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第六十四話 ライバル、狩るのこと。

狩りは思っていたよりも上手くいった。犬人達は何よりも連携がとれていて、勢子が上手い。犬人なのだからとも思うが、野を駆ける彼らはまさに野犬のようだった。遠くから野犬のように吠え立て、獲物を狩りだしてくる。


待子の仲間達も優秀だ。弓を引く者は直ぐに引ける様な姿勢で構え、仕留める係は地に伏せ、どちらも微動だにしない。私も同様に地に伏せている。


犬人達の吠え声が近付いてくると、合間にピィッ、ピィッと鋭い啼き声がする。これが狩り立てられている獲物の声なのだろう。


待子が待ち構えているのは丘と丘の間の緩い谷間になる。雨の多い季節には川に流れ込む流れが出来るのだろうが、今はない。乾いた谷底を避ける様に灌木があり、其程遠く迄は見通せない。



声が随分近付いてきた。待子の緊張も高まる。谷底の石を蹴るカカッカカッという足音。草叢を突っ切る葉擦れの音がして、獲物が私たちの前に飛び出た。即座に弓隊から箭が放たれる。が、犬人達の短弓では仕留めるに至らない。


数本の矢が肩や背に刺さる鹿だが、勢いは一向に留まらない事は、飛び出した私達からも窺えた。待子隊の犬人が飛びかかるが、体格が違い、ほぼ蹴散らされる。


鹿が此方を捉え、勢いを殺さずに突進してくる。一斉に汗が噴き出る。タイミングを図ってサイドステップ。左腕のナイフを喉に突き立て!


られなかった。喉と言うよりも人で言う鎖骨の間。胸に近い所に刺さってしまった。衝撃でナイフが手から離れるが、距離が空かない様に革紐で手に結び、余った紐は手首に巻き付けてある。腕を折らんばかりの衝撃が体を引っ張る。背を刺した所で効果はあるまい。反動で騎乗するかの様に鹿の背に乗る。


ギョッとした鹿が背を振り返るがもう遅い。右手で鹿の喉をかっ捌く。勢いで10メートルは走るが、弓隊までに辿り着く事は出来なかった。


中々の大きさを誇る個体だったが、もう命はない。徐々に冷えていく背中から降りるとナイフの血を拭う。


「ばらしてしまうのか?」と日本語で訊いてみるとどうやら違う様だ。犬人は言葉を理解するのも優れている。これなら日本語でも生活に不自由はするまい。


喉をかっ捌いたせいで夥しい血が流れているが、此方は余り気にしていない様だ。ある程度収まってきた所で大きな布を広げた。此に包んで持ち帰るのか。おっと、その前にわたは抜く様だ。寝かせている鹿を仰向けにする。胸骨の下から刃を入れて開腹する。腸抜きをするのはリーダーだが流石に手際が良い。殆ど肩まで入る様にして、何やらしている。と、急に真っ赤な内臓がでてきた。心臓か、肺か。更に手を入れて大まかな腸を取り出してしまう。サブリーダーが小刀で必要な所を切り取っていく。ちょうは少し内容物をしごいて、胃と切り離した所を結ぶ。内臓を抜き終わった鹿は皆で持ち上げ、布にくるむ。


勢子達も集まってきた。皆で点呼をとる。待子の内、蹴散らされた一人がどうやら着地の際に腕を折った様だ。左腕を押さえて俯いている。折れた腕は変にくっ着くと後に関わる。彼の剣を鞘に収めて添え木にする。剣が長すぎてとても腕を吊る事が出来ないが、何れにしても三角巾がないのだから、大差あるまい。勢子の中には足を挫いた者が居た。これ亦同様に布を巻くが、今度は飲料水で湿らせて湿布にする。東京ならば何らかの湿布薬を使う所だが、この世界では文字通りの湿布しかできない。


比較的体格の小さい者を中心に集め、彼らに獲物を担がせる。残りの私も含めて体格のある者は周辺の警備に当たる。


捻挫一名、骨折一名なのだから今日の狩りはまあまあ成功したと言える様だ。リーダーの機嫌が割りと良い。とは言え、獲物の横取り等もあるのだろう、全員はまだ、緊張を解かない。家に帰るまでが遠足、違った狩りだ。


フフ。是が私の犬人としての初陣か。何だか面映ゆい。


大きな布が斑に染めてあった様に見えたのは、何の事はないこの血染めであったのか。


周囲を警戒しながらだが、村に帰った。


村には夕刻に至る前に着き、早速解体が始まる。


運んでくる間に大方の血抜きは終えている。まず背中から刃を入れて、縦に皮を割いていく。開いた場所から更に刃を入れていき、皮に穴を開けぬ様に切り開いていく。背中を開いた程度で刃が切れなくなってきたのか、小刀を換えた。新しい小刀で背中の肉を切り出して避け、左足に更に切り進める。腱を切るのが大変な様だ。また小刀を換えた。更に切り進めて今度は右足。背中の肉に加えて、これで両脚の肉が切り出された。

更に小刀を換えて、前脚を解体していく。換えた小刀はみてみると素早く川に持って行っている。直ぐに研いでいるのか。とは言え、このペースで狩りをしていたら、村中の刃物があっという間になくなってしまう。

日本では、というか私たち人は、鹿の脂身は余り食べない。好みが分かれる所だ。犬人達はどうするのだろう。


うむ、どうやら食べる様だ。赤身肉とは丁寧にわけ、器に乗せていく。肉を切り出された鹿の方は、更にバラバラにして、別の器に乗せていく。


気がつくと辺りは薄暗くなってきていて、村の広場には火が熾されている。今日はこの鹿肉が夕食か。


大して働いている気はしないが、夕べと違って腹一杯食べられる。


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