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第四十五話 主人公、異世界彼女とデートするのこと。 その一 甘い・・・のか?

次の非番はリサと出かけることになった。おかしい、そうそう店の休みとは合わないことが分かっていたから出かけるっていったはずなのに・・・。なんだろう、このリサの笑顔をみるたびに、ああ、俺はもうこいつに捕まって逃げられないんだなぁと感じる。リサの目がよく言えば「キラキラ」している。悪く言えば「ギラギラ」しているように見える。笑顔の筈なのに笑っていないように見えるぞ。


とはいえこのヴルドは今、冬真っ最中。絶賛寒風吹きすさんでいる。東京のように電柱電線はないから、ヴルドで風音がしたら相当風が強い。また、風は北西の山脈から吹き下ろしてきて、乾燥しきっている。当然、雪が積もってウィンタースポーツなんてことはない。


ついでにいえば近くに湖などもなく、ワカサギ釣りなんてこともない。あったとしても俺が釣り方を知らないが。


つまり、何が言いたいかというと、リサが頑張って休みをあわせても(そういったわけではないけれども)、出かける先がない。木枯らし吹き荒れる山に登るか?命懸けになるが。多くの野獣が冬眠をしている。


それはどうやら蛮族といわれるゴブリンやオーク、コボルドなどもそうで、秋の間に狩り集めた獲物や木の実類、俺たちから略奪した食料などで、冬を越す。奴らも農業をおぼえればいいのに。


まあいい、こうしてヴルド周辺は冬の間、ほぼみるべきものがない。仕方がないのでリサに引きずり回されて旧市街の商店を見て回っている有様だ。旧市街は新市街に比べて以前から住んでいる住人が多く、防衛的にも安心できるために比較的裕福だ。城壁に守られているという安心感は大きい。


店先に並べられた商品も、比較的高級品で、リサはまあ、いわゆるウィンドウショッピングを楽しんでいるわけだ。窓がないので、ウィンドウショッピングという言葉がないが。

店先にあるものは、壺のような焼き物、大皿、鍋、釜。

櫛のような装飾品類は店先ではなく、店に入って店員から出してきてもらう必要がある。もちろんこれでは買わずに店を出ることはできないため、必然的に俺たちは何が楽しいのか分からない、鍋釜壺を次から次へとみていく。


服屋のような気の利いた店はなく、あるのは仕立屋ばかり。古着店のような庶民的な店は、新市街の露天になる。これなら新市街をうろついた方がまだ、なんというか、実りがある気がする。


まあ、リサが喜んでいるのなら、それはそれで良いかという気もする。今日は俺が喜ぶ日じゃなくって、リサが喜ぶ日だろうから。本人は決して認めないけれど。


昼食もご同様。こんなものは新市街の屋台で適当なものをパクつけば安くて腹もいっぱいになっていいと思うのだが、そんなことをいうとリサが激怒して面倒なことになるのが分かっているのでいわない。たまの非番の日ぐらいは心穏やかに過ごしたい。


ここは一つ、旧市街の店に入る。まあ、お高いといえば高いが、貴族のように毎日入り浸るわけではないので、兵隊の給料でも半年に一度ぐらいならば何とかなる。こう見えても俺はヴルド正規軍の兵士なんだ。まだ初年兵だけどな。


小じゃれた店ではあるが、まあ、食べるものはそんなに変わらない。昼は煮込んだ魚か肉。スープのような体が温まる汁物は夕食だ。夜の飲み屋は別として。


俺はかたまり肉を頼んだ。一応ナイフで切り分けて食べるのが「スタイル」だけれど、実際にはほとんどスプーンだけでほぐれていくほど煮込んである。さすがにうまい。リサは魚を頼んだようだが、これはいけない。あまり上手じゃないのか、魚がバラバラだ。こういう店で綺麗に食べないと足元を見られるぞ。


どうしても喋りながら食べるものだから、綺麗に食べきれないようだ。俺たちの他にも数組、ヴルド兵のカップルがいて、一様に常連らしい客から白い目でみられている。居心地悪い・・・・。勘弁してくれ。

他のヴルド兵はそういう白い目に気付いていないようで、全く動じていないのはリサと同じだが、俺は気になる。日本人だからか。


さすがにリサが喰いこぼししたりはしていないが、喋りながら食べて魚が汚いのはいただけない。リサに適当な相づちを打ちながら、片付ける。


まあ、さすがに魚もうまいな。


最後にパンで拭って皿を綺麗にするのもヴルド流。これは庶民的な店だろうが高級店だろうが変わらない。あったことはないが、多分ヴルド公だってやってるだろう。


「このあとはどうする?」

と、店を出てからリサに訊いてみる。正直壺だの鍋だのは飽きたよ。


「中央広場に行ってみたいな」


そうかいそうかい。ヴルド兵だとあまり中央広場にいい思い出はないんだけどな。何しろ中央広場の噴水で文字通りの洗礼を受けている。もちろん兵士に限らず一般市民も体を清めはするが、衆人環視の元、噴水で洗いっこをするのはさすがに兵士だけだ。これだけ水に恵まれているヴルドで噴水を使わなくてもいいだろう。


まあ、あれはあれでヴルドが新兵を採用したという、秋の風物詩のようなものといえばそれまでだが。まあ、日本にも秋には裸祭りがあったしな。


ヴルド中央広場の噴水は、そういう兵士個人の思いとは別にみるべきものはある。何しろヴルドには日本のようなポンプや水道はない。それでありながら、見事に広場の中央からは水が噴きだしている。一年に何度かは止まるが、それは工兵隊が点検やら整備とかやらをしているせいらしい。

奴らの働きにはいつも頭が下がる。歩兵隊は確かにヴルド防衛の最前線だが、ある意味防衛隊という性質上、「シーズン」がある。そしてこの冬はオフシーズンだ。お偉いさんは春からの計画を練り、新兵はしごかれながら自分を鍛えていく。


俺たち兵士は?非番の時はのんびりするが、基本は周辺警戒と称して、野山を行軍して回る。


そして工兵隊は冬の間に防衛設備を整備して、必要があれば改善する。夏は夏でやれ増水で川があふれただの、嵐が来て小屋が飛んでしまっただのをしているから、オフシーズンがない。これは大変だと思う、正直。


そんな縁の下の力持ち的ヴルド工兵が、一番注目を浴びているのがこの噴水だ。この噴水をみるたびに、ヴルドの市民は工兵隊の技術に感心し、称賛を贈る。正直、設計者なんてどうでもいい。確かに技術的には素晴らしいのかも知れないが、毎日水を噴き上げさせているのは工兵隊の整備があったればこそだ。


うむ、素晴らしい。なんて話をリサにしたら、しらけてた。


なんだそりゃ。


「よう。いいご身分だな、軍装備品の発明者さんよ」


午後になって傾き始めた日によってできた影が、俺たちの前にさす。リサの視線を追ってみたら、リサが二股かけてた兵隊がいた。


あちゃー・・・。今日は俺、軍務で疲れた体を癒す、非番だったよね、確か?なんでこうなるよ?


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