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第三十四話 主人公、二度目の遠征に従軍するのこと。その三 敗走

越えていく丘の頂からゴブリン達の陣をみてみるが、総勢はついに確認できない。複数いたのは確かだが、全員並んでこっちを挑発するなんていうことはない。うむ。目的は本当に俺たちを追い払いたいだけだったのか。


隊長はおれとトールさん、桐一の負傷した三年兵の人は四年兵の人と同期の人が両脇から担ぐ。奴らの石も、谷を渡った斜面までは届かない。投げ下ろしてギリギリ、か。


下りの斜面は厳しい。追撃がないことは分かってはいるが、足下がとにかく分からない。腕を折っただけのヴァルガ隊長はまだいいが、桐一の脚を折った隊員はさぞや大変なことだろう。


斜面を下りきり、川を渡れば野営地だ。ここまでたどり着ければあとは・・・。とにかく負傷者二名を寝具に寝かせ、野営の準備に取りかかる。本来なら数日がかりで周辺の地図作りだがそれどころではない。二人ともウーウー唸っていてうるさい。


テントが設営できたらとにかく負傷者をそっちに移す。でも、骨折なんかしていてそのまま放置して治るんだろうか。


「副隊長。二人とも骨折していますが、手当ってのはどうするんですか?」


「お前は何かできるのか?」


「いえ・・・、自分は医者ではありませんし・・・」


「なら、できることをしろ」


ふむ・・・。なるほど。

東京だったら、ギプスとかつけるんだよな。あれは変に動いたりしないように、だろうか。折れるだけでも超痛いだろうに、それが固定されてないとしたらムチャクチャ痛そうだな。とりあえず棒でもくくりつけて、折れたところだけでも固定した方が良さそうだな。


ヴァルガ隊長はめんどくさいから後回しにして、桐一の三年兵の人。ええと、ラグさん、か。こっちはとにかくもう起き上がれないので、周辺の木から適当な枝をとってきて、道具のロープでくくりつける。包帯があればいいのだが、ヴルド軍にはまだ、それだけの医療技術はない。実際、オレの知るファンタジーと違って、ヴルドはほとんど「中世より前」だ。城郭建築は確かに大規模だが、それだってオレのみる目がないだけで、実態はボロボロかもしれないじゃないか。なんにしても木をくりぬいた甲冑なんて、みた事無い。


さすがに折れた足を棒にくくりつけるのは三年兵の人も大騒ぎ。ギャーギャーうるさいったらありゃしない。


あー、うるさい。

って、考えてみたら、三年兵だからおれと同年代じゃないか。つい先輩だからと目上意識を持ってしまうが、実際はっきり目上だと言えるのは隊長と副隊長だけじゃないか。とはいえ、軍で階級は絶対だ。下手を打てば戦闘中に後ろから刺されるかもしれん。それはいやだ。


棒にくくりつけたら最後にテントの梁から足を吊す。なんだか分かんないけど、確か事故ったバイク仲間が入院してたとき、天井からギプスで固めた足を吊ってたんだよね。意味は分からんけど。


ラグさんの処置を終えたら、とたんに静かになった。腕折ったときも首から吊ったりしてるけど、あれって意味あるのかね。


次はヴァルガ隊長。桐一の四年兵の人に押さえてもらって、こっちも腕を棒にくくりつけ、ラグさんとは違って腕は首から吊った。


暴れたせいで変な角度になっていたが、それは魔法を使った。そう、もうすっかり忘れかけていたが、こっちの世界には魔法がある。それで力任せでもあるが、変な角度にだけはならないように、骨と骨をしっかりあわせた。もちろんその上でしっかり固定する。魔法ではさすがに骨の固定はできないが位置をしっかり合わせることには使えるはずだ。腕が変に曲がったら、やりにくいしな。


けが人二人にかかり切りになっていたら、日がすっかり傾いていた。しまった!


昼飯を食べ損ねたよ。


昼用のパンと夜のスープを食べ始めようかという頃、クラッグ隊長の蓼隊が野営地に現れる。いやこっちもボロボロじゃないか。


当然のようにクラッグ隊長が重傷。他にも骨折2名、死者1名。負傷者が四名だったら、部隊の移動さえままならないから、こう言ってはなんだが一人が死者でよかった。蓼隊は全滅どころか、実態は壊滅・玉砕だ。

元気な奴にテントと食事を任せて、とりあえず骨折者の手当だ。


クラッグ隊長は額を切って出血している。これはやばいぞ。誰か酒持ってきてないかな。


あー居た居た、ヘンス副隊長も好きだなー。まずは傍の川でとった水を焚き火で沸かして冷やし、その水で傷口を洗う。汚れを落としたら今度はヘンス副隊長の持ってきた麦酒を口に含んで吹き付ける。


しばらくして楓体の敗残兵がついて、野営地はもの凄いことになった。

楓は重傷2名、軽傷1名。ただし、帰ってこれたのは負傷者3名を含む5名だけ。5人が死んだか行方不明で、それに隊長まで含まれていた。ほぼ楓一が壊滅したと言える。


もうこの日は負傷者の手当と生存者の食事だけで完全に暮れてしまった。野営地はもう負傷者のうめき声が響くほどで、さながら野戦病院の体をさらしている。


無事だった俺たちはもうてんやわんやで、翌朝の陽が出る頃にはふらふらになっていた。負傷者が軽傷者も含めて8名。無傷のものが16名。死者、行方不明が6名。戦果としては一方的な敗戦だった。無事なものが半数居ることは確かだが、いかんせん負傷者が多すぎる。負傷者の介助をしながらの撤退では、軍としての行動は期待できない。


翌朝の「軍議という名の反省会」では、各隊長による「罪のなすりつけあい合戦」をみることとなった。ヴァルガ隊長がでかい顔をしているが、正直、醜い。隊長のいうとおりにしていたら桐だって損害は他の隊と正直変わらなかっただろうに、どうしてそこまで態度がでかいのか。


可哀想なのが楓の副隊長だ。どうせ他の隊も指揮は桐と似たり寄ったりだろうし、副隊長に指揮責任はないだろう。隊長が逸り狂って突撃、自滅ってパターンはうちと大差ないはずだ。年長者のクラッグ隊長も忌々しげにヴァルガ隊長をみているが、正直戦果の面で言い返すことができない。


こりゃあ、ヴルドに帰ってからもう一揉めありそうだ・・・。嫌だ嫌だ。


昼前に楓の負傷者がもう一人たどり着いた。軽傷者だったが、夜で道を見失い、今になってしまったという。死者・行方不明者は5人に減り、負傷者が9名に増えた。


移動の困難な重傷者が桐1名、蓼2名、楓2名。こちらの移動に10人をとられる。移動が困難ではない重傷者が桐1名、蓼1名。こちらに1名ずつ2名。残り6名はこれら搬送隊の荷物を持っていく。一人で数人分の荷物になる。これはこれで相当しんどい。


当然行きほどのペースが出せる訳もなく、ヴルドの北門をみるには更に三日の日程を要し、用意していった食料が無くなる寸前だった。


帰還してみてから思ったのだが、一日ほど移動してから伝令を出して、救援要請をすればよかったんじゃないか。クラッグ隊長に睨まれたくないから口には出さなかったけれども。

ヴルド正規軍は蛮族に敗北した。

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