第六話 主人公、異世界の自然に難儀するのこと。
甘かった。
山ってこんなに厳しかったっけ・・・。滝壺の迂回だけでも相当しんどかった。縁が綺麗な崖になっているなんて事はなく、亀裂があり、ぐらついた岩盤が突出していたり。
木々の根によって亀裂が広がっていることも多く、滝壺の迂回に数時間はかかってしまった。麓には着いていたかったが、沢にさえたどり着けることもなく、足下が斜面になりそうなところですでに日が大きく傾いている。
足下はすでに暗くなっていて、坂を下るには不安がある。とはいえ、のどは渇き、腹が減っている。
糞、こんな事なら、奴の足でも喰っておけばよかった。喰えるものなのかどうかわからないが、空腹よりはましだ。
この足下の不安な状況で、沢までくだるかなんて悩むのよりはましだろう。
ぐずぐずしていたらそれこそ真っ暗になってしまう。
足下を慎重に確かめながら、沢へとくだることにした。なんにしても上にいては寝ることすらろくにできないだろう。
一歩、また一歩。
あ。
と思った時には石についた苔に足を滑らせていた!
痛え・・・。
足から滑り落ちたので、頭を打つことは避けられたが、腿から尻、背中をしこたま打ち付けている。崖の途中にあるツタのようなものに引っかかって滑落は止まったが、完全に身動きがとれなくなった。
無理にツタをはずしても良いのだろうが、外したとたんにまた滑落したのではたまったものではない。何よりも腕や手も相当打ち付けていて、それほど繊細な作業ができそうにない。
おまけに身体の背面が打撲だらけでもう・・・。
いかん、どうしたものか・・・。
遠くに滝の音が聞こえる。
下の方からは滝の下流だろうか、さらさらと水の流れる音も聞こえる。
辺りはもうすっかり暗くなってしまった。慎重に崖を降りているあいだにずいぶん時間がたったようだ。
空は思ったほどは暗くはない。山の夜は早いのだ。
もはや俺に選択肢はない。
最低でも今晩一晩、あるいはこれから死ぬまで、ここに宙づりになるのだ。
覚悟を決めた。
そうとなると人の身体は現金なものだ。普段はまったく眠気などない時刻だろうというのに、あっという間に眠ってしまったのだから。
明日どうなるかなどまったく考えもしないで・・・。