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第六十三話 ライバル、大神様と戦うのこと。

私の居る広場に、大神様がおもむろに近付いてくる。私の中ではもう「大神様」で呼び名は確定した。昨日の大蜘蛛あたりは平気で駆逐されそうだ。


私の正面に立つと、「がう!」と一声吠えた。


と、一気に左前脚が飛んでくる。ガードは上げてあったが、流石に重い。あっさり吹っ飛ばされる。


あつつつ。


素早く立ち上がるが、右腕が痛い。更に右前脚。ガードが間に合わず胸に直撃する。


「ガハッ!」


肺の空気が叩き出され、息が詰まる。今度は倒された所から更に転がり、起き上がらないで視線だけで大神様を窺う。頭上を左前脚が通過した。


体を更に屈めて潜り込み、全身を使って蹴り上げる。


腹を狙った積もりだったが、ポイントはずらされた。蜘蛛を撃退した箭弓腿だったのだが、不発までは行かないまでも、クリーンヒットとは行かなかった。


流石に大神様も一旦距離をとる。此処は逆に一気に間を詰めて打ち倒すチャンスかも知れない。そう思い、座盤式に屈める。これは構えにコツがある。


と、間をみて飛び込もうとした瞬間、大神様の視線が和らいだ。くるりと背を向けて御社へと戻っていく。


どうやら、試験はパスしたらしい。


と、ワッと村人達に取り囲まれた。皆ワウワウ言いながら、私の背中と言わず肩と言わずバシバシ叩いてくる。表情は一見無表情ながら、喜んでくれて居るらしい事は伝わってくる。


何て言うのか、言葉が通じなくても通じ合える物がある。其の様な人達だ。


一渡り喜んで貰ったら、広場にある輪切りにされた丸太に座らされた。なんだか戸惑っている内に「まあまあ、まあまあ」と言って座らされた様な体だ。

その内に、家々からワラワラと大勢でてきて、広場の丸太にどんどん座っていく。人口は先程三倍ほどにあっという間に膨れあがった。成る程。得体の知れない訪問者なのだ、女子供は家に隠れていたと云った所なのだろう。


皆それぞれに器を持って居て、私にも一つ回ってきた。これは皆で食べる朝食か。ならばと折角だから、荷物からまた干し肉を取り出し、僅かずつだが千切って配る。長にも大神様にも好評だったのだ、皆も食べたいに違いない。

全員に行き渡ると、沈黙が訪れた。


皆俯いて目を閉じている。長が何やら呟いている。食事前のお祈りの様だ。私も倣って、畏まる。


語尾をうーっと伸ばして黙り、一拍おくともう解禁の様だ。皆一斉にありつく。朝食は何だろうか、何かの穀物か木の実を煮炊きした様に思える。水を豊富に使い、粥の様な仕上げだ。淡泊な味付けなので、私の干し肉から出た塩気が凄く利いている。食べ終わるとそれぞれに器を持って、門を潜っていく。食事係は大鍋を持って居て、数人がかりで運んでいる。器を鍋に入れ、一緒に鍋を持った。少し驚かれはしたが、拒否はされなかった。


一緒に河岸に出、一斉に大鍋を洗う。器も流さない様に気を付け、匙の様な食器と一緒に洗う。洗い終わると逆さにして、水気を切りながらまた村に運び入れる。御社の方まで持って行くから何かと思ったが、大神様の御社の脇に炊事場があった。洗い上がった鍋をそこに伏せ置き、乾燥させるのだろう。


皆再び川に出ていく。何かと思えば洗顔だった。水浴びでもある。皆交代で荷物番をし乍ら水浴び、洗顔、口濯くちすすぎをしていく。私も倣っておこう。夕べは体を洗っていないので、ちょうどいい。


川からあがると脱いだ服は一纏めにされていく。私は替えがないので、また同じ服を着ようとしたが止められた。褌の様な下着、貫頭衣の様な上着、帯、サンダル様の履き物が手渡された。是を着ろと云う事か。


ああ、そうか。人間より鼻が利くのだ。私などは一日二日体が洗えない程度は我慢できるが、犬人達には耐え難いのだろう。


着替えて広場に出ると、何やら物々しい。皆槍やら剣やらを持ち寄っている。中には弓箭に帯剣している者もいた。私にも何か武装しろと云っている様に見えた。何だ何だ。


とは言え私も現代日本人、そうそう武装など持ち歩きはしない。そうだな、せいぜいが所、ナイフを持つか。投擲用の二丁には革紐を通し、回収し易くしておこう。紐の端は両手首に縛っておく。更に数本をあちこちに仕込んでおく。


支度を済ませてまた広場に出ると、長ともう一人、一際体の大きい者のまわりに皆集まっている。手招きしている様なのでいってみると、地面に石や木を置いて落書きしている様に見えた。是はあれか、軍議か。

体の大きなリーダーが、集まったメンバーを指さしては、地面の石を動かす。指さされた村人が頷いている所をみるに、作戦指示なのか。動いた石の跡を見れば、経路がわかる訳だ。


リーダーが私を指さし、石を指さす。是が私という事か。何やら言うが、言葉が判らないので、細かな事は解らない。あれ?其れにしても可笑しい。この石は動いた跡がないのではないか。


「リーダー、済まないが是では私は役がないではないか」


何と言ったら良いのか解らないので、止むを得ず日本語で言ってみる。リーダーがきょとんとしたので、ぼーっと立つジェスチャーと組み合わせて、ゆっくり繰り返してみた。


「私は、やる事がない、のか?」


と、理解したのか、リーダーは相好を崩す。


「やる事やる事」と繰り返しながら、私の石を指さし、剣を振る真似をする。更に、他の村人が「ぎゃーぎゃー」と吠える。それぞれ輪の様な形で小さくなりつつ、私の石へ集まってくる様だ。


あ、是はあれか、戦と思ったが実は狩りか。


解った。「解った解った」と頷いて、ナイフを振るってみた。私は待子をすればいいのだ。見ると弓を持った数人が頷いてくれた。


細かな地理が解らないのは残念だが、この村で出来る事が有ると言うのは良い事だ。働かざる者喰うべからずとも言う。


不安がない訳ではないが、まずは私を受け入れてくれたこの犬人の村と大神様、それと巡り合わせに感謝した。

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