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第三十一話 主人公、ヴルド軍の改革を始めるのこと。その一 軍靴

一晩開けて、スッキリシャッキリ市内巡回に出る。桐二は俺とブッシさん以外の三人が二日酔いだ。桐一も何人か怪しい。なんだこりゃ。


いつもの酒場については今は考えないでおこう。あの子の事をつい考えちゃうし、どうせしばらく非番はない。俺たちが出征していた分、他の隊が休み無しで勤務にあたっていたんだから、その分は取り返さないと。


桐一と分かれて市内巡回をする。今日もヴルドは平和だ。春の日差しが心地いい。


途中で喧嘩してるおっちゃん二人を仲裁するが、冷静になったらお互いに謝りあってた。ウンウン。今は人間同士でいがみ合ってていい時代じゃないからね。


それにしても、ヴルドの靴って改善必要じゃね?ただでさえ兵力不足なのに、野戦でいちいち行動不能が一割も出ていたら、堪ったもんじゃないぞ。

しかもこういっちゃ何だが、あの茅を踏み抜いた奴はそのあと熱が出て、二人死者が出た。一人は化膿して脚を切断する羽目になった。まだ五人ほど寝込んでいる。戦闘でのけが人、死者がいないのにこれは大問題だろう。


サンダル履きゃいいような気もするが、それだと足裏以外が保護されない。普通の靴の上から、サンダル履くって方法もあるけど、それは抵抗があるよなー・・・。俺だって微妙だもん。



上の空で巡回や訓練をこなしながら、数日が過ぎた。


ちなみに、受け身については桐隊でも採用された。野戦での使用には注意が必要ではあるけれど、それでも受け身を知らないよりは知っておいた方がいい。ヴァルガ隊長はそう判断した。


靴の改善に悩み続けたが、こうしたらどうだというアイディアは何となく固まった。脚底の強化にサンダルがいい。脛などは靴というか、ブーツがいい。ただ、ブーツとサンダルを両方履くのはかっこわるい。


そうしたらだ。俺がはいているブーツみたいに、ブーツの足裏にサンダルを縫い付けたらどうよっていうわけだ。自分が履いてるのにここまでひらめかないっていうのも我ながら鈍いと思うが、まあ、それはそれ。


とりあえず寝る前の時間を使って作ってみる。


数日かけてできた試作一号ブーツ。


履いてみる。うむ。まあまあか・・・。ちょっと足裏の縫い付けが違和感ある。まあいい、これで一日勤務と思ったがダメだった・・・。


ブーツと底を縫い付けた糸が切れた。靴底は結構柔らかくしたとは言え、もとはサンダル。それとなめし革のブーツを縫い付けるのに、普通の縫い糸では力不足だった。


ウムム・・・。

革が縫い付けられる糸か・・・。こっちではどんな糸があるのか。最初に使った服用の縫い糸。これは当然アウトだ。

川や海での漁に使われる網。これではごつすぎる。

鎧や兜は大雑把な作りで、丸木をくりぬいて、要所要所に鉄板や革が張り付けてある。縫っているところはないな・・・。


・・・?革?


これどうやって貼ってある?


あー・・・。木の鎧ににかわを塗って貼り付け、縁のところはあて革をして縫い付けてるのか。これだこれ。

縫い付ける木の鎧には元々穴が開けてある。


痛んで捨てるばかりになった鎧の中から縫い目の痛んでいないものを選んで一領譲り受け、縫い糸をほぐしていく。


靴底の縫い目は革を縫い付ける事を考えて、鎧と同じように開けておく。これでブーツを膠で貼り付け、鎧糸で縫い付ける。


膠が十分乾いたのを確認してから履いてみる。足首や膝下、足の甲などはブーツの革紐でしっかり締める。


どうかな。


足音がちょっとカポカポいうけれど、履き心地は悪くない。明日の巡回に使ってみよう。


一つ問題発見。

安全性を考えて足裏を厚めにしたせいで、やたら目立つ。ただでさえ頭一つでかいのに、更に抜きんでる身長になってしまった。東京じゃそれほど背は高くないのに、こっちに来たらまるでのっぽさんだ。


