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第四十一話 主人公、秋攻勢で戦うのこと。その三 生存 

「何か」のうなりは地獄からの呼び声か。

ここは腹をくくるしかない。周りに味方はいないだろう、たぶん。大声で呼ばわっても間に合わないだろうし・・・。


左肩が熱い。小器用な防御は期待できないか。左腰の剣をそっと鞘から抜く。急な動きを見せたら、その瞬間に飛びかかってきそうで怖い。薄ら寒い秋の夜なのに、汗が額を降りていく。目に入った。くそ。見えない。


と思ったが、元々あたりは真っ暗だったっけ。剣を抜いた右手の甲で、瞼を拭う。あ。


剣先が地面に触れる。と、


「ガウッ!」


火事場の馬鹿力、ほとんど動かない左腕で、盾を掲げた。奴がぶつかる。もの凄い音がする。あっという間に盾なんかバラバラに砕けそうな勢いだ。


「うぉおお」


引っ掻く音、囓る音。木材がむしられる音!うわわわ・・・。ヤバイヤバイ。


「ガフッ!


「グルルゥ・・・」


・・・。

うわ、右手がヌルヌルしてきた。念のために、更に突き込んでみる。硬い物にあたる感触がする。

捻ってみると切っ先は何かに軽く挟まっているようで、回らない。それにしても重い。誰かどかしてくれないかな。

不自然な角度で掲げた左腕は、痛いのを通り越してしびれてきた。奴の体重と俺の体重がかかる背中も痛い。門柱に寄りかかっているので、バランスも悪いし。なんだよこれ。


とりあえず、剣は抜くか。


剣をゆっくり抜いて、地面に置くと右腕ももう上がらない。変な角度で奴ののど元に剣を突き入れたせいで、筋を痛めたらしい。こりゃまた。


それにしてもかっこわるいなぁ、俺・・・。


むせかえるような奴の血臭、体臭、そして匂い始めた死臭の中、つい意識を失ってしまった。





・・・・・・・




胸にきた衝撃で目が覚めた。うお!次の敵か!


と思ったが、


「生きてるのか!」


という。そういえばあたりが明るい。


「済まん、やられたのかと思って、狼に止めを刺した」


おいおいおい!俺まで止めを刺してどうする。

「勘弁してくれ・・・」


「悪い悪い。生きていたのか。レオか?」


「そうだ」

ということは桐か梅の人か。

「そうです」言い直しておこう。


「どうなりました」


「気にするな。大丈夫だ」

そうですか。


大丈夫だと聞いて気が緩んだ。俺はふたたび気を失ってしまった。





・・・・・・





ふたたび目をさましたときは既に、新兵用の寝台に寝かされていた。ヴルドに現代日本のような充実した医療機関なんていう物は存在しない。兵隊のベッドといえば、兵舎のそれしかない。それぞれ別の部屋では医者が回りきれないから、隊室ではなく新兵用のベッド。


「うぉお!!!!」


周りを見渡そうとしたら、肩に激痛が走った。痛い肩を押さえようとしたら、右肘にも激痛が走った!!うっぎゃーーーー!!!


「起きたか」


何この冷静なリアクション!むかつく!体痛くない奴なんて呪われろ!


「先生!レオが起きました」


医者を呼んでくれたんですか!ああありがたい!神様仏様。どなた様だか存じませんが、感謝感激雨あられ。


「おお、どれどれ」



「ふむ。大分落ち着いたようだな」

「ですね。昨日はまるで死んだようでしたもんね」


不吉なことをいうな。ってヘンス隊長ですか。


「金瘡に効く膏薬が塗ってある。すぐによくなるだろう」


「さ、酒を・・・」


「酒?酒を飲むなんてまだ早いぞ」


「いえ、肩の傷を酒で洗って・・・」


「酒で傷を?」


「なんですかね、先生?

「そういえば、夏の調査でやられたときも、こいつが傷口を酒で洗っていました。不思議と洗った俺たちは傷の治りがよかったよ。他の調査隊では結構傷が悪化してたのに」


「そうか。酒には傷の悪化を抑える何かがあるのかもしれないな」


かも知れないじゃねえよ、消毒して化膿を止めるんだよ。膏薬塗るのはそのあとだよ。

全くもう、ヴルドは原始時代かっての。


こんなの気絶してる間にやってくれれば、悶絶するような痛みを辛抱しなくてよかったのに。


矢傷ということを踏まえて、傷口の中まで丹念にアルコール消毒をしてもらったが、はっきりいって、矢が刺さったときよりも手当の方が百倍痛かった。


何度もこんなことお願いしなければよかったと後悔したが、それでもやって置いた方がよかったと思う。


その年のヴルド兵舎には兵隊たちのもの凄い叫びが響き渡り、応召された新兵たちを大いに萎縮させることとなった。


ゴブリン共がこれを狙っていたのだとしたら、作戦は成功だった。

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