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第六十七話 ライバル、戦うのこと。その一 夜襲

作戦は決定した。先ずは日の有る内に伝令と増援を兼ねた数人を選び、村に入らせる。之には目立たないガス、マイク、ケントが待子から選ばれた。下流で川を渡り、村の南から塀を越える。


一方私達本隊は日没、更にゴブリン達が寝入るのを待つ。其れ迄は交代で仮眠を取っておき、眠気防止と体力温存を図る。夕食は残念だが、煙で見つかる可能性を考えて、非常食だ。



先ずは伝令が下流を渡る。ゴブリン共に見つからない様に祈っては居るが、何にしても奴等も余り周辺警戒はしていない。私達の陣からは見えるが、村攻略に夢中になっているゴブリン達は気付いていない。相も変わらず棍棒を持って突撃し、塀際で矢傷を受けては這々の体で川原に戻ることを繰り返す。おまけに2〜3人ずつでしか突撃しないものだから、ほぼ効果はない。尤も突撃しては矢傷を受け、手当をして貰って休むのであるから、余程塀攻略の目途が立たない限り、今以上の戦力投入は単なる自滅でしか無く、其の意味に於いては「最大の攻撃をしている」とは言える。


然し素人の聞き囓りだが、確か「城攻めには3〜5倍の兵力」が必要なのではなかったか。ならば、非戦闘員も居るとは言え、全人口より少ない兵力で村に攻撃をかけてきた時点で無謀としか言えない。襲撃の目的は略奪だろうか。此の人数で何とかしようと云う事が愚かしい。



日が傾いて夕方に近くなる頃、ゴブリン達の士気が目に見えて低下してきた。其れはそうだろう、私達が見ているだけでも数時間、休み休みとはいえ奴等成に全力で戦闘を行っているのに全く成果が上がっていないのだから。鎧、兜の御蔭で塀際まで近付く事は出来るのだが、二、三回ほど塀を叩いたら受けた矢傷に堪えきれなくなり、下がっていく。そして手当てをする者と喧しい言い合いの末、今度は手当てを行っていた者が棍棒を掴んで攻撃に向かう。既に何巡か繰り返して居るのか、手当てを受けて居ない者が居ないように見える。


奴等は治療者も指揮者も区別しないのか。良く言えば平等と言えるのだけれど、只でさえ決して多いとは言えない兵力を物凄い勢いで消耗していっている。そして其れに気付く指揮官が居ない。


勿論、最初の突撃までは意気軒昂だったのだろう。しかし、矢を受けて負傷しているのにも拘わらず味方と言い争いの結果再出撃するのだ。之では志気が維持できる方が不思議と言える。低下した士気を鼓舞する者も居ない。


私としては、奴等が此の侭士気を低下させ、日が暮れる前に撤退して呉れたら楽が出来て良かったのだが、残念だが然うは成らなかった。無茶な出撃をしているのにも拘わらず、戦果がない事に苛立ち、味方同士で言い争いをする様な者共だ。私には想像も出来ない程プライドが高いのだろう。面子とか、誇りとか。


下らない。誇りや面子等は心の内に秘めていれば良い程度の物だ。味方同士でプライドをぶつけ合っても士気が低下するだけだ。全く以て下らない。


そんな下らない事で目的を見失うなんて、愚かにも程がある。まあ、愚かだからあの程度の兵力で村に攻撃するのだろうが、こんな嫌がらせ程度の襲撃を受ける此方は良い迷惑だ。


面子に拘る愚かしさの為に引き際を誤り、命を落とすのだ、奴等は。

其れでも未だ彼等にとって幸いなのは、此が彼等の意志で行われて居ると云う事だ。少なくとも私達犬人の様な被害者ではない。自らの意志で攻撃し、其の結果、報いを受けると云うだけの事。


日が暮れて辺りが急に暗くなってくる。ゴブリン達は川原に流木を集めて火を熾した。予想した通り、其れ也の支度はして居る様だ。一方、村でも賑やかと言う程の事は無いが、矢張り夕餉をとった様だ。


