第五話 主人公、異世界生物の脅威を除けるのこと。
覚醒した。
駆け出したいほどの恐怖をぐっと押さえ込む。
さすがに同じ失敗は繰り返したくはない。とはいえ、真正面から相対するほどの度胸はないので、前に向かって進むしかない。
足下、前方、それから奴のいる後方に注意しながら、歩くのよりは速い速度で移動する。
下生えの密生具合は半端無い。足を突っ込む気にはならなかった。
足音を消すことはできなかったが、十分慎重に進めただろう。
奴に追いつかれることなく、前方の森が明るくなった。
さっき飛び込んでしまったのは滝壺だったのか。
かなり下の方に岩が飛び出している。あれに当たったのではたまったものではない。
すぐ左には滝。右手に滝壺のがけが続いているが、なだらかな地形へとつながっている。
どんな脅威があるのかわからないのは、崖を伝うのも滝に飛び込むのも大差はないか。
まだ八方がふさがったわけでもないのだから、自棄になるのは早い。
ここまで来て崖崩れで落下するのも阿呆だ。十分慎重に進むべきだ。
おっと。
下生えに足を。
っと頭上をなにかが!
今度はついてる。偶然だが奴の攻撃を避けた。
二撃目は革ジャンの背中を叩いた。
立木に手をついて体勢を立て直せば、奴との合わせたくない視線が合う。
前肢のとげも、革ジャンには刺さらなかったようで、三撃目がおそってくる。
左手で受けた。
?
思ったよりも・・・?
四撃目。
右手で受ける。
五発目。左手。
恐れていたよりも単調で、全然威力がない?
恐怖心が消えると、昇っていた血がすっと引いていったような気がした。全然脅威じゃない。
攻撃は左右交互に振り下ろすだけ。頭に喰らうのならともかく、腕でガードできない程じゃない。
とはいえ、噛み付かれるのだけは勘弁して欲しい。時折噛み付かんばかりに突っ込んでくる。
まあ、その噛み付き自体も単調だが。
なるほど。
この大きさを活かして、この森ではそれなりのニッチを築いたのか。とはいえ、人間様には敵わない。
噛み付こうと突っ込んできたところにカウンター。
うわ!
口に入っちまった!
変な手応えだ。なにかが折れた。
でも、折れるほどの痛みはない。あれ?
何発目かの攻撃はなにか気が抜けたようなものだった。
ぐらりと崩れ落ちる。
見ると奴の首は折れ、傾いでいた。蟷螂の首は細いものな・・・。通常のものよりは太めだが、それでもカウンターの衝撃を吸収するほどの強さはなかったようだ。
思っていたよりも軽い音を立て、奴が倒れ込む。
とりあえずの危機は去ったか。
崖を見ると日はまだ高い。日のあるうちにもう少し安全なところに移動しておきたい。