第五十二話 主人公、異世界格闘大会で戦うのこと。その三 勝ち抜け
ガードの堅い奴が更に追い打ちをかけてくる。このあたりも難敵だ。単にガードを固めてくるだけじゃない。こちらも隙を見せているわけではないが、攻撃はしっかり仕掛けてくる。
左右、そして左フックか!?
おおう!
ぴょこんと頭を下げて躱すと、拳が髪を掠っていったのが分かる。うええ。
起き上がる勢いでボディへアッパー。入った。入ることは入ったが、腹筋を締めていたので、それほどのダメージを与えられた気がしない。腹筋かてえ・・・。下手すりゃこっちの掌の方が痛いわ。
それにしても、このままじゃ埒あかんな。どうしたものか。
あれを試してみるか。
まずはジャブだ。距離を測りつつ詰める。前のように奴がスウェイする。前のようにそのまま右を打つのではなく、今度は後ろ足になった右足を進める。ただし、まっすぐ前ではなくて、丸く円を描くようにだ。奴の構えの内側から踵を踏みしめる様に前進させる。これで奴の構えの内側に入った。
掌を打つには距離が近いので、肘しかないことは訓練の結果分かっている。フックの様にスイングさせて、奴の右肩の後ろを打つ。
ヒット!
尻餅をつかせられた。何が起こったのか分かっていないだろう。目がまん丸に見開いている。
が、すぐに立ち上がる。この程度で潰れる気はない様だ。いいね、いいね。
アドレナリンっていったっけ、なんかそんなのがドバドバ出ている気がするよ。
奴が構えるが、ダメージが残っているのがはっきり分かる。ちゃーんす、左のガードがきっちり上がってない。ジャブを放ってくるが、奴の左に最初の頃にあった切れはもうない。
こっちが仕掛けると華麗なスウェイはもうなく、大きく後ろに下がる。さっきの奴を警戒している。だがそれではジリ貧だぞ。
俺の動きに大きく大きく反応して下がっていく。それは構わないが・・・。
そう、足下にはまだ「負けた奴」が倒れている。
大きく下がって、足下に気をとられた瞬間を見逃さない。というよりも狙っていた。注意が足下にいった瞬間、頭が前に出る。そこを打つ!
多分奴は目から火花が散った様に感じただろう。真正面から俺の体重が乗った掌打を喰らったのだから。痛みはさほどではないはずだが、意識が遠のく。
すかさず腹に左を入れて、前に出てきた顎を下から打ち抜く。
決まったろ?
あ、いやいや、ポーズとかが格好いいとか、そういうこっちゃ無いからな。強敵を倒しただろうって事だ。
すとんと力なく倒れていた歩兵の上に尻餅をつくが、今度はそのまま後ろに倒れた。
完全に力の抜けた奴の左手をとって、地面に後頭部を打ち付けてしまうのだけは避けてやろう。
変な後遺症とか残っちゃうからな。
結構鈍い音がして、奴が倒れきると、体を起こして周囲を見渡す。
立っている奴がずいぶん減っていることにようやく気がついた。
打撃で決着をつけるというのは、存外に時間のかかるものらしい。
勝ち残っている者は俺を含めて、二、三、四・・・。八人か。総当たりをするにはまだ人数が多いな。
勝ち残っている他の奴も同じように考えたらしい、何奴も手近な奴に標的をあわせている。
と、
「待ったー!」
そこでガッハ第一軍長の声が響いた。
なんだ、物言いでも付いたか。




