第四十六話 主人公、異世界彼女とデートするのこと。その二 喧嘩、そして勝利。
あちゃー。何でこうなるかなー。こいつは俺が怪我で身動きできない時を見計らって、散々嫌がらせをしてきたから、こう、面と向かっては何もしてこないと思っていた。油断した。正直、リサにそんなにご執心なら熨斗をつけてやるから持って行けと思う気持ちもあってめんどくさい・・・。まあ、今この場でいうとリサが激怒するからいわないけれども・・・。っていうか、こればかりはリサがどうするかしかないから、俺に言われてもどうにもならんわけで・・・。めんどくさい!
「何だ、何か言い返したらどうだ」
あー、返事をするのも面倒なんだけどー・・・・。
「何だよ、振られるような奴には返事もできないっていうのか!」
そうじゃない、そうじゃないけどさー。なんていえば収まるのよ?「いい身分だろ?」なんていったら嫌みだし。「そんなことないよ」っていうのも変だろ?実際にはそんなことないわけだが。「そんなにリサがいいなら持っていけ」とは口が裂けても言えない。本音に近いけど・・・。このトラブルを解決してまでリサがいいとも思ってない。
あ〜〜。何でこうなるかなー。
「何で?」
やっと出た言葉がこれか。阿呆か俺は!
「何でだと!」
あ、ヤバイ。とりあえず立とう。
「な、何だよ」
いや、別に何でもないけど、座ったままじゃ殴り合いにでもなったときにやられっぱなしになるだろうが。危機管理も兵士の資質だぞ。
立ってみたら、ちょっと落ち着いた。何しろ相手は軍の先輩とはいえ年下だ。身長でいえば頭一個はこちらの方がでかい。中世風異世界と現代日本の体格差は大きいな。
こうして相手を見下ろしてみると、まあ、暴力沙汰になっても何とかなる気がしてくる。不思議なものだ。逆に相手の目つきが怖いんですけど。
「何か俺に問題があるのなら、教えてもらえますか」
「レオ・・・」
「何だよ、靴を発明したぐらいでいい気になってんじゃねえって言ってんだよ!」
心配してくれるリサを余所に、相手は訳の分からんことを言い出した。
「いい気になっているというのは、どういうことをいうのでしょうか。初年兵が女を連れて広場に来るのが悪いというなら、ここには他の奴もいますけど」
そうだ。実際、俺以外にも2、3組はこの場にいるのは分かっている。まあ、二年兵、三年兵の方が多いのは確かだが。
「俺たち全員がいい気になってるんですかね、先輩」
「う、」
う、じゃねえ。
「なんだなんだ、喧嘩か?」
野次馬まで来たのか。ってか、俺が立つと目立つからか。失敗した。
「何だよ、ギャガの奴、初年兵に喧嘩売ってるのか」
ギャガっていうのか。
「何だよ、違うよ。こいつが生意気だから、ちょっと躾けようとしただけだよ」
「躾けるってお前、こいつレオだろ。大丈夫かよ」
そうだそうだ。
「大丈夫だよ、何言ってんだよ。こんなの一発だ」
ギャガ先輩、知り合いが来たからって無理しなくていいんだぞ。
「バカお前、こいつ、秋の戦闘で、狼倒したっていうぜ」
ゲ、知ってる奴がいるとか。
話でかくなり過ぎじゃね。
「狼が何だよ、そんなの俺だってやれるわ!」
来る!と思ったら来たわ。
右拳でいきなり殴りかかってきたのをこっちも右に動いてよけた。って書いたら冷静に対処できたみたいだが、実際にはもう、反射的な動きなので意識はしていなかった。
結構な速さの右ストレートだけれど、俺が躱したので体制が崩れた。俺が残した左足に蹴躓く。
「おっ?」
がら空きになった奴の脇をちょっと押すと、簡単にバランスを崩して倒れていく。あ。
やべ。奴をリサに投げ飛ばしちゃった。リサの目と口を思い切り開いた、びっくり顔が。
どーん。どーんじゃねえけどさ(笑)。あーあ、リサが奴の下敷きになって目を回してる。
「先輩、女の子に殴りかかるなんて酷いッスね」
と敢えていってみる。っていうか、身長差があるってことは、殴り合いしてもこっちが有利なんだよね。一方的に。
「この野郎!」
ガバッと跳ね起きた奴が突っ込んでくるが、もう余裕だよ。顔面に正面から平手を喰らわす。腕に衝撃があるが、まあ、狼に比べればたいしたことない。俺の掌打と自分の突進がまともにカウンターになる。
撃沈。
やったことがあれば分かると思うが、頭を急にゆらすとそれだけで意識が無くなることがある。今回は奴にそれを喰らわせた。
変に残るような怪我がなければいいけれども。
それから普段の訓練で、他の隊は分からないが俺たち桐は、結構徒手格闘をする。俺が配属されて以来、比較的接近戦が多かったので、自然と増えた。当然鎧兜を着けての格闘だから、殴り合いの意味のなさは痛感している。今後は分からないけれども、ヴルド式鎧の上から殴っても殴った拳の方が痛い。が、掌で打つと、それなりに衝撃を与えられる。特に体重の乗った掌打、頭に入ったカウンターはきく。そのために桐では殴り合いより掌での「打ち合い」が格闘の初手になった。
それからなんだ、躱すこと?武器術では武器の重さがあるから、あまり空振りは気にしないが、徒手では空振りが致命的になる。体勢は崩れ、隙ができ、場合によっては転倒してしまう。まあ、逆にいえば、攻撃を躱せば、今回のように圧倒的優位に立てることも体験済みだ。これも受け身訓練の発展だ。
そういえばヴァルガ元隊長は
「市内の取り締まりもしなくちゃならんから、人相手の訓練も必要だ」
って言ってた。ヘンス隊長も俺も、桐は全員同感だ。
「大丈夫だったか」
ベンチのむこうに倒れて目を回しているリサを起こすと俺は撤収する。
「先輩方、彼をよろしくお願いしますよ。俺はこいつを送らないといけないんで」
ではでは。とっとと立ち去るべし。
って言うか、リサの家ってどこよ??
俺、龍の吐息しか知らないんだけど。
しょうがない。面倒だけれどまずは龍の吐息に届けるか。
なんだか、防衛戦をしているように長い非番なんですけど!




