第五十八話 主人公、異世界格闘大会で戦うのこと。その九 勝利と祝杯。
ついにゴーラとダンの戦いだ。ゴーラは一応打撃対策はしているようだが、ゴーラ自身に打撃はなかったように思った。ダンには打撃がある。この違いは大きいと思うから、俺はすぐにダンの勝ちで決着するように思うのだがどうか。
二人とも間合いの外から軽く会釈をして構える。ゴーラはこれまで通りに両腕を高く上げたスタイル。一方のダンは、やはりこれまで通りに両腕をガードするスタイルだ。
二人が間合いを計りつつじりじりと近づく。パンチがある分、ダンの方が間合いが遠いはずだが。
じりっ、じりっ。
ひゅっ!
ダンのジャブだ。パンッ!という軽い音をゴーラの頬が立てる。ジャブは俺よりダンの方が速いのか。
右、左。ゴーラが腕を伸ばすが、ダンは軽くスウェイして避ける。っと踏み込んでジャブを放つが、これはゴーラもガードする。
これで双方間合いは掴んだはずだが。
離れるとゴーラの構えが変わった。
これまでの両腕を挙げるスタイルから、少し顔の上をガードするスタイルに変わった。拳が頭上から顔の前になっている。
拳?そう、拳も緩くだが握られている。
かなりダンに近くなった。
再びじりじりと近づいていく。
ひゅひゅっと打ち出すダンのジャブ。ゴーラのガードは打ち出されていて、ガードというよりもこれまたジャブ。骨が当たる鈍い音がして、拳が引っ込む。
緊迫する。
ゴーラがジャブのように腕を伸ばすが、ダンはこれをガードではなくワンツーで打ち落とす。これはいかんパターンだ。
一見互角に打ち合っているように見えるが、どっちが先に動いているかの違いでしか無く、結局はゴーラの腕が打たれているに過ぎない。ついでにいえば、午前俺と戦ったときのダメージがある。昼休みを挟んでずいぶん痛みが増しているはずだ。
対サンダ戦で少しは休めたはずだが、ダンはそこまで緩くない。
さらにダンがジャブを放つ。
ゴーラのガードは追いつかなかった。ゴーラは軽く頭を振ってダメージを追い出そうとする。
が、ダンはそこをさらに追い打つ。ボクシングと違ってレフェリーは居ないからな。顔面、胸、腹。連打だ。
掲げる左腕はすでにガードにならない。
ゴーラが反撃に右腕を振るうが、ダンはあっさりこれを躱す。逆にカウンター気味のジャブが入った。
よろけてゴーラが後退する。
ダンはさらに前進する。
「それまで!」
ガッハ軍長の止めが入った。
ガスッ!とはいえ、勢いづいた突きは止まらず、ゴーラの顔を打ち抜いた。
「ダンの勝利!」
軍長の宣言と、ゴーラが崩れ落ちたのはどちらが先だったか。
「うぉおおおお!」
客席がどよめく。
まあ、予想という程のものでもなかったな。ダンの戦いをみていなければ、予選落ちしていたダンが大逆転したように見えるが、俺にしてみれば「勝つべきものが勝利した」だけだ。
単に組み合わせだけで勝ち残っただけのサンダ達に負ける訳がない。
勝者が決定した格闘技大会は、その後のヴルド軍に大幅な改革を迫った。何しろ決勝にコマを進めたものは全てが軍歴一年目の初年兵。唯一軍長推薦で予選を突破できたものも初年兵。
優勝者と、準優勝を戦った二名の合計三人はそれまでヴルド流格闘を一切行わず、独自の戦い方で勝ちを得た。ヴルド流格闘で戦ったものもいたが、最低限「受け身」という新技術を使わなければ、勝つことすらままならなかった。
今後のヴルド軍は、装備品の改善は当然のこと、戦闘技術のさらなる改善を行っていくこと、さらにいえば人事制度もこれまでの年功重視から戦果重視に変わっていかざるを得ない。
が、戦功重視といっても難しい。俺の「狼を倒した」という戦功にしたところで俺自身大した手柄とは思っていない。狼を倒そうと行動して成果を挙げた訳ではないからだ。ほんとうにたまたま、巡り合わせでなんとか倒せたに過ぎない。が、今後俺と同じような結果であるのに「自らの成果を誇る」奴がでないとも限らない。
その時の戦果判定をどうしたらいいのかが、今後ヴルドの課題となってくるだろう。
とはいえ、俺はひとまずの結果を得て村からの仲間、そして桐の仲間と龍の吐息で祝杯を挙げた。




