第七話 主人公、異世界をなめるのこと。
目が覚めても状況はまったく変わっていなかった。まあ、当たり前だが。
日が差して明るくなっていたので、身体の痛みを騙し騙し、足を絡まったツタから開放していく。尤も、ツタから外れたとたんにまたツルッとやって真っ逆さまなんて歓迎したくはない。
どうやらこうやらツタから足を抜けたのは、もう昼頃になっていたと思う。ずいぶん腹が減っているし、のども渇く。
マイナスイオンっぽさっと言うか、渓流独特の雰囲気のおかげで、まだそれほどの厳しさはないが。
今度こそ足を滑らさないように、慎重に崖を降りていく。
ところが、水面が視界に入ったところで、何度目かの絶望をした。
これは、水を飲むどころの騒ぎではない。滝から流れ落ちる水流は激しく、岩に当たってしぶきを上げている。そうかと思えば、その水流に削られたのか、足下の崖はほとんど足場など無い。崖には両手でしがみつかなければ、とても姿勢など維持出来ず、水面に手を伸ばす事などはできそうにない。
それでも、のどの渇きは我慢がならず、空中の水しぶきだけでも味わいたかった俺は、なんとか水面近くまで降りた。
が、ここまでだ。
峰に登るべく、上を見上げるがこの崖を登るなんて不可能だ。服の袖についた水しぶきをなめる事でのどの渇きは少しだがいやせた。
が、この身体を再びあの高さまで持ち上げるなんてできない・・・。これならばまだ、川の流れに乗った方が助かるのではないか。
そんな事が甘い考えだなんてつゆほども思わず、両手の力を抜く。
けっこうな水しぶきを上げて水面に身を躍らせたが、山の渓流は厳しかった。
こ、これは・・・。
水温は氷点下じゃないかと言うぐらいで、瞬く間に身体の自由は失われた。泳ぐなんて不可能だった。まつわりつく衣類がさらに身体の自由を奪う。
水流が身体をあちこち叩き付ける。
何度目かの衝撃で、俺はまた意識を手放した。
玲央は最大生存記録を更新した。