表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/200

第七十七話 ライバル、コボルトの村で新年を迎えるのこと。

秋の日はつるべ落とし。まあ、釣瓶のある井戸がない此の村では伝わらない喩えの一つだが。


秋に太った動物を山程捕らえ、皆どんどん保存食に加工していく。今年は私の作る干し肉を期待され、最近では私は狩りに行く間もなく干し肉の生産に汗水を流す。


更に山芋や里芋の様な、食べられる根菜が村の近くで見つかり、今年の越冬には随分余裕が出来た。流石に犬人達は見慣れぬ食べ物に忌避感を隠せなかったが、食べられると解ると態度が一変した。逆に来年も収穫できる様に取り尽くさない事に気を配らなければいけない程だった。木の実、葉野菜等の認知度は高かった物の、根菜が食べられるとは思っても居なかった様だ。


芋類は葉物と違って日持ちがするので、保存の面から言っても喜ばしい。とは言え、毒草も良く有る話なので気を付けなくてはいけない。ジャガイモ類は先に毒性の方を認知されていたので却って楽だ。


胡桃や栗の様な木の実を主に食用にしているが、何れはバリエーションも増やしていきたい物だ。行く行くは村の近くを開墾して、作物が栽培できる様になったら、村はもっと発展するに違いない。


之からの家畜として有望そうなのが、野猪と野鶏だろう。巧く餌付けが出来ればコボルト村に大きな恵みをもたらしてくれる筈だ。


秋の終わりには、村の東に流れる川に鮭だろうか、大量の魚が遡行した。沢山獲って、卵も身も美味しく頂く。魚は開いて天日に干し、干物に加工しておく。


秋から冬に季節が変わると途端に、暇を持て余す様になった。出かけて行っても獲物のない狩りは、最早既に巡回に近い。勿論村の縄張りを巡回する事自体には意味はある。意味は有るが暇なのは間違いない。


其処で狩りグループの一部から「徒手武術」について教えて呉れる様にせがまれた。剣も然うだが、コボルト村には未だ、体系だった武術が無い。育っていく中で自然に身に付いた取っ組み合いの延長に戦闘技術がある。私がして見せた様な徒手格闘法は全く理解の外だという。



ふむ。


ならばと云う事で、広場を使って先ずは騎馬式をしてみよう。

行き成りトレーニングを初めては、体を壊す事もある。少しずつ体作りから初めて行くべきだ。


門の改修、塀の強化も順調に進んでいる。

門の上の屋根はもう、垂木が渡してあり、板を葺いてから茅を載せていくばかり。リーダーに火攻めの危険を相談してみたが、土手の更に上に建てたので危険が少ない事、門が独立した建物で、延焼の危険がない事から却下された。

塀については表面に泥を塗りつけて乾かし、火攻めに対する対策とした。雨で流れて仕舞うのが課題だが、未だ漆喰技術を受け入れる事は難しい。此の辺りの泥には粘りが有るので、川原の小石を埋め込んでみよう。

以前から気になっていた門扉に付いては村の鍛冶を行うスミスに蝶番についてアイディアを伝えると、考えてみると言う事だった。


未だ未だ塀の強化には堀や塀の屋根、漆喰と云った案はあるが、剰り沢山やらせても、手が周り切らなければどれも中途半端で終わってしまう。出来る作業から一つ一つ完成させて行くべきだ。


村人の武術修行は最初、10人程で始めたが、続ける内に何人か増えた。騎馬式の次に弓箭式を行い、更に馬弓錐へと発展させる。冬月の半ば、新年が始まる頃には虚式に始まり騎馬式の突きとなる冲錐を行う様になっていた。


犬人達は新年でも特別な祝いをする事はない。なので、私も言われる迄冬至が何時だったのか解らなかった。冬至を過ぎた最初の新月の日が日本で言うところの元日となる。


村の東側には川が流れているが、対岸には小高い丘が連なって居る為に元旦の風情は全くない。


冬枯れの木立に空っ風が吹き抜ける。


新年が来て数日、村に武装したゴブリンが10名程の集団で来た。


一時はゴブリンの襲撃かと騒ぎになりかけたが、何の事はない、ゴブリンには目上の者に新年には挨拶をする慣習があるとの事。彼等にとっての正装が武装だそうなので「どれだけ戦闘的なのか」と思わなくもないが、日本でも狩衣が正装だった時代もある。他民族を悪し様には言うまい。

彼らの臭いに有り難迷惑がる犬人も多かったが、持参した幾つかの物品、酒と醤の様な調味料についてはその価値を認められた。


流石に腐らせた生肉は食べられ無いので、今後持参無用としたが、酒とその肴に醤をつけた鹿肉は長の大いに気に入る所となった。


折角存続して貰ったゴブリン村なので、犬人達にも価値を認めて貰わなければ又諍いの元となる。

臭いに付いても犬人から見れば五十歩百歩だろうが、彼等成りに随分気を使っていたのは見て取れた。今回使者を率いてきた副将の指導の賜物だろう。


物を腐らせなければ食べられ無いゴブリンなのだから、武力の他にも発酵食品の生産者として価値が見いだせれば、地域の安定化が期待できる。今回手に入れる事が出来た酒や醤醢の他に、酪や納豆、塩辛、パン、漬け物等など、発酵食品は枚挙に暇がない。


又ゴブリン達も「犬人にも食べられる発酵食品」が作れれば、同じ食卓につく事が出来る様になる。只角突き合っているよりは余程健全な関係が構築できるだろう。


今回ゴブリンの村から自発的な使者が来た事で、彼等の配下にある他のゴブリン部族にも犬人が上位であると示す事が出来る様になったと言う。正直に言えば何処を支配したかと言う事に興味がない犬人だが、是で戦をしないで済むと思えれば良い事なのかと言う空気が出来た。


何となくホッとした気分の漂う、日本的な新年らしい数日となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