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第四十三話 主人公、ヴルド軍の改革を始めるのこと。その三 鎧を作る

鎧を作るにあたって、まずは俺自身の「鎧のイメージ」を払拭することから始めた。まあ、普通に鎧といえば、鉄板で体をぐるっと囲って、あとは何とかする。みたいなイメージだろう。あ、これは俺だけのイメージかも知れんから、普通っていっちゃまずいか。まいいや。


まあとにかくだ、鉄板で体を覆うことは早々に諦めた。何しろここではようやく武器を鉄で作る。鎧兜の部分に鉄板を張り付けて防御力を高める位しかやっていない。体を覆うようなサイズの鉄板が作れるかどうかもわからんのだから、俺一人の試作で作れるとはとうてい思えない。


ここは俺一人で何とかなるレベルで考えよう。ふむ。お偉いさんには「1フィート四方の木片を紐で連ねる」と提案してあるが、これは製法であって、形式というと「違う」かな。


三日ほど悩んだが、悩んでいてもできないので、ここは「とにかく作ってみる」ことにした。くだんの板を横に並べ、四隅に開けた穴を革紐で結ぶ。ふむ。同じようにして作ったものを下に連ねる。これを体前面の防御にできないか?


微妙に幅がありすぎるな。というか、板が大きすぎる。


フィートサイズの1/3ぐらいでいいか。とりあえず、縦に三つに割ってみる。なるほど、4枚から5枚ぐらいで幅はちょうどいい。高さもちょっと余分だな。半分にしてみるか。


うん、これなら紐を通す穴は、上下に一カ所ずつでいい。これを5枚横に結んで一段とできる。同じようにして二段目を作ってみる。1段目の下にぶら下げる。


・・・。アレ?


穴に紐が通らない。二段目を横に一度連ねているので、穴が埋まっていて上下に連ねる紐が通せなくなっていた。


ということは、二段目は横に連ねないで、一段目の下に一枚ずつぶら下げていった方がいいということか。


・・・いや、これはただの「暖簾」だろ。横へのつなぎがない木片は、上からただぶらぶらするだけで、どうにもならない。


一応鎧の形にしてはみたが、体を曲げると縦の連なりの間に隙間ができてしまい、実際にはどうかわからないものの、一兵士の率直な感想として「これで戦場に行くのはいやだ」。


やはり「作り手の都合だけでできた道具」なんてものは、ダメだな。


ここまでの製作で半月ほど、地球時間で一月半ほど浪費しているが試作一号鎧の廃棄を決めた。


余談だが、俺は既に現場に復帰はしているが、今年二度目の秋攻勢防衛には呼ばれなかった。そう、今年は二度も攻勢がかけられ、ここ数年で最大の被害が出た。市民には死者が出なかったものの、十人隊長、十人副隊長を中心に二桁に達する死者が出ている。


こう、鎧の改善なんかをしていていうのもアレだが、ヴルド軍は根本的な戦術を見直す時期に来てるんじゃないかと思う。数人単位の戦闘のような、隊長が先陣切って突っ込んでいく時代じゃなくなってるのだと思う。

まあ、そんなことを俺が言っても変わりはしないし、変に強硬に訴えても逆効果だしな。こういうものは「時期」がある。


まあいい。この紐で繋げる方法は紐をちょこちょこ結んでいてはダメっぽい。一段目の一番上を一気に横に結ぶ!

二段目は一段目の板の間に挟みながら一段目と二段目を一気に横に結ぶ!三段目。


・・・あら・・・。

これじゃ脇腹の防御ができないじゃないか。ウーン・・・。


悩んでいてもできないので、とりあえずそのまま下に延長することにする。


ふむ。何となくそれっぽくはなる、か。腰の部分は上から帯を締めて止めよう。そうでないと、これじゃ単なる「装甲前掛け」だ。


剣を下げる帯があったな。あれを上から締める。と、もう少し下に伸ばした方がいいな。せっかく帯で締めるのだから、下まで伸ばせば急所の防御もできるだろう。



逆に、上側の固定が問題になるな。漠然と「前後を紐で結ぶ」なんて思っていたが、この新式鎧は「後ろがない」。


ここは前面と同じ方法で背面も作り、前と後ろを肩の部分で結ぼう。


更に半月ほどかけて、試作二号鎧は完成した。


実際にみてみるととても不思議なものだ。ぱっと見は「何かのコスプレ?」。体の前後に白木の細板が縦に並び、紐で結んでいる。動き回れば木片同士がぶつかり合って、ガッチャガッチャと騒々しい。


これが実際に使い物になるかはまずは試さないとな。


この鎧の最大の目的は、ゴブリン、つまり蛮族が用いる短弓に対する防御力の向上だ。これまでの鎧は初撃への防御には十分な効果がある。問題は二射以降、それと接近戦へ移行した際の防御力低下が著しいことだ。


つまり、弓で射て、大きな破損がないことが望ましい。そのための装甲分割と言うことだ。全体がワンピースでできている鎧は、一射で「全部がダメ」になる。矢が当たった部分がダメになるのはこれは仕方がないことだが、全部ダメになるのはいただけない。そこで、装甲を小さく分けて、一片が破損しても全体としては防御を維持しようというのがまあ、ヤマザキ式鎧の目的だ。


この鎧を訓練場に出して、遠くから射てみる。


っていうか、自分が射たら当たらんな・・・。

あ、当たった。周囲の安全を確認して、近寄ってみる。


矢を回収して、鎧を的からはずす。


あ。これはいかんパターンだ。

矢が綺麗に貫通していて、確かに全体の破損は避けられているものの、この鎧を着ける意味はほとんど無い。



秋いっぱいを使って鎧の試作は失敗した。さらなる改良が必要だ。

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