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第六十六話 ライバル、異世界での襲撃を受けるのこと。

犬人村での穏やかな生活はそろそろ半年を超え、秋を迎え様としていた。その半年の生活で私はリーダー達と狩りに出かけ、獣や鳥を狩り、帰ってきては長達と笑い乍ら飲み食いをし、床に就いては皆と鼾をかいた。


勿論、万事が万事上手く行って居たとは言えない。私の初陣で腕を折ったマルは其の後の狩りを諦め、川で魚をすなどる様になった。私が名前をつける前に狩りで命を落とした者も居た。夏の間に村では3人の子供が生まれ、私はそれぞれにジョン、ケイト、ポチと名をつけた。

また、単純に年老いて夏の暑さに命を落とした者も居た。


犬人達は死人が出ると村民全員で弔い、大神様に報告する。其の後は村の外の墓地の様な場所に穴を掘って埋める。墓標の様な物は無い。


また、子供が生まれると是又村が総出で祝い、大神様に報告する。大神様は一人一人の匂いを嗅いで顔を舐める。


子育ては生んだ母親がするのはまあ、当たり前と言えば其の通りだったが、ジョンの母親が狩りの待子をしていたガッツだったのは驚いた。犬人の性別は確かに判り難いが、真逆女性が狩りグループとは思って居なかった。人間よりも性差が少ない様だ。


狩りグループは是で二人減ったが、私、そして今年で7才になるナナが新たに見習いとして入り、規模の縮小を避けている。


概ね平和な日々を過ごしていると言えた。



あの時までは。



あの日は夏の暑さも越え、秋になってしばらく経っていた頃だ。私達は来るべき冬に備えて、是迄よりも一層狩りに精を出していた。蓄えは未だ十分とは言えないが、まあまあ、順調に増えていた。


何時もの様に獲物を狩り、止めを刺し、解体を終えた頃、狩りグループにざわめきが走った。


ガスによれば村が何者かの襲撃を受けたと謂う事だ。リーダーが狩りを中止して、武装を構えた警戒態勢のまま村に帰還する事を決定する。


私達は逸る心を抑えて、村への帰途を辿った。



村が見える様になる前に、私にも騒ぎが分かる様になった。叫び声、子供の泣き叫ぶ声、剣戟の音。時折風を切る音がするのは弓矢か。


思わず走り出そうとするが、リーダーに制止される。


「何故止める!」


ガスが静かにする様に口に指を当てた。


「シューッ」


どういう事だ。

副リーダー格のレイラが言うには、今慌てて飛び出ても待ち伏せに遭う可能性がある。村の塀は直ぐには落ちないから、まずは情勢を確認するのだそうだ。


そうか。成る程。村に受け入れて貰ったとは言え、私はまだまだこの世界で知らない事が多い。ここは言う通りにしよう。



川の対岸に着き、山陰から村が窺える位置に着いた。


襲撃者の様子を見る。襲撃者は凡そ20人程か。当然だが全員武装しており、犬人達とは事なり兜や鎧の様な物をつけている者も居た。当然、村を包囲するには少な過ぎ、河岸から攻撃しているだけに見える。


「ゴブリンか」


狩りグループの誰かが後ろで呟く。そうか、奴らはゴブリンと謂うのか。背丈は犬人達と同程度だが、横幅が広くてより力強い様に見える。遠目にも分かる特徴が肌の色だ。勿論肌の色で差別してはいけない、いけないのだが私にはとても禍々しく思えた緑色だった。子供の頃、テレビアニメの宇宙人はあんな肌色だった。


武器は棍棒や斧といった扱いが簡単な物が多く、剣を振るう物は僅か。弓を持つ者も居るが、陣の後方、川原に座り仲間の突撃を見守って居る。


其れにしても見苦しい戦いをする。大声で喚き立て、唾を撒き散らし乍ら闇雲に棍棒、斧を振るっている。村からの反撃はほぼ無く、塀を越え様とする者に箭が浴びせられる位。明らかに狩りグループの帰還待ちをしている。


それでも赤ん坊の泣き声は止まない。ケイトだろうか、痛ましい。村の危難と言う程の事では無いが、ああも喚き立てられたら赤ん坊は泣き止むまい。


何より襲撃者と同程度の人数が今は村には不在だ。其の心細さは計り知れない。


一渡り襲撃者の様子を見たら、狩りグループで打ち合わせをする。


「整理をしよう。襲撃者はゴブリン。凡そ20人程。前衛は塀の攻撃に係り切りで、後衛の弓は傍観。何人か負傷者は出ている様だが、諦める様子は今のところ無い」


と、リーダーが言う。


「一人一人は大した事無いが、今回は全員防具を着けているのが厄介」

之はレイラ。


「今飛び出ていったら、川を渡っている間に箭を射かけられる」

待子のケント。艶のない黒い鱗が何だか頼もしい。


「先にこちらの箭で奴らの弓隊を減らせないか」と言ってみる。


「射返されたら、こっちが不利だね。奴らは鎧を着ているのに此方は無い」

とはレイラ。そうだ。鎧は狩りの時には邪魔なので着けない。犬人達には生まれ持っての防具、鱗があるが、鎧とやり合うには心許ない。


「すると、夜襲か」


「夜襲?」

聞き返された。


「夜、暗くなってから闇に紛れて攻撃するんだ。幸いに秋に入ったばかりだから、月は未だ其程明るく無い」


「なるほど」

「それは考えなかった」


そうか。


「よし、夜襲にしよう。どうする、ケイ?」

とはリーダー。


「まずは、村に知らせをする。何人か弓の得意な者、剣の得意な者を選んで川の下流で渡河。ゴブリンを迂回して村に入り、増強する。同時に、夜、合図と共に逆襲する事を伝え、安心させる」


「なるほど」

「うむうむ」


「本隊はリーダーと何人かを除いて川を渡る」


「ちょっと待て、俺を置き去りにするのか」


「リーダーは大将なのだから、万が一があっては困る。特に夜襲では同士討ちも考えられ、危険だ」


「むう・・・」

「すると、同士討ちを避ける方法が必要だな」

レイラは鋭いな。


「私達の国では斯う言う時に、合い言葉と云うものを使う。たとえば斬り掛かる前に『山』と言い、『川』と予め決めてあった返事をしなければ斬るというものだ」


「なるほど、それでは我らなら吠えればいいな。ケイも吠え真似ぐらいはできよう?」


「まあな」


「よし。他にあるか」


「今の所は」


「きまった。我らは今夜、ゴブリンどもに夜襲を仕返す」


「「「「おう」」」」



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