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第三十三話 主人公、二度目の遠征に従軍するのこと。その二 敗北

ほぼ丸一日行軍して、以前も泊まった広場に野営することになった。前回と違ってずいぶん小規模なので、結構寂しいし、俺たちの仕事も多い。とうぜんヴァルガ隊長とヘンス副隊長はクラッグ隊長達と軍議をしている。日が暮れる前に雨が降ってきた。


歩哨にたった俺は、結構降られた。兜のおかげで頭は濡れないが、体の方は結構濡れてくる。染みこんでしまう前に蓼隊の人と交代した。テントに戻って服を脱ぎ、火にあたって体を乾かす。他のみんなは荷物からポンチョのような雨具を出して上に羽織っていく。


夕食は前回のような失敗はない。きちんと火が通る大きさに切ってある。明日の昼食用のパンも焼いてある。


それにしてもこの広場は割と安全だな。こう毎回駐屯しているのだから、もう少し警戒されそうなものだけど。


夕食時には隊長から明日以降の説明があった。明日からは十人隊ごとに分散してマッピングに入る。少しずつ領域を拡大しながら、だ。周辺地形については口頭で説明されるが、正直よくわからん。山をぐるっと回ってとか、ここの杉の木がどうのとか、でっかい岩があってそこを右とかいわれてもなぁ・・・。スマホは便利だよなぁ・・・。


夜間の見張りは無しという事になった。いいのかと思うが、意外と面倒な上に、交代時間が分からんとか、こんな雨で攻撃するゴブリンはないとかでなくなった。いいのか?


翌朝、雨は上がっていたが、雲はまだ厚い。個々の隊ごとに野営を片付けていく。あたりが明るくなる頃には出立の準備は整った。隊ごとに何となく出発していく。桐一が先行し、桐二が後続だ。隊長が先頭に立ち、副隊長が殿。いいのか?


なんかこう言うところに日本の常識とか通じないものを感じるね。日本の常識は世界の非常識って、誰が言ったんだっけ・・・?


野営地からは俺たちはまっすぐ北上するっぽい。方角が何となくって言うのがなんとも・・・。野営地からちょっと行くとすぐに川があった。ゴブリン村の脇にもあったな・・・。

何となく生活の跡とかが流されてきたら、探索の助けになるんじゃないかとは思ったが、黙った。河を渡る。


鞭聲べんせい粛々夜河を渡るってなんだっけ?いや、朝だけどさ。川を越えたらすぐ丘だ。靴のテストも兼ねてるので、おそるおそる登る。変な病気で死にたくはない。


あ、変なのを踏んだ。茅かな?足元を見たら、何かの動物の死体だった。骨が見える。怪我しなくてよかった。

隊長達に続いて、えっちらおっちら頂上に着いた。見晴らしはいい筈なんだが・・・。これはあかん、春の朝靄あさもやだ。


隊長と副隊長は周囲を見渡しながら、ナイフで木片に何かを刻んでいる。これが地図か、地図なのか?全く読めるような気がしない。刻み込んでは今後の探索方向について、二人で話あっている。10分ほども話したら決まったようで下りはじめる。


これがまた厄介だ。周りの草がボウボウ伸びていて、足下が見えにくい上に周辺の地形も分かりにくくて予想もしにくい。知らない山だと登る方が楽なのか。


山肌を下って谷に出る。ふむ。ちょろちょろとした水流が川と名乗るのも申し訳ないと言わんばかりにささやかに、右手、東側の沿岸部へ流れていく。ウーン。この海岸線の方が探索として急務なんじゃないかなぁ・・・。少なくとも海岸線なら街道の開拓もしやすいような気がするし。どうなんだろうか。


隊長と副隊長はここでもまた木片を刻んでいる。左手西側には山があるはずだが伸びた草でろくに見えない。ここの地図を作るなんて、なんて無謀な。


ふたたび目の前の丘を登りはじめる。高さは大してないが、やっぱり楽な訳がない。


中程まで登ったところで、あたりに不気味な声が響き渡った。


「侵入者共よよく聞け!」


この甲高い声はゴブリンだ。だが、ふしぎなことに聞き取りにくいとはいえヴルドの言葉を喋っているぞ。


「何者だ!」


「お前達は我らの領域を侵そうとしている!」


会話がかみ合ってねえな・・・。


「これ以上進むようなら、我らは実力でお前達を排除する」


う、これは去年、山賊の砦を攻めたゴブリンの逆パターンじゃないか。まあ攻め込まれたからって攻め込んで良いかって言えば、それはそれでどうなんだという気はするが、まあそれを奴らに言われたくはない。


