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第六十一話 ライバル、異世界人(?)と遭遇するのこと。

夜間に何度か目が覚め、その度に蛇やら何やらを撃退はしたが、概ねぐっすり眠って朝を迎える事が出来た。朝日はまだ差していないが、東の空は既に結構明るい。


ハンモックを降りると西の山脈が暁に染まっている。山の名前が解らんから赤富士とも何とも言えないのがもどかしい。


荷物を纏めて背負い上げ、川原に降りる。洗顔をしようと思えば、朝の早い小動物の先客がいる。一斉に私に驚いて素早く隠れていく。私も其程強い訳ではないのだけれども、苦笑して顔を洗い、口を漱ぐ。乾燥した飯を少しカップに入れ、川の水でふやかす。この食料も何時まで保つ事やら・・・。スプーンで掻き込んで朝食をとり、スプーンとカップを洗う。さて、問題は上流に行くか、下流に行くか。物語ならば此処で箸やら椀やらの生活品が流れてきて、上流に村が、という事になるのだろうが、現実は甘くない。


まあ、一度片方にいって、行き止ったらまた戻って来ても良いだろう。決断して荷物を背負い上げ、川を上る。川原の石くれは不安定だし音もする。少し戻って少し土手になっている河岸に沿って遡ろう。


何の気無しに周りを見れば、朝露に濡れた葉がぐんぐんと伸びている。自然というものは凄い。周囲が徐々に明るさを増す。早起きな鳥が啼き出している様だ。相変わらず啼き声に聞き覚えはないが。


うねった川沿いに小一時間も歩くと対岸に何やら村落の様なものが見えてきた。


ふむ、此は何処で渡河するのが良いのか、考え所だろう。もちろん、真っ直ぐ村に向かって渡河する事も出来るが、流れは先程よりもやや速い。勿論直ぐに流される等と云う事は考えていないが、此方を見つけた住人が外来者に敵対的であった場合、私は足下に気を付けながら攻撃に晒される事になる。余り望ましい状況には思えない。


一方で、上流か下流かに迂回して渡河し、物陰に潜んで接近する事も出来る。とは言え、そんな事をしたら其れ自体が敵対的行動と受け取られかねない。


等と悩んでいる間に村の対岸に着いてしまった。

見れば村の周囲には簡単な塀の様なものがあり、一応の防御は考えられている様に見受けられる。門は対岸の土手の上にあり、土手の斜面が空堀の機能を果たしている。尤も、村の向こうがどうなっているのかは良く解らない。茅で葺いた屋根が何棟も連なって居る事を見れば、昨日見た茅の切り株は彼らの痕跡である可能性が高い。一定以上の文化を持っている、頼るに値する集団と云う事だ。と言う事は逆に、今渡河する手は無いと言える。


門が此方向きにある以上、きちんと訪いを告げるのが良い。決めた。住人がどの様な者達であるにせよ、川沿いに住む以上は川を生活用水として利用している筈だ。なれば、川を利用しに出てくる事だろう。其処で正式に訪えばよい。


見る間に村が目覚め、住人達の声が聞こえ始める。


が、或る程度予想はしていたのだが、言葉が判らん。むう。


何だろうか、犬が吠えている様な。犬を飼っている事は意外ではないが、犬の吠え声の様な、会話の様な大声しか聞こえない。不安だ。少なくとも日本語が通じなさそうな事だけは判った。


暫くすると朝食の支度だろうか、村から煙が上り始める。寝坊助の子供や父親を叱っているのだろう、大きな怒鳴り声も聞こえ始めた。そろそろ良いだろうか。とりあえず、対岸からならば攻撃的であった場合にも逃げられる可能性はある。


「おおーい。誰かいらっしゃらないだろうか。此処が何処なのかお教えいただきたい」


呼ばわってみた途端に、村落が物凄い大騒ぎになった。蜂の巣を突いた様な、と言うのは此の事か。

どったんばったん大騒ぎの末、門扉の影から此方を窺う様に顔を覗かせた住人を見て、今度は此方が仰天する事となった。



なんと言う事か。此方を窺う彼らは明らかに人類ではない。いや、少なくともホモサピエンスとは呼べない。


顔、首から上だけしか見えないが、見た目は「犬」だ。大声で吠える様に、互いに会話をしている。が、彼らが村に飼われた飼い犬軍団でない事は直ぐに判る。飼い犬が門扉の閂を操作したりはしまい。


やがて、彼らの方から私に問い掛けの様な吠え声が聞こえる。とは言え、全く言葉が判らない。


仕方がない。


恐らく彼らの塀の中からは箭が届かないであろう距離まで、此方の方から姿を現すしかないだろう。荷物を背負い上げ、両手を見せる様に広げ、村に接近していく。急な動きは厳禁だ。


「済まないが、言葉が判らない。敵対する積もりは全く無いので、何方か教えて頂けないだろうか」


此処が何処か、今は何時なのかと言う言葉は飲み込んだ。


これ以上は、と言う距離で足を止める。

序でに背負った荷物を足下に、村の方角に置く。


村の中から一際大声で何かを呼ばわる声がするが、済まない、何を言っているのかさっぱり判らない。そもそも言葉なのか自信が無くなる程吠え声っぽい。


と、扉を開いて少し飾り気のある服装をした犬人が現れた。村長か何かなのだろうか、とは言え年齢も性別すらも良く解らない。服は何というのか、織った布に穴を開け、頭を通しているだけに見える。下半身は何か、ゆったりした袴の様な物を穿いている。

手には権威づけなのだろうか、杖の様な物を持っていた。いや、たしかにピンと立った三角の耳や、長い鼻面は犬っぽくは見えるが、立ち姿は人と変わらない様だ。何と言うのか、古代エジプトの壁画に描かれていた様な姿だ。


さて、私は此から彼らとどの様な交渉をするべきか。

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