第四十四話 主人公、ヴルド軍の改革を始めるのこと。その四 鎧が改良される
鎧の改良について、正直俺にはもうアイディアがなかった。だからヘンス隊長、そして百人隊長にはもうダメですと正直に言うことにした。が、いってみたら何のことはない、あっさり採用されてしまった。
百人隊長の部屋から疑問を抱えたまま隊室に戻ってきた俺に、ヘンス隊長が声をかけてくる。
「なんだ、レオ。化かされたような顔をして」
「いえ、隊長。俺は鎧の改良に失敗したって報告をしにいったはずだったんですよ?」
「まあ、そうだな。かけろ」
「はい」
「お前の鎧はとてもいい。一度に沢山作れるし、壊れた場合の修理がしやすい。そして、何より材料に無駄が出にくい」
「でも一番大事な体を守るということが」
「まあ聞け。
「お前は知らなかったんだろうが、木の板というのは意外と強い。そして、少し工夫するだけでもっと強くなる」
ホント・・・?疑わしいなあ。
「たとえば、ニスというものを知っているか」
「ニス?」
「木や布に塗りつけて乾かし、表面を硬くすると同時に強くもする」
プラモデルの塗料みたいなものか?
「赤とか黄色とかにするものですか?」
「まあ、そうしてもいいが安く仕上げるなら透き通ったままでいい。それでもつやが出て見た目はずっとよくなるし、何より強く、硬くなる」
「強く・・・」
「そうだ。今回お前の鎧は何も塗らない板だけで作っている。これで矢が防げなかったとしてもまあ、当たり前だ」
「そうなんですか」
「そして更に、鉄を使うことだってできるだろう」
「!」
鉄か!考えなかったわけではないけれど、俺は鉄の加工なんてできないから、選択からは外していた。何より、兵士一人一人に鉄の鎧なんてと。
「その顔は考えてはいたってところだな。でも、敷居が高くて止めていたのか。だがな、軍団長や百人隊長の鎧としてならどうだ?あるいは貴族」
「!!!」
「十分だとは思わないか。今回採用された最大の理由がそこだ。これまでの鎧を鉄で作るなんてことは、全く不可能だ。鉄の固まりをいくら削っていっても、できあがるまでに隊長が年取って死んでしまう。
「だが、この板鎧ならとりあえず沢山作っておけばいいわけだから、お偉いさんが死んでしまう心配はない。
「そして何より、磨き上げた鉄のかがやきだ。これまでの鎧にも部分部分には鉄が使われ、それなりに輝きを放ってきた。が、この板鎧は比べものにならない。百人隊長はたぶん、鉄で作ったあの鎧をキラキラさせる自分を想像して、即決してしまったんだろうな」
そうヘンス隊長は苦笑いをするが、心なしか隊長の眼もキラキラしてる。ひげ面のオッサンが眼をキラキラさせているのは、正直キモイ。
「まあみていろ」
そうですか。
「それならあの、ついでといってはなんですけれど、もう一つ」
「鎧か?」
「ええ、今回俺、肩に矢が当たったわけですけれど、この鎧のように作った板を、肩紐のところからぶら下げたら、二の腕を防御できませんかね?
「あと、兜の縁から同じように板をぐるっと下げたら、首回りとかも守れると思うんですけど。同じサイズの板を沢山作ればいいだけって言うなら、できそうな気がするんですけど」
今度は隊長がびっくりする番だった。
「分かった。上にいってみる。たぶん、採用されるだろう」
おおお。隊長クラスの防御がよくなったら、部隊全体の生存率が上がりそうだな。俺たちも楽になるし。
ま、鎧職人さんたちは大変だろうけど。
鎧の改良が一段落ついたので、ちょっと龍の吐息にいってみる。女将さんは相変わらずしゃきしゃき働いている。いつものように、奥の席につこう。今日のお皿は魚の煮たのか。こう冷えてくると、煮魚もうまいね。なんだろう、脂がのってるのかな。楽しみだ。
まずは麦酒。葉物野菜の漬け物で。酒が半分ほどになって、漬け物があらかた片付いた頃に、パンと一緒に煮魚が来る。柔らかいので、スプーンでどんどん身が離れていく。これならナイフも必要ないぐらいだ。煮汁はオレンジのような柑橘系の果物を使って、甘酸っぱい。東京にはこういう料理はないよなぁ・・・。
お、魚が腹に卵を抱いていた。これは美味しい。何か得した気分だ。ワタの苦みも酒によく合う。と、料理が盛り上がってきたところでリサが酒のおかわりを持ってきた。
うぬ・・・。リサが嫌いというわけではないけれども、なんだか微妙だ。
「元気だった?」
「まあな」
全然元気じゃねえよ、しばらく寝込んでただろうがとは思うが、口には出さずに飲み込む。せっかくの美味しい魚が台無しだ。
「今度、お店が休みの時にどこかに行かない?」
「考えておく」
考えるだけだけどな。っていうか、軍装の改良がまだあるんじゃないかと思うぞ。
「どこがいい?」
「任せる」
っていうか、ヴルド近辺のデートスポットとか知らんし。そもそもこのファンタジー世界っていうか、こんな中世みたいな世界にデートスポットとかあんのか?
お、魚が綺麗になったぞ。もう骨しかない。煮汁はパンで綺麗にしたしな。このごっつい骨はさすがに食べれない。肉はないのかな。
「今日の肉は何?」
「え?」
えじゃねえよ、仕事しろ仕事。
「今日の肉料理は何かな?」
「あ、肉ね、肉。ええとね、山鳥の串焼き」
「二つ頂戴」
「分かった、
「山鳥の串焼き二つー!!」
「あいよー」
お、大将、今日も元気だね。
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串焼きの鳥を堪能したあと、早いうちに退散した。まあ、リサとの会話はほどほどに。何となくあいつのああいう態度をみちゃうと、最初に会ったときのようにはときめかない。笑顔の底になんだか得体の知れないものが透けて見える気がしてならないから。
とはいえ、俺がリサに何か企まれるようなことはないはずだから、やっぱりいわゆる「肉食系女子」ってことなんだろうと思うけど、正直微妙だよなぁ・・・。
夢見が良いと良いな。