「俺たちは探索が目的で、戦闘をしようとは思わない」


「ならば尻尾を巻いて帰るがいい。それ以上進まなければ手出しはしない」


「そういう訳にはいかない。戦闘は目的ではないが、武装はあるし、進むことも命令されている」


隊長、マジっすか。いくらゴブリン相手でも、戦闘が不利すぎませんか。


「ならば死ぬがいい」


言うなりかなりでっかい石が飛んでくる。あたらなかった。あたらなかったがあれはヤバイ。声は一人(?)分しか聞こえないが、実際に何人いるのかは分からない。一人だったとしてもこの一人は2〜3人を殺せるだろう。最終的に残った人間でこの一人を制圧できるかもしれない。たぶんできるだろう。


でも、その「殺されてしまう2〜3人」になるのは俺はいやだ。酒場のあの子の顔を思いだす。そういえばまだ、名前も聞いていない。


く去るがいい!」


まだ警告のようで、俺たちの頭部ではなく、立っている側を狙って石が落ちてくる。なんだこいつ、ゴブリンのくせに狙いが正確だ。こうなりゃ隊長の判断が俺たちの生死を分ける。

隊長、引き上げましょう!


あ、もちろん声には出さない。心の声って奴?


「総員、戦闘用意!」


あああー・・・


まずは盾を掲げて投石に備えよう。あとは衝撃で転げ落ちないように足場の確保か。砦を攻めたゴブリンのイメージがどうしてもある。闇雲に登ろうとしてもダメだ。


「登れー!」


「おおー!」


まじかー。確か俺の前は誰もいないはず。最悪誰かが落ちてきて巻き添えを食らうことはない。

いや、これは凄いぞ。結構石が飛んでくる。一人二人の投石じゃない。盾の隙間から上を覗いてみたら、右の方で隊長が登ろうとしている。ダメだろあれは。いくら命令だからってこれはダメだろ。


「隊長!危険です!これ以上は無理です!」


「馬鹿者ー!貴様前進せんかー!うわ!」


ほらいわんこっちゃない。隊長の真下には入らずに、滑り落ちてきた隊長が止まったところで盾をかざしながら駆け寄る。


「隊長大丈夫ですか!」


「ヴルド軍人たるもの、この程度でなにをいうか。貴様、前進せんか」


いやいや隊長、もう腕折ってますやん。戦闘続行できませんて。


「副隊長!腕を折ってます!退却命令を!」


「馬鹿者!うう。。。」だからほら無理だって。


「誰か!一人じゃ隊長をおろせません!助けを!

副隊長!」


「撤退!」


助かった。隊長の介助には桐一から四年兵の人が駆け寄ってきた。だだをこねる隊長を二人がかりでおろしていく。


「さっさと去るがいい!侵入者共!わっはっは!」


「なんだと!」


あー隊長はいいからいいから、じっとしてようねー。それにしても芝居がかったセリフだったな、ちきしょうめ。


あいた!谷まで降りてきたのに投げやがって!クソ!


「馬鹿者!ヴルド軍人たるもの、蛮族如きに後れをとってなんとするか!とって返してとっとと奴らの首でも刎ねてこないか馬鹿者!」


「副隊長」


「あー・・・。とりあえず、隊長が名誉の負傷で戦闘続行不可能と判断し、一時的に指揮を預かる。

全員集合だ」


集合してみたら、桐一にはもう一人負傷者が出ていて、こちらは脚を折っていた。ヴルドの怪我は命に関わる。それに負傷者が二人いると介助に二人ずつ必要だから、合計6人が戦闘不能だ。死亡ならまだしも、負傷者では見捨てて戦闘する訳にもいかないだろう。


それにしてもゴブリンのくせにいくさの上手い奴がいたものだ。ゴブリンのくせに、ゴブリンのくせに、ゴブリンのくせに。


野営地までの道のりはやけに長かった。

レオはヴルド軍で初めての敗戦を喫した。

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