まあいい。実害はない。


うん。俺に関していえば、よくなった気がしない。元々ウォーキングブーツ履いてるしな。


とりあえず食事のときにでもヴァルガ隊長に相談してみよう。


「隊長、すんません」


「なんだ」


「俺たちが今履いている靴なんですが、この間の遠征で思ったんですが、改善が必要だと思うんです。

「今回のように、脚を踏み抜いては怪我でリタイヤとか、報われません。そこで、靴の底にサンダルを縫い付けたものを作ってみました」


「なるほど。で、どうだった?」


「いや、実はそれがよくわかりません。俺は元々こういう底がある靴を履いていたので、今回の遠征まで大して気にしてなかったんです。ところが今回、ただ進軍しているだけで相当脱落し、あまつさえ死人まで出たとか言うじゃないですか。これを放置していたら、いつまで経ってもヴルド軍の充実は成功しません」


「解った。とりあえずこれを桐隊全員分用意しろ。まずは俺たちで試してみてから、調子よければ上にいおう」


「よろしくお願いします」


よかった。とりあえず隊長が却下してくれなくて。なんにしてもあれだけ気をつけた新兵の保護が、行軍しただけで台無しになるわけだからな。


今年の初年兵は30人前後だが、そのうち8人が既に戦力外だ。割合にして1/4。これは相当なダメージと言える。特に行軍中となると、騎兵隊を除けば兵科は関係ない。歩兵だろうが弓兵だろうが死ぬときゃ死ぬって事になる。例年こんな事をやってたんなら、隊長だって、他の隊員だって他人事じゃないだろう。みんな多かれ少なかれ、同期を行軍で失っているはずだ。


いずれにしてもヴルドの装備は俺のファンタジーっぽいイメージからみても古くさい。木をくりぬいて革と鉄板を貼っただけの鎧兜とか、あり得ない。中世っていったらもっとこう、鉄の全身鎧とか、お侍の金ぴか鎧とかじゃねえのか?


今度はその辺も改善しないといかんかな・・・。

いや、まずは靴の量産だ。とりあえず自分の分も入れて10足。あ、一足はあるのか。




桐隊の面々から手助けしてもらって、何とか10足揃えた。途中からは「自分の靴は自分で」みたいになって、量産というよりはほとんどセミオーダーの自作になっている。

この間、ふと気がついたら全然酒場に行っていなかった。そう言えば、ゴブリンの目も忘れていた。


俺にはそう言うところがあるのかもしれないな・・・。


試作の結果は上々で、とにかく「自分で仕上げた」ところが各自気に入ったようだ。ヴァルガ隊長によれば、工兵隊とも相談して上申し、順次採用される事になったそうだ。


特に好評だったのが「自分で仕上げる」ところで、幼い奴の多いヴルド正規軍では、受け入れやすかったのかもしれない。



そんなわけでヴルド市の内外では、にわかに軍靴の響きが賑やかになった。


ちなみに、靴は甲冑や盾、槍とは違って武装ではない装備のため、一般のヴルド市民でも真似する人が出てきたのは書いておいていいだろう。



しまった。こんなことなら特許を出願するんだった・・・。ってユーラに愚痴ったら「何それ」だって。ちきしょう・・・。この世界に特許はないのかよ!あわよくばどこかのファンタジーみたいに、異世界知識を「発明だ」っていってぼろ儲けしようと思ったのに・・・。発明自体がないのかよ!


ちなみに、工兵隊長からはちょっとしたお小遣いをもらった。一杯飲んだら終わってしまうぐらいのお金だけれども・・・。


まあ、一杯飲んで良しって事にしておこう。って言うか、酒場のあの子は一体何なんだろう?

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