ少ないし何よりも未だ小さい。是は鳥獣の類も大同小異だろう。可成りの量を村から持ち出ししなくてはいけないだろうな。


其処迄は考えていなかったが、援軍の派遣を決定しなくて、本当に良かった。もっとゴブリン達との交流を深めて、足の遅い、保存性の高い発酵食品を普及させなくては。




支度を調え、元々のゴブリン十名に私達四名を加えて総勢十四名、コボルト村を翌日出立した。


柔らかさを増した春の日差しに溶けていく様な川のせせらぎが、私達の供を買って出てくれる。見ると之春に孵ったのだろう、川魚の稚魚が互いを突き合っていた。

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