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第七十五話 ライバル、ゴブリンを邀撃(ようげき)するのこと

帰途二日目、私達はゴブリン達の襲撃を恐れてと云うよりも、積極的に夜間邀撃をするべく、行程を短めにした。彼等がどの程度真剣に追撃してくるかは解らないが、私は可能性は高いと思っていた。


まあ、考え様に因っては村に滞在中に討つと云う手もあるだろうが、是では何かと疑わしい。ゴブリン達も襲撃してきた者達は最早従順だが、村に居た者達の方が不服従な様子に見えた。村の中で私達を討つには、反対派の抵抗を考えればやり難いとも言える。が、一歩村を出てしまえば、何が有ってもゴブリンとしては知らぬ存ぜぬを通す事だろう。


然う考えると襲撃者は多くて10名程度。夜の闇を上手く使えば、私達3名でも撃退可能なのではないかと思う。



僅かだが川沿いの道に罠を仕掛け、夕方には潜伏した。



果たして、未だ宵闇の濃くならない刻限、数名の足音が近付くのをハンスが捉えた。


コボルトに服従すると言った副将に対して反旗を翻す様な者達だ。全く統率が取れていない。道を急ぐ剰りに私語が絶えない。互いに小突き合って、含み笑いもする。私達を討ち取った後に上がる自分達の名声に酔っているのか。



其れを日本では「捕らぬ狸の皮算用」と謂うのだがな。



頃合いを見計らって、手首の紐を引く。




敵が騎兵隊等なら「ギロチンカッター」と呼ばれる罠になるが、じゃれ合いつつ歩いている様な徒であれば、精々脚を転ばす程度。みっともない悲鳴を上げて転倒したのが解った。


三人で飛び掛かり、予め作っておいた棍棒で滅多打ちに打ち据える。



容赦のない迎撃で全員の命を奪うのは簡単だが、其れではコボルト村の安全を保証すると云う目的が達せられぬ。面倒だが此奴こやつ等は、生かして帰す必要がある。


其れでも活きの良い者が一名、何とか立ち上がった。恐らくは此奴こいつが今回の首謀者。此奴だけは生かして帰すわけにはいかない。



奴の手元に淡い月光の反射が煌めく。と、中々の速度で突き込んでくる。副将には、況してゴブリン大将に及ぶべくもないが、次代の村を狙うだけの事はある。


右半身に構え、右手の刃物を閃かせる。引き手も速く、隙を見せない様な工夫がみられる。


厄介な事だが、ゴブリンと言う生き物は、人間に比べ、体格の割りに腕が長い。人と相対する積もりで居ると、スッパリと切られて仕舞う。其れが頸やら胴体なら、アッと云う間に左様ならだ。比較的打撲には弱いゴブリン乍ら、直ぐに起き上がって見せた所も侮れない。



此奴の突き込んでくる右腕を(ほう)で横から払いつつ間合いを計る。未だ引き手が早くて捉えきれない。


数度払い、引き手を捉える事に成功する。だ。掴んで引く。上手く掴めなければ、刃物で手を斬られてしまうが、其処は経験だ。手を引く積もりで居たゴブリンは前のめりに姿勢を崩す。其処に正面から左肘を打ち込んだ。



川原の丸石を打ち合わせた様な鈍い音がして、ゴブリンが後方へ跳ね飛んだのが解った。草の葉擦れから当たりを付け、思い切り踏み込む。


腕か脚か。


感触で骨を踏み折ったのが解った。


辺りにゴブリンの絶叫が響き渡る。もう一度。


絶叫がかすれてきた。


もう一度。今度は肩か腰か。


絶叫が途絶え、浅く呼吸している。ほぼ、身動きが取れない様子だ。


何か呟いている様だ。命乞いなのかも知れないが、残念な事に言葉が解らない。尤も言葉が理解出来ても、何を言っているのか解らないかも知れない。其れ程此奴の呟きは洟声に成っていた。


声のする辺りが頭だ。


もう、他のゴブリン達の叫びは聞こえない。滅多打ちにされている間は何やらギャアギャアと叫んでいたが、此のボスが叫びを上げてからは静まり返り、固唾を呑んで様子を見守って居る。ケントとハンスも動きを止めて此方を窺っている様子だが、気を緩めては居ない。


辺りには嗚咽の様なゴブリンの声と、さらさらと流れる川の音。


静まり返っていた秋の虫が、再び綺麗な声で鳴きだした。



地を揺るがす私の足音と、其れに続くゴブリンの短い断末魔。



地球ならば五日月程の細い月が、淡い光を投げる中、此の異世界の宵の川はまた閑かになった。


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