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第七十八話 ライバル、春嵐(しゅんらん)の予感のこと。

新年を迎えてから数日、未だ未だ犬人のコボルト村では厳しい寒さが続いている。雪が積もる事は匆々(そうそう)無いが、如何いかんせん空っ風が厳しい。コボルト村では西側と北側の塀を可成り(かなり)隙間無くして風を防ぐが、其れでも此の寒さは堪える。


また、犬人は不思議な程元気だ。獲物等無いのにも関わらず、天気さえ許せば殆ど毎日狩りに出る。気分はパトロールに近い。


困った事に、獲物が無くて手ぶらでも陽気だ。未だ未だ秋に蓄えが充分である事も一因だろう。可成りの保存食が冬を越えて仕舞いそうだ。日持ちのする物ばかりなので困りはしないし、最悪駄目になってもゴブリンとの交易に使える。此方の交易も順調で、彼等には犬人にも食べられる発酵食品の候補として、豆類の発酵食品、干し肉や干物の様な乾燥食材を教えた。発酵食品を貰うだけでは交易にならない。葉物野菜は其の壗だったら腐って食べられ無くなる物でも、発酵を巧くコントロールできれば漬け物、ザワークラウトやピクルス、キムチの様な発酵食品になる。納豆の様な物もある。将来は糠床や漬け物壺の様な物が出来ると良い。


腐肉等は致し方ないかも知れないが、是も出来たら発酵食品化する事で周辺部族との融和が進む事を個人的に期待している。


日差しも少しずつ和らぎ、何かと明るい未来が待っている気がして頬が緩む。


犬人達の武術も順調で、基礎体力も付き、冲錐から降龍や伏虎へと進めている。威力の面では未だ未だだが、形は大分様になって来た様に思うのは師匠の贔屓目ひいきめだろうか。


夏に産まれたジョン、ケイト、ポチはもうちょこちょこと歩き回り、危なっかしい。未だ十分には話せないが、「あー」とか「うー」等とかは話せるし、「パーパ」とか「マーマ」とか言い始めている。唇の使い方がとても上手いので、ひょっとしたら犬人族初のバイリンガルになるかも知れない。将来有望だ。


冬の寒さに耐え切れなかったのか、持病があったのか、リーダーの母親が亡くなった。良い事ばかりではないが、是も世代交代と云う物だろうか。30年と少し生きたと云う事だから、10歳前後で一人前になる犬人としては長寿と云えば長寿だが、未だ未だ惟からと云う年齢と言えば言える。秋口等は採取グループとして結構野山を歩き回っていたのだが、然う云えば、冬の月に入って冷え込みが厳しくなってからは何度か寝込んでいた。


新年のまったり気分から少ししんみりしてしまった。



冬の月も半ばを過ぎ、春の月が近づく頃には村に少し緊張感がでてきた。皆は余り口にしないが、冬眠の明けを迎える動物が多いのだろう。冬眠動物は須く空腹を抱えている。冬眠鼠程度であれば良いのだが、白熊や羆に代表される熊類だと事は命に関わる。

勿論、熊だって冬眠明けに行き成り殺されるのは嫌だろうから村の傍には近付きたくは無かろうが、世の中何が起こるか分からない。


木々の早い物は僅かずつ芽吹いてきている。


春が近い。




春の月になってから三日目、村に珍客が訪れた。


見慣れぬ顔の武装していないゴブリン集団だ。ゴブリンと言えば正装が武装と謂う位の武闘派だが、今回の集団は軽めの盾や剣を除いては武装をしていない。お負けに何やら良い匂いのする少し大きめの容器を持参している。


失礼な言い方かも知れないがゴブリンにしては自棄に腰が低い。


未だ未だ水嵩が増していない川向こうから、昼前に大声で訪いが告げられた。


「〜〜!〜〜!!」


む、矢っ張り謂っている内容はさっぱり聞き取れない。



厄介事が舞い込んだ予感しか無いのだけれども。



「このあいだのゴブリン村の、分家筋に当たる村らしいんだが、どうにも春に襲撃者があるってことだ。武名をとどろかせた俺たちコボルトにどうやら援軍を頼みたいって話らしい」

とは、相変わらず安定の通訳、ケントの弁。


矢張り厄介事なのか。


其れでも私は此の暖かくなりつつある陽気のせいか、将又はたまた武名を見込まれた誉れなのかは解らないが、何とは無しにしんみりした気分が高揚する事を抑えられなかった。実際には長やリーダーとも相談しなくてはいけないけれども。

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