私達は茂みに潜んで奴等を睨み、干し肉を囓り、奴等のキャンプが終える迄を監視する。


秋口とは言え、流石に川原の野宿は冷える。奴等も毛布を出して、包まり始めた。疲労のせいか、怪我のせいか。不寝番を立てると云う事すらしない。村には指示を出して、灯りは落とさない様にして貰って居る。



先ずは私と一緒にワウ、ハンス、サンマ等、隠密接敵に優れた者が渡河する。川に流されない様、不自然な音を立て無い様に歩を進める。


寝静まった様に見えてから渡河を始め、確りと時間をかけている。目覚めると云う事は無かろうが、慎重に慎重を期す。水から上がった。


必要に応じて手を使い、音を立て無い様に慎重に進む。


が、此は・・・。


奴等のキャンプが近付くにつれ、気付いた事がある。大きく動揺する。


隠密に手を使う事が躊躇われる。



奴等は物凄く臭かった。


所謂獣臭いとか、汗臭いとか、然う云う臭いでは無い。タマゴが腐った様な硫黄臭、脂が腐って胸焼けがする様な臭い。所謂生ゴミの臭いだ。


物凄い臭いを堪えつつ、私達は接近していった。私でも相当にきついのだから、嗅覚の敏感であろう犬人達には相当に効いて居るのでは無いだろうか。皆、鼻は抑えられないから口を開けて息をするが、其れで何処まで堪えられるだろうか。


ゴブリン共に近付く。未だ気付いて居る様子は見えない。村の塀越しに漏れる灯りで様子を窺い、手分けして様子を探った仲間と視線を交わす。大丈夫そうだ。視線で示し合わせて一旦引く。物語の暗殺者ならば此処で倒して行くのだろう。だが残念な事に私達は其れ程手練れと云う訳では無い。先ずは後退して、合図で渡河を始めた本隊と合流する。一人ワウだけは村に向かっている。


私達よりはやや騒々しく渡河を終えた本隊と合流し、村を窺えば塀の上に数人、矢を番えている。大丈夫だ。


村の弓兵がギリギリと弓を引き絞り、放つ。風を切った矢がゴブリンのキャンプに殺到した。


「グエッ!」


誰かが当てたらしい。


「行くぞ!」

レイラの号令一下、河原を走った。河原の石くれを蹴る音、そして抜剣する音。私もナイフは抜いている。


近付くにつれて、慌てて飛び起きようとするゴブリン達が見えた。未だもがいている。先ずは此奴だ。近付きつつナイフを投げる。刺さった手応えで直ぐに左腕のナイフも投げ、右手の紐を引く。入れ替える様に右手のナイフが手に戻る。毛布を突き上げて居るのは腕か脚か。逆手に持ち替えている右のナイフで斬り付ける。毛布の上からは匆々綺麗に斬れる物では無いが、腕と解る手応えが有る。なれば、毛布の此処が脇腹だろうと当りが付く。左を刺す。


当りだ。毛布の下からくぐもった悲鳴が聞こえ、ナイフが肋骨の間に入った事が分る。毛布の下から突き出す腕が私の顔に当るが勿論然したる効果は無い。更に右を刺す。左は刺した儘、暴れる奴に任せて脇を切り裂いていく。が、背後に気配がする。


「ワウ!」


振り返り様吠えた。


「ガウ!」


味方か。


もう、初太刀を終えたのか、其処此処から合言葉の吠え声が聞こえ始める。


吠え返すのに隙が出来た。奴が毛布から腕を出している。

上体を反らして躱す。

危なかった。奴が咄嗟に掴んだ河原の石は、振り抜く勢いの儘地面を叩く。窮鼠猫を噛む、か。振り回す石を避ける私に乗じて奴も毛布を抜けて立つ。


昼の攻撃でも思ったが、金創に滅法強いのだな此奴等は。多少の斬ったはったは怪我の内に入らんか。



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