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第四十二話 主人公、ヴルド軍の改革を始めるのこと。その二 鎧

矢傷というのは治療をしたからといってすぐに治るものではない。分かっていたつもりではあったけれども、やっぱり分かってなかった。特に、医療について遅れているヴルドではなおさらだ。あ、いや語弊があるな。この世界でヴルドだけが遅れている訳じゃない。おそらくアールだろうと、東大陸だろうと南大陸だろうと大差ないだろう。日本、東京と比べて、この世界全体の医療が遅れているだけのことだ。夏に敗戦したときも入院というか、治療を受けることがあったけれど、あのときは怪我自体が軽かった。ボコボコ投石されただけだったからな。まあ、それでも結構打撲傷は受けたし、まあベッドに寝込みはしたけれども、その日のうちに起き上がることができた。

だが、今回は違う。傷口がふさがって、出血が止まるまで数日。まだまだ痛みは引かないので、訓練どころではないのが今だ。さすがに左腿の打撲傷はもう何ともない。骨までいかなくてよかったと思う。


ヘンス隊長の話では、桐の損害は俺が負傷したほかに、桐一から一人死者が出た。それまであまり話さなかった、三年兵のベルドさん。俺が伝令に走った桐二からはトールさんが軽傷。ガウさんが腕を折る重傷。当面は半分の5人隊+1で運用されるとか。


梅からは二人軽傷、一人重傷、死者は無し。俺たちと共に襲撃された橘からは2名の死者で1人重傷、2名軽傷。事実上の壊滅だ。東側の防衛をになった椎、樺韮から数名ずつの負傷者が出ている。またもやヴルド正規軍は甚大な損害が出た。総数1,000名未満の兵力では数人の損害がバカにならない。10人減れば「一隊が消える」訳だから特にそうだ。現代戦のように「あっちに数万、こっちに数万」というわけにはいかない。ヴルド市だけで人口は6万もいかないのだから、周辺地域をあわせたヴルド公国全体でも人口は10万もいくまい。数千の兵力が動員できる最大数といっていい。


一年で20〜40人程度の徴兵が補充できる最大数だろう。逆にそれ以上志願者がいたとしても、全員を採用していては領地経営が破綻する。食料が生産できなければ、いくら強兵を養ったとしても立ちゆく訳がない。悩ましい問題に軍上層部も唸っていることだろう。人口を増やすためには市民の安全を確保せねばならず、外的に脅かされている状態が続いてはそれも立ちゆかない。


あちらを立てればこちらが立たず、だ。もっと俺のような外部からの流入者が多ければ、そちらで兵力を補充して、市民が経済活動に専念できるのだろうけれども。


ただし今回は明るい材料もあった。昨年の倍以上と思われる襲撃だった今年の秋攻勢にもかかわらず、新市街も含めて市民には被害が出なかったことだ。女性や子供の被害は痛ましいし、何より彼らが今後のヴルド人口を左右する。

また、今年は狼を討ち取れたことも大きい。昨年は目撃例しかなかった狼ではあるが、今年は一頭討ち取ることができた。


ああ、もちろん野生の狼は基本的には脅威ではないが、ゴブリンの使役する「軍用狼」は大きな脅威になる。昨年はそれで二名の戦死者が出たし、今年も一名倒されている。ある意味ではこの軍用狼はゴブリン軍の秘密兵器だったといえるだろう。育成にもずいぶん期間と手間暇がかかっているはずだ。それを討ち取ることができたというのは、とても大きな戦果であった、と上層部では言っていたという話をヘンス隊長から聞かされた(笑)。


あと、上層部では俺の名前がささやかれ出したらしい。夏前の軍靴の改善、今回の狼、それと戦後のアルコール消毒。これまでであったら、もはや軍が崩壊するかと言うほどの話が何とか踏みとどまっていられる。その影に「レオ」の影響があるのだとかないだとか。また「受け身」を身につけたものは特に今回のような市街戦で、怪我が軽く済んでいる。これもどうやら訓練兵時代にレオが始めたものらしいという噂が広まっていると。

内心受け身に関して言えば、「そりゃジーク教官の手柄でしょう」と言いたいところだが、ヘンス隊長は「そんなの俺に言っても知らん」と言って流してしまった。

くそ。


ああ、それから寝込んでいる俺に、龍の吐息のあの子が見舞いに来た。手柄の噂が広まると来るってどういうことよ。名前はリサだそうだ。可愛いことは可愛いのだが、正直彼女のアプローチに応えるのは憚られる。ここまでストレートだといっそすがすがしいとは思うけれども、そうは言ってもそこまで財布目当てかと思うと微妙だ。可愛い振る舞いだって、どこまで本心なのか。


これが元気なときなら来そうなときは外出するとかやりようがあるのに、なまじ怪我をして行動範囲が狭いせいで逃げ出すことができない。更にリサが二股かけてた先輩の兵隊から嫌がらせを受ける始末だ。ぐぬぬぬ・・・。これも逃げ出せないのでストレスが溜まる。


二股かけられていた気持ちは分からなくもない。俺もそうだしな。だからといって俺に言われてもどうにもならん。言い方は悪いが、そんなにリサがよければ熨斗つけてくれてやる。っていってもリサがそうしないんだから、俺にはどうにもならん。こんなことで消耗したくはない。くそ。とはいえ、こんな状態では飲み屋に行くこともできないし、行ったら行ったでまた火種が大きくなっていやだ。


トラブルメイカーめ!



数日して傷口が何とかふさがり、出歩いてもいいようになったときにまたもや呼び出しがかかった。今度も戦闘報告だ。百人隊長だって、こっちも二度目だ。そうそうびびらないぞ。


まあ、ほぼ「前回に同じ」だったがな。

それから鎧に対する改善提案を行った。


ヴルド軍で採用している鎧は、兜のような「木の刳り抜き」だ。踏みつぶされたり、体当たりされたりするのには強いが、色々欠点も多い。


まず「製造コスト」がバカにならない。一領作るために同じサイズ以上の木材が必要な上に、刳り抜いた木材が無駄になる。おまけに失敗すれば全部アウト。


それから運用が難しい。着用には頭から被る必要がある上に、来た上で当て布などしないと肩を痛める。サイズが合わせづらいのも問題だ。


更に今回俺が体験したのは「矢が刺さったらもう使い物にならない」ことだった。刳り抜き、つまり一体成形なので、矢が当たる、槍があたるとそこから木目に沿って割れてしまう。もうパッカンと。その場で割れ目を固定する技術(木工用ボンドのような)はないから、鎧が肩からぶらぶらして非常に痛い。防御力の低下も酷い。


そこで木板を紐で連ねた鎧を提案してみた。一枚が1フィート四方ほどの板に穴を開け、紐で結んでいく。板と板の間は二重になるようにもう一枚重ね、全体を二重構造にする。鎧の右側は紐で結んで縛れるように開けて、縛り方でサイズの調整ができればいいだろう。なんというか、時代物のドラマでみた事あるような鎧だ。


ああ、お偉いさんの手前、サイズはフィートと表現したけれども、まあ、感覚的には20センチ四方ぐらいだ。「センチ」という単位が全く通用しなかったので、「これぐらい」っていったらそれが「1フィート」だそうだ。


一応話は聞いてくれはした。くれたのだけれども、事前に思っていたように「面白い!即採用だ」とはならなかった。俺のネームバリューなんかこんなものさ。


それでも却下とはならなかったので、これは試作許可をもらったのだと勝手に思っておこう。


動けるようになった俺にはそろそろまた訓練が待っている。訓練をしながら鎧の試作を始めることにしよう。

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