表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/200

第五十三話 主人公、異世界格闘大会で戦うのこと。その四 ハーフタイムショー

「待ったー!」

練兵場に響いたガッハ軍長の声で、俺たちは少しだけ力を抜いた。戦場での待ったはその場で待機しこそすれ、決して油断していいということではない。


お互いの出方を探り合う。


「待て待て待てーい!戦場いくさばにおいて気の緩みのないその意気やよし。なれど、足下がよくないままでは互いに戦いにくかろう。まずは敗退者を退場させよ」


なるほど。確かにこのままじゃさっきみたいな二次被害を受ける奴がでる。一度敗退が決まっているのに、更に怪我をするなんて報われなさ過ぎる。


「勝ち残った者は一度場所を空け、怪我人の退場を見届けよ」


しょうがない。ここは一度軍長の指示に従うか。俺は先に立ってまずは場所を空ける。戦場であるという気は解かずに、後ろから飛びかかられてもすぐに対応できるようにしたまま。


が、現実に後ろから飛びかかってくるような奴はおらず、俺はなんだか「無駄に気を張っただけ」だった。なんだか損した気分だ。後ろを振り返って負傷者の搬出をみてみると、なんのことはない、勝ち残った者は俺も含めて「違う方向」へと退場していた。これじゃ後ろから飛びかかられる心配は杞憂だ。


最初から固まっていたので気付かなかったが、こうして散ってしまうとヴルドの北風は冷えるな。じっとしているとかいた汗がどんどん冷えてくる。おおお!


こりゃいかん、体は冷やさないようにしなくては。みると観客の兵士達もむさ苦しい体を寄せ合って暖めあっている。

俺も観客と一緒になって暖まるべきだと思ったがやめた。目の前の兵士は顔がよく解らん。つまり、馴染みのない隊だということだ。これでは団子になった時に、なんの妨害を受けるかわかったものじゃない。騎兵隊が俺を目の仇にしているのは分かっているが、目の前の歩兵が奴らと同じでない保証はない。


ここはあれだ、村長に教わった魔法だな。体力をあまり浪費しないしな。


足を開いて立ち、腕を円く輪にして暖まるイメージを持つ。



そのまま15分ほどしたら練兵場が片付いた。

いよいよだ。


「ふたたび、第一回ヴルド軍格闘技大会を再開する」


あ、重言だ。


「ここからは一組ずつ対戦し、勝ち上がった者が次の対戦に進めるものとする。一組目、ウルク。対戦者、サンダ。前へ出よ!」


おろろ。サンダがでていて勝ち残っているとは。とはいえ、今勝ち残っているのは同期ばかりだ。奴がいてもおかしくはない。それにしても、ねえ。


ウルクって奴はよく知らないが、まあ顔と名前ぐらいは知っている。あまり強かった印象はないんだが。


二人が歩いて中央に出てくると互いに互いの周りを回り出す。掛け声も礼もあったものじゃない。そのあたりは日本で馴染んでいた格闘技とは違う。もっぱら見る専門だったが、大抵始めつったり、鉦鳴らしたりして始めの合図をしてたよな。


「イヤーッ!」


掛け声鋭くウルクが突進し、サンダをつかむ。そのままサンダを投げ飛ばすが、サンダは逆らわない。軽く受け身をとってダメージを相殺し、すっと立ち上がった。なんだ、妙にやるじゃないか。


今度はお返しにとサンダが投げる。サンダ程ではないにしてもウルクも上手く受け身をとって立ち上がった。



ふたたびウルクが飛びかかり、サンダが立つ。お返しにサンダが投げ、ウルクが立つ。


・・・なんだこれ・・・。


三回目の投げ合いで、観客席が相当白けてきた。


いや、俺はサンダを知っているから、別に八百長とかしてるとは思ってない。投げも受け身も知っているから、二人が手抜きをしてるとも思っていない。けどこれはどうなんだろうなーーーー。


四回目の投げ合いで、それでも二人を応援していた声が止んだ。そりゃそうだよなぁ・・・。悪いけれども、俺も同じだ。


何しろ相手が受け身をとることが分かっていながら、投げに工夫がない。先輩達相手にはこれで勝ち抜けるだろうが、同期より下には通用しないだろ。


五回目の投げ合いでも決着しない。ついでにいえば、投げに工夫もない。サンダ、これはだめだぞ。



「次の投げ合いで決着付かない場合は、双方敗退とする!!!」


あ、やっぱり。ガッハ軍長だってそんなに気が長い方じゃないしな。って言うか、寒い!試合内容も寒ければ、風も寒い!ここは軍長に一票だ。


サンダがショックを受けていたがそらしょうがないんじゃねえか。


6回目、気合い十分に投げを打つが、やっぱりウルクは受け身をとって立ち上がり、ウルクの投げもサンダは受けきった。



「引き分け!!敗退!!」



気持ちは分かるが、これはしょうがない。とはいえ、軍事的にいえば、受け身の重要性というものが全兵士に共有できたといえなくもないだろう。



「次!ベン、対戦者はトール!」


あ、ベンってのは新兵時代に対戦した奴だ。トールってのとは、やってないな。が、残念なことにこいつらも1試合目と同様だった。


やはり5回投げ合って勝負が付かず、6回目の投げで勝負が付かなかったところで引き分け敗退。



って言うか、この盛り上がっている俺の気分をどうしてくれるんだ!これだったらさっき対戦した名前も知らない同期の方が、まだましじゃないか!


こんなもの、体も気持ちも冷え切るわ!


「次!!!!ベガ!!!!対戦者、レオ!!!」


おおー、軍長がいきり立ってる〜〜。こええ・・・。って言うか俺か。


「うっしゃー!」


気合い入れていくぜ!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