第三十九話 主人公、秋攻勢で戦うのこと。その一 巡回、そして襲撃
夜襲があったのは、巡回を始めて三日目の夜だった。
その日の二度目の巡回で、これまで通り土塁の上を巡回して、北門守備兵と邂逅する。
これまたこれまで通りに巡回報告をする、まさにその時だった。
「ヴルド新市街北西。巡回異常なし」
ヘンス隊長の言葉は「ヴルド...」で途切れた。
肩に痛みが走る。
暗闇から弓弦の音がする。
「やっ!」
俺自身夜襲だと言いたかったのか、矢が当たったと言いたかったのかよくわからない。
「夜襲!夜襲!」
さすがはヘンス隊長だ。声がよく通る。
が、この距離で駐屯地まで届くだろうか。分からん。
応戦はしたいが、俺たちに弓はないし、何より奴らは暗闇に沈んでいて位置が分からない。箭は次から次へと飛んできて、しゃがんでいても背中や肩、あちこちに刺さる。頭や背中は安めとは言え甲冑があるのでまだ、耐えられるが、このままではここで死んでしまうぞ。
「レオ!伝令!桐一に増援を頼んでこい!梅隊には周辺に展開して警戒するように伝えろ!」
「了解!」
立ち上がらないように土塁の斜面にいく。
椎隊の方でも同じような命令が出されたようだ。
斜面を滑り降りて、宿まで走る。
「敵襲!敵襲!」
大声で警戒を呼ばわるのは忘れてはいけないな。でもこれが結構きつい。普段の行軍で大声をだしながら走るのはこれのためだな。
普段の訓練で手を抜いているとこういうところで響くんだろう。きついことはきついけれど、宿までで息を切らしたなんてことはなかった。
俺たちの宿が見える。ヴルド旧市街はまだ、開いている飲み屋などがあるのだろうか、うっすらだが街灯りがある。
「敵襲!」
宿の角を曲がると、待機部隊が出てくるところだった。
「敵襲です!数不明。ヘンス隊長は、梅には周辺に展開して警戒を、桐一には増援をといっていました」
「分かった」
増援に向かおうとすると、奴らが門を避けて入ってくるところに出くわす。
「ウッギャラッラ〜〜!」
相変わらず何言ってるのか分からん。盾で棍棒を受けるが、偉い痛い。ああ、矢が刺さったままなのか。こりゃ痛い。
ちきしょう、これじゃ増援にいけないじゃないか。
この距離じゃ、槍は無理だ。よろめきながらも槍を置き、剣を抜く。数はほぼ互角らしい。激しい剣戟が聞こえる。
適当に当たりをつけて剣を振るが、あたらない。空振りを二度、三度。逆に棍棒の一撃が痛い。
あ、そうか。奴らは身長が低いんだ。くそ。
見えないとこういう時に厳しいな。
「ギャ!ギャ!」
うるさいわ。
腿とか結構きつい。焦る。痛みでクラクラする。
「ギャッ!」
下を狙って振った剣が当たった!手応えを感じるが、あたっただけに近い。
ここで巻き返す!
いてて。
くそ、こいつも慣れていやがるのか。
奴らを足止めしているとも言えるが、こっちも足止めされている。くそ、今度は空振りした。奴らは夜目が利くのか?
ヘンス隊長は大丈夫だろうか。
「ギャッ!」
気がつくと奴が頽れた。手が空いたのか、奴を倒したジルさんがこっちをみた。
「大丈夫か」
「はい、何とか」
手探りで奴を探す。止めを刺さないと。
こいつか。剣を突き立てると、一声鋭い叫びを上げて静かになった。
ふらつくが、気合いを入れる。桐二の救援にいかないと。
「いくぞ」
ジルさんの号令で皆駆け出すが、正直走れん。腿が痛い。ってか、槍はどこだ。槍を探るためにふたたび膝をついたら、腰が立たない。
救援にいかないと。
桐隊らしい足音は遠ざかってく。
「大丈夫か」
梅隊の人からだろう、声がかけられる。あんまり大丈夫じゃない。
手探りで槍は見つけた。うん、まだいける。いけるはずだ。
「だ、大丈夫です」
ヴルドの夜はまだ長そうだ。




